音の求道者が初めて挑んだライブ録音

細野晴臣がライブ・アルバム『あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019』を2021年2月10日にリリースした。

細野晴臣 『あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019』 ビクター(2021)

 これは2019年6月に行われたアメリカ公演の模様を音源化した、細野のソロ活動を通して初となるライブ・アルバムだ。これほどのキャリアを持ったミュージシャンがいままで一度もライブ・アルバムをリリースしていないというのは意外な気がするものの、音作りに対する彼の並々ならぬこだわりを考えれば、それにも納得がいく。

細野の音へのこだわりは、ソロ・デビュー作『HOSONO HOUSE』(73年)の頃から見られるものだ。『HOSONO HOUSE』は、ザ・バンド『Music From Big Pink』(68年)やジェイムズ・テイラー『One Man Dog』(72年)といった作品の芯の太く乾いたサウンドとデッドな音響に触発された細野がその再現を目指して作り上げた、日本における最初期の宅録アルバムである。そしてその後も細野は、エキゾチカや民族音楽、テクノ、アンビエント、エレクトロニカ、そして自身のルーツであるブギウギと、さまざまな音楽を取り込んで柔軟に姿形を変えながら、しかし一貫して音に対する偏執的なこだわりを持って、活動を続けてきた。

そのように作り込みを重んじる細野にとって、常に不完全な表現であることを余儀なくされるライブをそのまま録音するというのは、いささか抵抗を感じる行為であったことだろう。そもそも彼は以前、ライブそのものがあまり好きでなかったとインタビューで告白している。

しかし細野は今回、初めてライブ・アルバムの制作に着手し、その成果を世に問うた。そこにいかなるきっかけがあったのか、ファンとしてはあれこれ考えたくなるところだが、それはどこまで行っても推測の域を出ない。だからいまはただ、彼が生み出した幸福な果実である本作を堪能したい。

 

職人的なミキシング&マスタリングで際立つ鮮やかな演奏

さて、本作を一聴してまず驚かされるのが、その圧倒的なまでの音の良さだ。細野のヴォーカルはもちろん、バンド・メンバーである高田漣のギター、伊賀航のベース、伊藤大地のドラムス、野村卓史のキーボードと、それぞれの楽器の音がくっきりと立っている。これは細野本人によるミキシングとマスタリングの賜物であると考えられる。おそらく彼は、オリジナル・アルバムを制作する際の姿勢や方法論をライブ・アルバムにも注ぎ込むことで、そのクォリティーを極限まで高めようとしたのだろう。

『あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019』収録曲“Sports Men”
 

だがいくらミックスが素晴らしかろうと、肝心の演奏がダメでは話にならない。本作の見事な出来栄えは、あくまでプレイヤー各人の確かな演奏技術と、彼らの阿吽の呼吸があってこそのものである。

バンドはすべての曲において息の合った素晴らしい演奏を聴かせてくれるが、その中でも筆者が白眉だと感じたのが、“薔薇と野獣”から“住所不定無職低収入”、“CHOO CHOO ガタゴト・アメリカ編”に至る流れだ。これらのアレンジはいずれも『HOCHONO HOUSE』(2019年)に収録されたヴァージョンをほぼ踏襲したものだが、生楽器のみで演奏されることにより、楽曲に内在していたファンクネスが浮き彫りになっているように感じられる。かつてグルーヴの追求に飽きてコンピューター・ミュージックに傾倒した細野が、長い年月を経て、いままた生演奏が醸成するグルーヴの上で弾むように歌っている。そのことを実感させる一連の流れは、聴いていて胸に迫ってくるものがあった。