天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今朝Twitterを開いたら、チック・コリアの逝去が報じられていてびっくりしました」
田中亮太「ジャズ/フュージョンを代表するキーボーディストのチック・コリア。9日にがんで亡くなっていたそうですね。マイルス・デイヴィスのバンドや自身のグループであるリターン・トゥ・フォーエヴァーでの活躍など、ジャズ史に大きな功績を残した偉大なミュージシャンでした」
天野「日本のミュージシャンと話していてチック・コリアの名前ってよく挙がるので、現在も強い影響力を持っている音楽家なんですよね。ご冥福をお祈りします。別の話題です。7日に開催されたスーパーボウルのハーフ・タイム・ショーでのウィークエンドのパフォーマンスには興奮しましたね! 『House Of Balloons』(2011年)でデビューした頃からずっと聴いているアーティストなので、ちょっと感動しちゃいましたね……。さらに、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが音楽監督として参加していたと。驚きました」
田中「ウィークエンドは製作費用の7億円を自己負担した、ということも話題になりました。太っ腹……。パフォーマンスはYouTubeで観られるので、ぜひチェックを。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. Lil Tjay feat. 6LACK “Calling My Phone”
Song Of The Week
天野「この一週間、地味にいい曲は多かったのですが、正直に言って〈これだ!〉というものがなかったような気がします。というわけで、〈SOTW〉にはリル・ティージェイと6LACKのコラボレーション・ソングとして話題の“Calling Phone Call”を選びました」
田中「リル・ティージェイは故ポップ・スモークの“War”に客演していて、同曲を〈PSN〉で紹介したときに触れました。本名はティオーネ・ジェイデン・メリット(Tione Jayden Merritt)。米NYサウス・ブロンクスの出身、現在19歳のラッパーで、“F.N”(2019年)のヒットで知られています。2019年にデビュー・アルバム『True 2 Myself』を、2020年にドリルにフォーカスしたEP『State Of Emergency』をリリースしました。後者はブルックリン・ドリルの盛り上がりを受けたものでしょうね」
天野「いちばん有名なのは、たぶんシカゴのポロ・Gのヒット・ソング“Pop Out”(2019年)への客演だと思います。まだまだ若手ですが、前述のポップやYG、フレンチ・モンタナ、リッチ・ザ・キッドなどとの共演で名を馳せています。ちょっと幼い、甘い歌声が特徴的で、声を聴くと彼だと一発でわかりますね。で、近々リリースされる予定のティージェイの新作『Destined 2 Win』からのシングルであるこの“Calling Phone Call”は、僕が大好きなアトランタのシンガー、6LACKが客演しています」
田中「かなりダウナーで甘いムード、チルでリラクシンな遅いテンポ、削ぎ落とされたトラップ・ビート、それにリリカルなピアノが特徴的ですね。ティージェイと6LACKの歌声に合ったものだと思います。プロデューサーは、G・ライ(G Ry)、ボールドウ(Bordeaux)、ノン・ネイティヴ(Non Native)の3人。ピッチを高くしたコーラスがなんだかクセになります。リリックは過去の恋人との別れや次のステップに進むことを歌っていますね」
天野「〈I can’t get you off my mind now〉というフレーズのループは、未練を感じさせますよね。6LACKの〈Get a mood swing〉というラインはポップとティージェイの共演曲“Mood Swing”(2020年)への言及なので、そこに〈おっ〉となりました」
2. Liz Phair “Hey Lou”
天野「2位です。リズ・フェアのニュー・シングル“Hey Lou”。2019年の“Good Side”から1年4か月ぶりの新曲で、メディアでは〈約2年ぶり〉と報じられていたので〈もうそんなに経ったっけ?〉とびっくりしてしまいました」
田中「“Good Side”は当連載で紹介しましたよね。そのときも話したとおり、90年代を代表するシンガー・ソングライターである彼女は、現在のシーンで活躍する女性SSWたちに強い影響を与えている存在です」
天野「まさに、リズ・フェアっていま話題の〈わきまえない女〉なんだと思うんです。セックスについてなんでもかんでも生々しく歌ってしまう、という。ぜひ名盤『Exile In Guyville』(98年)を聴いてほしいです」
田中「そんなリズ・フェアの新曲は、曲名からもわかるように、2013年に亡くなったルー・リードへのトリビュートが込められたものです。アコースティック楽器のふくよかな音色を活かしたロックンロールになっていて、そのあたりもルー・リードの音楽が念頭にあったのかな。さらに、パペットを使ったカヴァー・アートやミュージック・ビデオを観てもらえればわかるのですが、彼の妻ローリー・アンダーソンへの敬意も含まれた一曲。〈ルー&ローリー〉に捧げられているんですね」
天野「偉大なロックンローラーのルー・リードについては説明不要だと思いますが、ローリー・アンダーソンは知らない方がいるかも。彼女は現代音楽、実験音楽の文脈における電子音楽のパイオニアで、パフォーマンス・アートやマルチ・メディアのアーティストとして広く活動しています。アヴァンギャルドな要素をポップに持ち込んだ先駆者であり、『Big Science』(82年)などアヴァン・ポップの名盤を遺していますね。2018年にはクロノス・クァルテットとのアルバム『Landfall』をリリースしていました。ルー&ローリーはとてもNYらしい、NYという街を象徴するアーティストですね」
田中「Pitchforkが指摘しているとおり、“Hey Lou”の歌詞には『Big Science』収録曲でローリーの代表曲である“O Superman”への言及やアンディ・ウォーホルの名前が出てきます。プレス・リリースには『2人の音楽レジェンドの人生を想像させる曲です。彼らの結びつきは、ロック・バンドへのインスピレーションとロマンを貫き通す好奇心の源をもたらしてくれました』とリズ自身の言葉がありますね」
天野「“Hey Lou”は次作『Soberish』からのシングルとのこと。いつまで経ってもなかなかリリースされず、なんと11年ぶりのアルバムになってしまいました。今年こそリリースされることを祈っています」
3. Ebhoni “X-Ting”
天野「3位は連載初登場の新鋭、エボニーの“X-Ting”です。エボニーはカナダ・トロント出身のR&Bシンガーで、17歳のときに自主制作のEP『Mood Ring』(2017年)をリリースしています。浮遊感のあるR&Bサウンドと深みの歌声、ラップ風のフロウで注目されました」
田中「Instagramなどのプロフィールに〈ホット・ギャル〉と書いているのがいいですよね(笑)。2019年のシングル“TGM”以降はダンサブルなビートで積極的に歌っていて、昨年の“MIA”や今年の“Hit This”はかなりダンスホール・レゲエ風です」
天野「“Hit This”を手がけているのは、ダンスホール系のビートで最近注目されているマイアミのプロデューサー、イジービーツ(IzyBeats)ですね。今回の“X-Ting”もダンスホール/アフロビーツ風で、プロデューサーはメルナ(Merna)と、チーフ・キーフとの仕事で知られるLAのDP・ビーツ(DP Beats)。DP・ビーツは殺人未遂の容疑をかけられたこともある、ちょっとヤバい人(笑)。トラップのビートも組み入れながら、ギターのサウンドなどからはアフロビーツっぽさを感じさせます。ちなみに、曲名の〈ting〉とはカリブ系のスラングで〈thing〉の意味。というのも、エボニーはカリブ系だそうで、昨今のルーツ回帰やダンスホールの潮流を受けて自身のルーツを打ち出すようになったのでしょうか。以前よりも、いまの音楽性のほうが僕は好きです。あと、〈元カレが電話をかけてくる〉という歌詞が偶然1位の“Calling My Phone”と共振していて、ちょっとおもしろいと思いました」
田中「デュア・リパは“New Rules”(2017年)で〈元カレの電話に出ちゃダメ〉と歌っていましたが、エボニーは着信に応じたのでしょうか(笑)。“X-Ting”は今年リリースされるデビューEPに収録されるようですね。変化を遂げたエボニーの音楽を聴くのが楽しみです」
4. Gabriel Garzón-Montano feat. Jamila Woods “Someone (Armando Young Remix)”
田中「官能的なアーバン・ソウルを作り出すNYのシンガー・ソングライター、ガブリエル・ガルソン・モンターノ。彼が発表した“Someone”のリミックスを4位に選びました。もともとは2020年作『Agüita』に収録されていた楽曲です。新たにジャミーラ・ウッズをフィーチャーし、アルマンド・ヤングがリミックスを手掛けています」
天野「モンターノの『Agüita』、愛聴しています。リズムがゆったりとしていて、ジャズ・バラードっぽい雰囲気があった原曲も良かったんですが、このリミックスはちょっとビートが強くなっていて、ほのかにダンサブル。リミックスを手掛けたアルマンド・ヤングについてはあまり情報がなくて、はっきりとしたプロフィールはわからなかったのですが、彼自身の楽曲を聴くかぎり洒脱でアーバンなR&Bを得意としているプロデューサーのようです。なので、ヤングらしいサウンドに仕上がっている、と言えるのかもしれません」
田中「ボサノヴァ × レゲトンとでも言えそうな、軽やかに跳ねたリズムが素晴らしいですよね。ゲスト・ヴォーカルに招かれたジャミーラ・ウッズの凛とした歌声と、モンターノの少しウェットな声質がいい感じに好対照になっていて、すごく魅力的。このデュエットでもう何曲か聴きたい、なんて思いました。そして、よく考えたら、この2人はジャグジャグウォー(Jagjaguwar)のレーベル・メイトなんですね!」
5. Yves Jarvis “Projection”
田中「今週最後の曲は、イヴ・ジャーヴィスの“Projection”。彼はカナダのモントリオールを拠点にしているSSWです。と言っても、恥ずかしながら自分はこの曲を聴くまで彼の音楽をチェックしていなかったのですが、もともとはアン・ブロンド(Un Blonde)という名前で活動していたそうですね」
天野「そのようですね。アン・ブロンドは、ソウルとサイケデリック・ロックを融合させたローファイなフォーク・サウンドが高く評価されていました。このイヴ・ジャーヴィスという名義は、これまで以上に彼自身の音楽を探求するため、2019年に生まれたそうです。これまでに『The Same But By Different Means』(2019年)、『Sundry Rock Song Stock』(2020年)と2作のアルバムを発表しています」
田中「過去の作品を聴くと、イヴ・ジャーヴィスの音楽はアン・ブロンドで取り組んでいたものの延長線上にありつつ、よりディープなサイケをめざしている印象です。とはいえ、難解だったり実験的すぎたりはせずに、基本は良質な歌モノとして仕上げられています。この“Projection”は、手数の多いバタバタとしたドラムとエキゾティックなギターが耳に残りますね。英語とフランス語を混ぜたヴォーカルも魅惑的。魔訶不思議な雰囲気のポップです」
天野「ローファイなんだけど妙にファンキーだし、本当に独特な音楽を作っていますよね。パラパラ漫画のようなMVもおもしろい。iPhoneで撮影した映像をプリントアウトして作成したのだとか。ジャーヴィスはこの曲について、『ドグマへのおんぼろな拒絶、先端に向かって粘り強く転がっていく』と語っています。〈定型化されたものではなく、ユニークな音楽を作りたい〉という彼の意志を表したものではないでしょうか。今後の活躍が楽しみなアーティストです」