天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。〈FUJI ROCK FESTIVAL ’22〉の開催が発表されましたね! 昨年は国内のアーティストだけが出演しましたが、今年は3年ぶりに海外のアーティストが招かれるそうです。まだラインナップが発表されていないので、楽しみですね」

田中亮太「安全に開催されることを祈るばかりです。先週、音楽シーンで大きな話題になったニュースは、Epic GamesがBandcampを買収し、BandcampがEpicの傘下に入ったことです。Epicは、アーティストがバーチャルライブなどを行っていることでも知られるシューティングゲーム『フォートナイト』で有名な会社ですね」

天野「Bandcampといえば、〈Bandcamp Friday〉に象徴されるアーティストファーストの姿勢を貫くプラットフォームであり、インディペンデントなアーティストから愛されてきた唯一と言っていいマーケットプレイスなので、今回の買収にはアーティストからの懸念の声が多かったですね。今後Bandcampがどうなっていくのかは、注視が必要だと思います」

田中「Epicのゲームカルチャーやメタバースと音楽が結びついて、両者の間に有機的でポジティブな繋がりが生まれるといいですよね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

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Bartees Strange “Heavy Heart”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はバーティーズ・ストレンジの“Heavy Heart”です! 本当にアツい、拳突き上げ系のロックナンバーですね。エモやハードコア譲りの疾走感と熱を帯びた演奏、力強いホーンの響き、胸を打つメロディーと歌詞が感動的で、聴いていると目頭が熱くなります……」

田中「そんなにですか(笑)? バーティーズ・ストレンジことバーティーズ・レオン・コックス・Jr.(Bartees Leon Cox Jr.)は、89年、イングランドのイプスウィッチ生まれ、米オクラホマ州ムスタング育ちのシンガーソングライターです。以前は米ブルックリンのポストハードコアバンド、ステイ・インサイド(Stay Inside)などで活動し、バラク・オバマ政権や環境保護の運動にも携わっていたのだとか。ソロアーティストとして活動を始めたのは2017年頃で、2020年にナショナルの曲を再構築したEP『Say Goodbye To Pretty Boy』とアルバム『Live Forever』をリリース。『Live Forever』はPitchfrokが〈Best New Album〉に選ぶなど、高く評価された作品でしたね」

天野「いきなり現れた印象だったので、〈何者なのだろう?〉と思っていました。そんなバーティーズ・ストレンジが、前作の成功を経て名門4ADと契約。その第1弾のリリースとして、この“Heavy Heart”を発表しました。ちなみに、“Heavy Heart”のミュージックビデオの監督はマネキン・プッシー(Mannequin Pussy)のマリサ・ダビース(Marisa Dabice)。このあたりの繋がりもおもしろいですね」

 

Kevin Morby “This Is A Photograph”

田中「2曲目はケヴィン・モービーの“This Is A Photograph”。5月13日(金)にリリースされる彼のニューアルバムのタイトルトラックが、リードシングルとしてリリースされました。これはモービーにとっての新境地と言える曲ではないでしょうか!」

天野「アーシーで滋味深いフォークロックというこれまでの彼の特徴を引き継ぎながら、ギターとベースリフのループを重ねて、独特のサイケデリックな雰囲気を作り出していますよね。特に中盤から入ってくるグルーヴィーなドラムが効いていますし、かなり攻めた曲に仕上がっています。〈アメリカーナダンス〉と呼びたい新鮮さです」

田中「このドラムはかなりダンサブルですよね。アルバムのクレジットを見ると、なんとマカヤ・マクレイヴン(Makaya McCraven)がドラマーとして参加しているようです。“This Is A Photograph”でも彼が叩いているのでしょうか。なお、アルバムとこの曲は、モービーの父親が病気を患った際に家族写真を眺めていたことがインスピレーションになったそうです。アルバムでは、アメリカの若い家族が抱く夢とその行く末が歌われているのだとか。かなり聴き応えのある、かつ芳醇な内容になっていそうですね」