天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。日本時間では今朝、第64回グラミー賞授賞式が開催されました」

田中亮太ジョン・バティステが年間最優秀アルバム賞を含む5冠を獲得。年間最優秀レコードと年間最優秀楽曲にはシルク・ソニックの“Leave The Door Open”、最優秀新人賞にはオリヴィア・ロドリゴが輝きました。ビリー・アイリッシュやBTSらのパフォーマンスも素晴らしかったですが、ロシアからの侵攻に苦しむウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領によるスピーチ映像が印象深かったです」

天野「また、国内では、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’22〉のラインナップ第1弾が発表されました。ジャック・ホワイトとホールジーがヘッドライナーに決定していて、さらにジャパニーズ・ブレックファースト、フォンテインズD.C.、アーロ・パークス、スーパーオーガニズム、シドなど、いま観たいアーティストの名前がずらりと並んでいます」

田中「個人的にはフォールズの出演が嬉しいですね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

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Harry Styles “As It Was”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉は、ハリー・スタイルズの2年半ぶりの新曲“As It Was”です。2017年のソロデビュー以降、“Watermelon Sugar”(2019年)などのヒットを飛ばしているハリー・スタイルズについては、〈現在活動休止中のワン・ダイレクションのメンバー〉という説明は不要ですよね。そんな彼が、待望のニューアルバム『Harry’s House』を5月20日(金)に発表。同作からのファーストシングルとして、この“As It Was”がリリースされました」

天野「プレスリリースによると、〈一旦は自分を見失ったものの、再発見し、みずからの変化を受け入れるハリーの、複雑ながらも喜びと希望に満ちた心情を表現した、パーソナルなラブソング〉だそうです。この曲は、アーハの“Take On Me”(84年)を思わせる80sポップ風のシンセサイザーリフが印象的で、シンプルなドラムビートと浮遊感にあふれたドリーミーなサウンドプロダクションが特徴ですね。最近のザ・ウィークエンドの作品に通じるところもあります。とはいえ、リリックはヘビー。特に、〈電話に出る/『ハリー、一人でいるのはよくないよ/どうして家の床に座り込んでいるの?/何のピルを飲んだの?』〉という自己言及的なラインが耳に残りました。過去の痛みを明らかにしながら、それを受け入れて未来へと前進していくんだ、という曲だと思います」

 

Flume feat. Caroline Polachek “Sirens”

天野「2曲目は、フルームがキャロライン・ポラチェックをフィーチャーした“Sirens”。フューチャーベースの顔的存在の一人であるプロデューサーと、ここ最近はハイパーポップ人脈と絡むことの多い人気シンガーとのコラボレーションということで話題の1曲ですね。ポラチェックの新曲“Billions”にも参加していたダニー・L・ハール(Danny L Harle)が、ここでも作曲家/プロデューサーとして名を連ねています」

田中「この“Sirens”は、ハイパーポップ的なノイズやグリッチが効果的に使われつつ、ベースミュージック然とした低音の鳴りやグルーヴを保持した作りになっていますよね。異ジャンルのちょうど狭間にあるかのような、とても先鋭的でおもしろいサウンドです。ポラチェックのホーリーでどこか浮世離れしたボーカルも相性ばっちりで、まさに曲のタイトルを〈セイレーン〉と解釈するなら、海の精の歌声のようです。この曲の歌録りの最中、彼女はロックダウン下のロンドンで1人暮らしをしていて、とても孤独を感じていたそう。その頃によく耳に入ってきていた救急車のサイレンが、インスピレーション源になったとも語っています」

天野「なお、フルームは、この“Sirens”や“Say Nothing”を収録する5月20日(金)にサードアルバム『Palaces』をリリースします。楽しみですね」