天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。まずは週末に届けられた訃報からお伝えしなければなりません。フー・ファイターズのドラマー、テイラー・ホーキンス(Taylor Hawkins)が亡くなったことがバンドからの声明で3月26日に発表されました。死因はまだ調査中ですが、コロンビア検察局は10種類の薬物の痕跡が体内から検出されたと報告しています

田中亮太「サードアルバム『There Is Nothing Left To Lose』(99年)の制作前にバンドの加入して以降、フー・ファイターズの屋台骨を支え続けたホーキンスは、そのパワフルなドラミングはもちろん持ち前の陽性のキャラクターでデイヴ・グロールと並ぶバンドの顔というべき存在でした。自分はフー・ファイターズの熱心なファンとは言えないのですが、それでも10代半ばの頃から聴いてきたバンドのメンバーの死はなかなか受け止めづらいです……。ラーズ・ウルリッヒトム・モレロら多くのミュージシャンが追悼コメントを発表。リアム・ギャラガーは26日のロンドン、ロイヤル・アルバート・ホールでのライブで“Live Forever”をホーキンスに捧げました

天野「ご冥福をお祈りいたします。別の話題では、日本時間の本日、第94回アカデミー賞の授賞式が開催されました。作品賞に『コーダ あいのうた』、国際長編映画賞に『ドライブ・マイ・カー』が選ばれたことが話題ですね」

田中「音楽関係では、ビヨンセなどがパフォーマンスしたほか、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌“No Time To Die”でビリー・アイリッシュとフィニアスが歌曲賞を受賞。クエストラヴ監督の『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』に長編ドキュメンタリー賞を贈られたことも話題ですね。さらに、『DUNE/デューン 砂の惑星』が音響賞や作曲賞を含む最多6冠を獲得しました。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

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Soccer Mommy “Shotgun”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はサッカー・マミーの“Shotgun”です。サッカー・マミーは、米ナッシュビル出身のシンガーソングライター、ソフィア・レジーナ・アリソン(Sophia Regina Allison)のステージネームですね。これまでにリリースした『Clean』(2018年)『color theory』(2020年)という2作はいずれも高く評価されていて、インディーロックのリスナーであればご存知の方が多いはず。そんな彼女が、サードアルバム『Sometimes, Forever』を6月24日(金)にリリースするとアナウンス。最初のシングルとして、この“Shotgun”が発表されました」

天野「1作目の素朴でローファイなインディーロックから、2作目のドリーミーでウェルメイドなサウンドへと少しずつ変化を遂げてきたサッカー・マミーが、今回はなんとワンオートリックス・ポイント・ネヴァー=ダニエル・ロパティンをプロデューサーに迎えたとのこと。OPNっぽい80s風のシンセサイザーが印象的な“Shotgun”は、退廃的なSF調の世界とローファイやシューゲイズが出会ったかのようなおもしろいサウンドです。〈アッパーズ(ドラッグ)と私の心は噛み合わない/落ちちゃうのは嫌いだった/でも、これって悪いことなんて何もないかのような感じ/あなたが望むなら、いつだってそばにいる/私は発砲されるの待っているショットガンのなかの弾丸〉……。トキシックな恋愛関係を歌っているのでしょうか? アルコールと甘いものを同時に摂取することを歌う2バース目も、かなり危険なにおいがします。一方で、メロディーはすごく甘くて切ない。そんな対比が活きた見事なプロダクションに心を掴まれましたし、サッカー・マミーの新たな挑戦から目が離せないなと思いました」

 

Fontaines D.C. “Skinty Fia”

天野「2曲目はフォンテインズD.C.の“Skinty Fia”。4月22日(金)にリリースされるサードアルバム『Skinty Fia』の表題曲にして、同作から3曲目のリードシングルです。先にリリースされた“Jackie Down The Line”と“I Love You”は、もちろんかっこいい曲なのですが、これまでのフォンテインズの路線を引き継いだうえで洗練させた曲、という印象でした。でも、この“Skinty Fia”は、これまでとはまったくちがう。サイケデリックでヒプノティック、なおかつダンサブルなサウンドで、痺れましたね」

田中「グリアン・チャッテン(Grian Chatten)のまるで魔術をつぶいているかのようなボーカルが実に蠱惑的ですし、インダストリアルな質感のドラム、メタリックなギターがかっこいい。ギタリストのコナー・カーリー(Conor Curley)は新作の影響源にプライマル・スクリームの『XTRMNTR』を挙げていましたが、それも納得できる鋭利で不穏なサウンドに仕上がっています。ちなみにアルバムタイトルにもなっている〈Skinty Fia〉という言葉はアイルランド語で〈鹿の天罰〉を意味するようで、失望や苛立ちを表すんだとか。この曲を経て、サードアルバムががぜん楽しみになってきました」

 

Fireboy DML “Playboy”

田中レックス・ライフ・ラジマドンナ21・サヴェージなど、最近米英のアーティストたちとよく共演しているファイアボーイ・DML。『Laughter, Tears And Goosebumps』(2019年)『Apollo』(2020年)とアルバムをリリースするたびに存在感を増していき、いまやナイジェリアのアフロビーツシーンを代表するスターに上り詰めたと言っていいでしょう」

天野エド・シーランが客演した昨年​の“Peru”のリミックスのヒットが大きかったですね。そんなファイアボーイ・DMLの待望のニューシングルは、バーナ・ボーイのレーベル〈Aristokrat〉と契約しているナイジェリアのプロデューサー、ビザウチ(Bizzouch)が手がけています。軽やかでセクシー、なめらかでソフト、レゲエのニュアンスも強い浮遊感たっぷりのアフロビーツナンバーで、内容は〈俺みたいなプレイボーイと遊びたいだろ?〉というもの(笑)。とはいえ、〈LAからヒューストン、NYC〉へというラインにあるとおり、USツアーを経てこれからUKにも向かう彼の自信が感じられる曲ですね」