天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴のものを紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。ロシアからの侵略によって多数の犠牲者が出ているウクライナを支援する動きが、音楽界で広がっています。キュアーは、チャリティーTシャツを販売しました

田中亮太「3月29日(火)には、英バーミンガムのリゾート・ワールド・アリーナでチャリティーコンサート〈Concert For Ukraine〉が開催。エド・シーラン、カミラ・カベロ、グレゴリー・ポーター、スノウ・パトロール、エミリー・サンデー、マニック・ストリート・プリーチャーズ、ナイル・ロジャーズなど、豪華なアーティストの出演が発表されています

天野「また、アメリカでは、ナンシー・ペロシ下院議長がホワイトハウスでU2のボノの詩を朗読したことが話題になりました。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領を聖パトリックにたとえた詩ですね。とにかく、ミュージシャンたちの祈りや寄付などの現実的な活動が、ウクライナに、そしてなによりもロシアに届いてほしいと思っています。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

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Arcade Fire “The Lightning I, II”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はアーケイド・ファイアの新曲“The Lightning I, II”です。前作『Everything Now』(2017年)の発表から5年、ついに待望のニューアルバム『WE』を5月6日(金)にリリースするとのことで、かなり話題になっていますね。この曲は、同作からのファーストシングルです。アーケイド・ファイアは、3月14日に米ニューオーリンズで、18日と19日にNYCでウクライナ支援のためのサプライズライブを行ったことでも注目されましたね」

天野中村明美さんがTwitterに動画をアップしていましたが、ライブ後、マルディグラスタイルで演奏しながら街を練り歩いたそうですね。ライブを観られた人がうらやましい! そして、この困難な時代に戻ってきたというのも、アーケイド・ファイアらしいです。プロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチと初めてタッグを組んだ新作は、〈孤立に対する恐れや寂しさ〉を表現した〈I〉と〈再び繋がりあうことへの喜び〉を表した〈WE〉の2部構成になっているのだとか。この“The Lightning”も2パートに分かれていて、アコースティックギターやピアノの音色が印象的なゆったりとした“I”から疾走感あふれる“II”へとなだれ込んでいきます。初期のバンドを思い出させるサウンドがまた感動的で、『Reflektor』(2013年)や『Everything Now』とはちがう音楽を志向していることが窺えますね。希望と絶望の間で引き裂かれながらも一筋の光が差し込んでくることを待ち望んでいるようなリリックも素晴らしくて、“I”の〈僕たちは楽園に生まれた 毒まみれの空の下〉、“II”の〈何が光をもたらすんだ?〉というラインが象徴的。なお、フロントマンのウィン・バトラーの弟で長年メンバーだったウィル・バトラーが、バンドから脱退したことを発表しました。『WE』の制作には携わっているようですが、とても残念です……。とはいえ、いまはこのアメリカのロックシーンにおける最重要バンドの帰還を喜びたいですね」

 

Brave Girls (브레이브걸스) “Thank You”

田中「2曲目に紹介するのは、韓国のガールズグループ、Brave Girlsの“Thank You”です。2011年から活動しているので、移り変わりが激しいK-Popの世界ではもはやベテランと言ってもいい4人組ですが、昨年“Rollin’ (롤린)”がヒットしたことで一躍脚光を浴びた、遅咲きのスターです。この“Thank You”は、6作目のミニアルバム『THANK YOU』のタイトルトラックですね」

天野「Brave Girlsは、K-Popグループの常で、メンバーの脱退と加入を繰り返していて、オリジナルメンバーはもう所属していません。ヒットに恵まれない苦難の道を歩み、解散の危機に瀕していたなか、昨年、韓国軍の慰問公演での“Rollin’ (롤린)”のパフォーマンス動画がバズって大ブレイク。数々の賞を受賞して、その後も“We Ride (운전만해)”や“Chi Mat Ba Ram (치맛바람)”などの話題曲を連発したんですよね。しかし、今年の初めに現リーダーのミニョンが活動を休止。再び危機に陥っていましたが、今回ミニョンと共にカムバを果たしました。復帰曲“Thank You”は、そんな大変だった過去の状況を感じさせない、軽快なディスコポップですね。BTS“Dynamite”(2020年)以降の流れを感じさせる楽しくダンサブルな曲で、特にブギーなテイストがいい感じ。ラブソングですが、〈あなたにありがとうと言いたい〉というリリックは、〈チャート逆走〉を果たした彼女たちを支えてきたファンに向けられた言葉のようにも思えます」

 

Ethan Gruska & Bon Iver “So Unimportant”

田中「3曲目はイーサン・グルスカとボン・イヴェールによるコラボ曲“So Unimportant”。ジャスティン・ヴァ―ノンのプロジェクト、ボン・イヴェールは説明不要かと思うので前者について紹介しておくと、グルスカはLA出身のシンガーソングライター/マルチインストゥルメンタリスト。姉バーバラとのベル・ブリゲイド(The Belle Brigade)というバンドでの活動を経て、2017年にソロデビューをはたしています。映画音楽の大家、ジョン・ウィリアムズの孫としても知られていますね」

天野「グルスカはフィービー・ブリジャーズやブレイク・ミルズなどの作品にも関わっていることもあり、昨今のUSインディーのキーパーソンのひとりとも言えます。今回のコラボは2020年の3月にヴァ―ノンがLAに来ることが予定されていて、その際に何か共同制作をしようと話していたことからスタートしていたそうです。ただし、コロナ禍によりヴァ―ノンの訪問自体がなくなったことで、リモートでの制作になったんだとか」

田中「6/8拍子の優雅なリズムと室内楽的なストリングスを配した実に美しい楽曲に仕上がっていますよね。グルスカの優しくてウォームな歌声に、ヴァ―ノンならではのデジタルクワイアーなエフェクトがかかっていて、すごくホーリーな雰囲気を醸しています。最近あまり元気がないので癒されました……」