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City Lights ©Roy Export S.A.S

このうえなく贅沢な映画体験、ウットリするほど感動的な音楽体験

ところで当時は、アル・ジョルスン主演の「ジャズ・シンガー」(1927年)の公開によってトーキー時代の幕が開き、映画界全体がトーキー路線をひた走り始めていた頃。それに対してチャップリンは懐疑的な立場を表明しており、劇伴と音響のみが入ったサウンド・ムーヴィーとして発表された本作でも彼は、言葉を用いることなくモーションとミュージックを駆使しながらエモーションを喚起する演出にこだわり抜き、執念のほとばしりを感じさせる名シーンをいくつも産み落とした。例えば花売り娘と出会うシーンでは、343回ものNGを出し、理想的なカットを撮るために1年近くもの期間を費やしたという。いやはやまったく恐れ入るばかりだが、タイトルバックに記された〈Comedy Romance In Pantomime〉からは、そんな彼の揺るぎない基本姿勢と決意表明が透けて見えてくる。

「街の灯」でチャップリンが花売り娘と出会うシーン

ユーモアとペーソスの詰まった人情喜劇であり、献身的でピュアな思いを描いた恋愛ストーリーでもあり、さらに大恐慌の嵐が吹き荒れていた世相を如実に反映させた社会風刺映画でもある「街の灯」は、笑いあり涙あり、そしてほろ苦い後味も残すというチャップリン表現の粋を集めた傑作であり、〈マチノヒ〉と呟くだけで心にポッと灯かりがともる、ってシネフィルも少なくないと思うが、そんなチャップリンの大活躍ぶりをゴージャスで迫力満点なオーケストラ・サウンドが盛り立てていくのだから、もうたまらない。巨大スクリーンに映し出されるスラップスティックなアクション・シーンやロマンティックなラヴ・シーンがどこまでも旋律を伴って、活き活きと躍動し、また華麗に浮かび上がる。それはこのうえなく贅沢な映画体験であり、ウットリするほど感動的な音楽体験でもあるのだ。

 

鮮明な映像と作曲家チャップリンが思い描いた音の再現

映像は〈チャップリン・プロジェクト〉としてフィルムの修復作業を引き受けているチネテカ・ディ・ボローニャ監修による2Kデジタル・リマスター版を使用、あらゆるカットが驚くほど鮮明になっている。

新日本フィルハーモニー交響楽団

そしてもうひとつの主役であるオーケストラ・サウンドについて。ここで使われるスコアは、実際の録音作業の際に使用されたオリジナル版を忠実に復元したものであり、当時チャップリンが残していたメモなどを用いて新たに譜面を作成している。音のクォリティーに関して言えば、これまでの劇場公開版やテレビ放映版と比べると、当然ながら情報量がまったくの段違い。大編成のオーケストラが紡ぎ出すダイナミックな響きや繊細なタッチの美しい音色が画面全体を豊かに彩り、作曲家チャップリンがきっと思い描いていたに違いない理想的な音響空間が構築されていく。

竹本泰蔵

今回コンダクターに着任したのは、国内外で活躍する指揮者、竹本泰蔵。彼といえば、映像付きコンサート・シリーズをいくつも企画していることで知られており、その筋の第一人者にして達人ともいうべきお方。まさに適任といえよう。

山高帽子にどた靴姿のチャーリーが画面からはみ出さんばかりに暴れまわる痛快な場面や、“La Violetera”の優雅な旋律がスクリーンを瑞々しく満たしていくときめきの瞬間とまた再会できるのか、と考えただけでいまからワクワクしてしまう。暖かい春の幕開けを飾るのにこれほどステキなイベントもそうはないだろう。バスター・キートン派も、ハロルド・ロイド派も、3月17日は錦糸町に集合されたい。

“La Violetera(すみれの花売り娘)”

 


EVENT INFORMATION
新日本フィルの生オケ・シネマ vol.5
チャップリン《街の灯》

2021年3月17日(水)東京・錦糸町 すみだトリフォニーホール
開場/開演:17:30/18:15
出演:竹本泰蔵(指揮)/新日本フィルハーモニー交響楽団
主催:公益財団法人墨田区文化振興財団(すみだトリフォニーホール指定管理者)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)/独立行政法人日本芸術文化振興会
https://www.triphony.com/concert/detail/2020-04-004118.html

■チケット
一般/ペア/高校生以下:5,000円/8,000円(2枚1組)/1,000円(全席指定/税込) ※ペア・高校生以下券は、トリフォニーホールチケットセンター・プランクトン・新日本フィル チケットボックスのみで取り扱い
すみだ区割(区在住在勤)/すみだ学割(区在住在学の小・中・高校生):4,000円/1,000円 ※すみだ区割・すみだ学割は、トリフォニーホールチケットセンターの電話・店頭のみで取り扱い
一般発売:2021年2月20日(土)

■お申込み・お問合せ:
トリフォニーホールチケットセンター:03-5608-1212(10:00~18:00)https://www.triphony.com
プランクトン:03-3498-2881(平日13:00~18:00)http://plankton.co.jp

■プレイガイド
チケットぴあ:0570-02-9999(Pコード:193-170)https://t.pia.jp/
ローソンチケット:0570-000-407(Lコード:31360)https://l-tike.com/
新日本フィル・チケットボックス:03-5610-3815(平日10:00~18:00/土曜日10:00~15:00)
e+(イープラス):https://eplus.jp/
カンフェティ:0120-240-540 https://www.confetti-web.com/
楽天チケット:http://r-t.jp/triphony(日本語/English)

■視覚障がい者向け音声ガイド
FM送信システム/受信用ラジオの貸し出しをいたします。音声ガイドの利用は着席エリアが限定されるため、ご予約時にお申し出ください。
ご予約:トリフォニーホールチケットセンター/プランクトン

■トリフォニーホール託児サービス
お申込み・お問合せ(小学館集英社プロダクションHAS):0120-500-315(平日10:00~17:00)

※都合により公演内容の一部が変更となる場合がございます
※未就学児のご入場はご遠慮ください
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、チケットのご購入、ご来館の前にホールのオフィシャルサイトの〈重要なお知らせ〉をご確認ください

 

FILM INFORMATION
街の灯(City Lights)
完璧主義者として知られるチャップリンが監督・制作・脚本・編集・主演、そして初めてみずから音楽を担当し、製作に3年の月日をかけ完成させた、映画史に燦然と輝くサイレント映画の大傑作。大爆笑のボクシング場面や涙なしには見られない映画史上屈指の感動的なラスト・シーンなど、いまなお世界中の人々を笑いと涙で包み込むチャップリンの芸術の結晶を堪能しよう!

あらすじ
放浪紳士チャーリー(チャールズ・チャップリン)は、ある日、街角で盲目の花売り娘(ヴァージニア・チェリル)と出会い、その美しさに魅せられ一目惚れしてしまう。彼女はその男が金持ちの紳士と思い込んでしまう。娘の前では優しい紳士を装っていたチャーリーは、花売り娘の家が貧しくて家賃を滞納しており、明日までに払わないと家を追い出されてしまうことを知ってしまう。さらに、目の手術代も必要。なんとか娘を助けたいチャーリーはお金を作ろうとするために悪戦苦闘を繰り広げる……。

監督・製作・脚本・主演・音楽:チャールズ・チャップリン
アメリカ初公開:1931年1月
日本初公開:1934年1月
上映時間:86分
使用映像:チネテカ・ディ・ボローニャの修復による2Kデジタル・リマスター版
(日本語字幕付/視覚障がい者向け音声ガイドサービスあり)

 


PROFILE: 新日本フィルハーモニー交響楽団
72年、指揮者・小澤征爾のもと設立。すみだトリフォニーホールを本拠地に定期演奏会や墨田区内の学校での音楽指導など、地域に根ざした活動も行う。クラシックの演奏会以外にも、久石嬢とのプロジェクトやジャズなど多ジャンルのアーティストとの共演など、意欲的に新しい音楽性を探求している。2016年より指揮者・上岡敏之が音楽監督に就任。

PROFILE: 竹本泰蔵
77年に開催された〈カラヤン・コンクール・ジャパン〉でベルリン・フィルを指揮し、第2位に入賞。カラヤン氏に招かれて、ベルリンを中心に研鑚を積む。帰国後は全国の主要オーケストラに客演し、クラシック・コンサートはもとより、オペラ、バレエ、ミュージカル、また映画音楽、ポップスやロック・アーティストとの共演、ゲーム・アニメ音楽など、ジャンルを超えて活躍中。特に映画音楽分野での活躍はめざましく、これまで数多くの映画音楽を積極的にコンサートで取り上げている。生演奏と映像をシンクロさせた〈ファンタジア シネマ・ライヴ〉公演(91年)など歴史的なコンサートにも名を連ねており、映画音楽のレコーディング曲数はすでに100曲を超えている。自身の企画・構成による〈映像付コンサート・シリーズ〉では、「ローマの休日」など往年の名画や、ディズニー映画「ファンタジア」、「トムとジェリー」などを取り上げ、各地で展開。全国各地で好評を博している。