インタビュー

小松亮太が語る、ミシェル・プラッソン&新日本フィルと共に新たな命を吹き込んだ新作『ピアソラ:バンドネオン協奏曲 他』

ミシェル・プラッソンが触媒となって結実した小松亮太と新日本フィルとの融合がここに

 今年はアストル・ピアソラ生誕100年という節目の年なので、それをきっかけにしたアルバム再発企画もいくつか実現しているが、それとは全く違った意味で大きな意義を持つプロジェクトが結実した。それが小松亮太とミシェル・プラッソン指揮の新日本フィルによる『バンドネオン協奏曲』だ。

小松亮太 『ピアソラ:バンドネオン協奏曲 他』 ソニー(2021)

 これまでもオーケストラとの共演だけでなく小編成ヴァージョンなど、さまざまな形でこの曲に挑んできたが、今回の録音はその中でも決定版というべきだろう。溢れるスピード感、バンドネオンとオーケストラの絶妙なバランス。聴いていてゾクゾクする仕上がりだ。

 「この曲は鋭さを出さないと中途半端に聞こえてしまう曲でもあるので、そこは意識しました。ピアソラさん自身の演奏もボクなりに引っかかる点はありましたし、ピアソラさんの自作自演には無かった良さが出ないと意味がないですから。僕なりの演奏ができたと思います」

 協奏曲ということはバンドネオンだけが張り切っても成立しないが、おそらくピアソラが書き上げた当時、苦労したであろう事を小松はこう推測する。

 「(協奏曲は)指揮者やオーケストラとの相性もありますから。彼自身、オーケストラと一緒に演奏することに慣れていなかっただろうし、指揮者もオーケストラも当時は曲についての情報があまり無い状態。いきなり合わせて上手くいかなかったこともあったでしょうね」

 協奏曲の中でも珍しい楽器との組み合わせだから難曲となったともいえるだろうが、今回それを見事にまとめ上げることができたのは、指揮をしたミシェル・プラッソンの力量というべきだろう。

 「ミシェルさんは普段トゥールーズのオーケストラを監督されているのですが、トゥールーズは国宝級のタンゴ歌手であり、ソングライターでもあったカルロス・ガルデルの、いくつか説のある生誕地の中で最有力と言われている場所です。そのせいかミシェルさんにとってタンゴはそれほど遠くないものだったようですし、ピアソラの生前、度々ブエノスアイレスにいって彼の演奏も聴いていたそうです。ともかく、オーラが漂っているというか、立っているだけでオーケストラが気分を落ち着かせて、空気が変わる。そんな方でした。この曲を演奏する時はものすごい緊張を伴うのですが、今回はミシェルさんのおかげで楽な気持ちで挑むことができました」

 冒頭で書いた〈大きな意義〉はアルバムの再発がピアソラの存在確認であるのに対し、現代に生きる小松が『バンドネオン協奏曲』をレコーディングしたことが、アストル・ピアソラという作曲家の作品に新たな生命を与えることにほかならないからだ。しかも小松がブエノスアイレスから遠く離れた地に生まれながら、タンゴという音楽に取り組んでいる奏者だという事も重要だ。

 さらにこのアルバムには小松がタンゴ奏者としてのキャリアを積み始めた当時の演奏が収録されていることも特筆すべきだろう。リリース当時には散々聴いた録音だが、いま改めて聴き直すと恐ろしいほどの完成度だ。特にアルゼンチンでも高く評価された藤沢嵐子との“ロコへのバラード”など、まさか10代だとは思えない堂々とした演奏に驚かされる。

「自分でもビックリです。藤沢嵐子さんとの録音はまだ10代、バンドでの録音は22歳の頃でメンバーも若い。それなのにもうこんな音を出していたのかと。僕自身は果たして成長しているのか?とも思いました(笑)」

小松亮太 『タンゴの真実』 旬報社(2021)

 さらにもう一つ大きなトピックスがある。それは著書「タンゴの真実」の出版だ。これがタンゴ初心者には分かり易く、タンゴを色々な意味で誤解していた人には正しい知識を与える内容で、しかも小松が奏でるバンドネオンの誕生に関して、おそらく世界で一番詳しい考察が述べられている。実は小松は文章力もとても高いので、いつかは大掛かりな著書をと思っていたが、ここまで忖度無しの内容になるとは。本書を読まずしてタンゴ、さらにはピアソラを語る資格はないというべき一冊だ。

 小松亮太の最新と最初期の演奏に、さらには集大成とも言える書籍が世に出るというなんとも嬉しいニュースに心が躍っている。

 


小松亮太 (こまつ・りょうた)
98年、ソニーミュージックよりCDデビュー。国内はもとより、カーネギーホールやタンゴの本場ブエノスアイレスなどでタンゴ界における記念碑的な公演を実現している。また、フジテレビ系アニメ「モノノ怪」OP曲“下弦の月”、TBS系列「THE世界遺産」OP曲“風の詩”、サウンドトラックなども多数手掛けている。2015年にリリースした大貫妙子との共同名義アルバム『Tint』は、第57回輝く!日本レコード大賞〈優秀アルバム賞〉を受賞した。

 


LIVE INFORMATION

小松亮太 LIVE INFORMATION
2021年5月15日(土)高崎芸術劇場スタジオシアター・群馬
2021年5月20日(木)ビルボードライブ大阪・大阪
2021年5月22日(土)カルッツかわさき ホール・神奈川
2021年7月3日(土)DMG MORIやまと郡山城ホール・小ホール・奈良
2021年7月10日(土)いずみホール・大阪
2021年8月1日(日)八千代市市民会館大ホール・千葉
2021年9月4日(土)福生市民会館・東京
https://ryotakomatsu.net/

TOWER DOORS