K・ヤルヴィが放つ新感覚の音楽体験「サウンド・エクスペリエンス」日本上陸!
昨年の都響演奏会で指揮したライヒとペルトの作品が大きなセンセーションを巻き起こしたクリスチャン・ヤルヴィ。名門音楽一家ヤルヴィ・ファミリーに生まれながら、クラシックのみならず、ロック、ジャズ、ジプシー、果てはヒップホップまで演奏する掟破りのレパートリーが話題を呼び、音楽監督を務めるMDRライプツィヒ放送響やバルト海フィルの演奏会では完売が続出している。その彼が、すみだトリフォニーホールで全3回の連続シリーズ「クリスチャン・ヤルヴィ サウンド・プロジェクト(KJSE)」を今年から始動させる。
KJSEの目的のひとつは「才能ある20代や30代のエキサイティングな作曲家の紹介」。日本国内のオーケストラ演奏会で若手作曲家の新作が初演される時、その選曲基準は“作曲コンクール受賞者”や“アカデミックな作品”となるのが普通だ。ところがヤルヴィは、そうした基準に全く関心を示さない。ここ数年、彼が積極的に指揮している作曲家はマックス・リヒター、ブライス・デスナー、ハウシュカ、ヨハン・ヨハンソンなど、いわゆるポスト・クラシカル寄りの作曲家が中心だ。その流れを汲む形で、ヤルヴィはKJSEを東京で開催するにあたり、ピアニスト/コンポーザーのフランチェスコ・トリスターノを共演相手に指名してきた。今回、日本初演されるトリスターノのピアノ協奏曲《アイランド・ネーション》は、テクノのリズムを演奏するオーケストラを巨大なリズム・マシーンに見立て、そこにピアノのパートの即興が絡むことで、クラブ的なグルーヴ感を表現していくという斬新な作品だ。
作曲家としてのトリスターノは、彼が敬愛するジョー・ザヴィヌルのように、ある決まったモチーフを繰り返しながら即興的に曲を組み立てていくことが多い。2007年、最晩年のザヴィヌルはヤルヴィ率いるアブソリュート・アンサンブルと共に最後のスタジオ・アルバム『アブソリュート・ザヴィヌル』を録音したが、そのアルバムに大きな影響を受けたひとりが、他ならぬトリスターノなのだ。先頃、彼がリリースした最新アルバム『ピアノ・サークル・ソングス』にも、実はザヴィヌルの偏愛したコードが隠し味のように仕込まれている。奇しくもザヴィヌル没後10年を迎える今年、ヤルヴィとトリスターノの共演の実現は、ザヴィヌルのファンにとっても少ならからぬ意味を持つはずだ。
そして、今回のKJSEのメイン・プログラムとなる《ニーベルングの指環》。ワーグナーのオケ譜を極力いじらず、編成も変えずに《指環》4部作の聴きどころを演奏時間60分に抜粋・凝縮した、オーケストラル・アドヴェンチャーと呼ばれる編曲版だ。日本でも演奏機会が増えているこの編曲版、ヤルヴィに言わせれば「あたかもDJが《指環》をリミックスしたような作品」だという。ただし、クラブでやるのと違うのは、原曲通り、4管編成の16型オケが演奏を担当すること。しかもそのオケが、ちょうど30年前に朝比奈隆の指揮で《指環》演奏会形式全曲初演を果たした新日本フィルであるところが面白い。ある意味で、日本における《指環》演奏の老舗と言えるこのオケが、ヤルヴィのクラブ的なアプローチにどう反応するのか、実に興味深い。
すでにヤルヴィはバルト海フィルを指揮して《指環》のオーケストラル・アドヴェンチャー版を録音しているが、そのセッションは、かつてナチス・ドイツがV2ロケットを開発製造したペーネミュンデ兵器工場で収録されたという。それで思い出すのが、《ラインの黄金》に出てくる鉄床のミニマルな打音をサンプリングし、それをツェッペリン飛行船の建造場面の中で引用したライヒのオペラ《スリー・テイルズ》だ。筆者が確認したところ、ヤルヴィもその引用を充分認識しているという。ライヒの中にワーグナーを聴き取り、ワーグナーの中にライヒを聴き取ること。今回、ミニマルで作曲した新作《ネーメ・ヤルヴィ生誕80年のためのコラール》を引っさげ、作曲家としての側面も披露するヤルヴィならではの、ユニークな《指環》が聴けるに違いない。
LIVE INFORMATION
トリフォニーホール開館20周年記念コンサート
クリスチャン・ヤルヴィ サウンド・エクスペリエンス2017
○11/3(金)14:30開場/15:00開演
会場:すみだトリフォニーホール 大ホール
出演:クリスチャン・ヤルヴィ(指揮)フランチェスコ・トリスターノ(p)*新日本フィルハーモニー交響楽団
【曲目】クリスチャン・ヤルヴィ:ネーメ・ヤルヴィ生誕80年のためのコラール(日本初演)/フランチェスコ・トリスターノ:ピアノ協奏曲「アイランド・ネーション」*(日本初演)/ワーグナー(デ・フリーヘル編):オーケストラル・アドヴェンチャー 《ニーベルングの指環》
www.triphony.com/concert/detail/2016-11-001240.html
公式Twitter:@KJSEatTriphony