その声と歌だけを媒介にして噂が噂を呼んだ瑞々しい個性——アコギの弾き語りカヴァーから心地良く広がっていくピーチフルな世界は、メロウでチルなだけじゃない魅力に溢れている!

先入観なしに聴いてほしい

「私が普通だから身近に思ってもらえてるんだと思います。他のアーティストさんって〈アーティスト〉な感じがあるじゃないですか。私はステージ上でも、MCのときも普段とほぼ変わらなくて、それが身近に思ってもらえてるのかな。たぶんそれが声や歌にも出てるのかなって思います」。

 自分の歌が愛される理由をどう捉えているのか訊ねると、彼女はこう答えてくれた。Instagramに投稿してきたアコギ弾き語りのカヴァー動画で脚光を浴びたkojikoji。2018年末にポストしたBASI feat.唾奇“愛のままに”をきっかけに注目を大きく広げ、以降の活躍は多くの人の知るところだろう。生活感のある素朴にして洒落た佇まいと淡いウィスパー系の歌唱が支持された結果、19年には空音の“Hug”やニューリー“せもたれ”などの人気曲に次々と招かれ、BASIの名盤『切愛』に参加してからはツアー・メンバーとしてコーラス/ギターを担当。昨年は初のオリジナル曲集『127』を発表し、GeGからクボタカイ、春野、ぜったくん、iCE KiD、Hiplin、FARMHOUSE、LUCKY TAPESに至るまで興味深い面々との成果を残してきた。

 ただ、楽曲の心地良さはもちろん、動画の中の姿や歌声が一人歩きして織り成されたイメージが緩やかに浸透していく一方、kojikoji自身のパーソナルな部分はさほど語られてはいない(一人での取材もこのインタヴューが初めてだそう)。それは、純粋に楽曲や歌声が聴かれることを彼女が望んでいるからに他ならないが……ここでは少しだけ彼女の歩みを振り返っておこう。

「もともとは周りの人にバレるのが嫌で、最初はそれで顔を出さなかったんです。それでずっとこのスタイルで投稿していたら気持ちも楽に続けられて。それから弾き語りがどんどん楽しくなって、いろんな人に誘ってもらったりするうちに、顔を出しても出さなくてもいいっていうフェーズに入ったんですけど、わざわざ顔を出さなくても曲を聴いてくれてる人がいるなら、そっちのほうがダイレクトに歌だけを聴いてもらえてる感じがあっていいな、って考えるようになりました。年齢とか出身地も表に出ちゃうと曲の前に背景を想像されちゃうのが嫌で、ただ歌ってる声や曲だけを先入観なしに聴いてもらえたらそれがいちばんいいなって」。

 小さい頃からよく絢香などを真似て歌っていたという彼女は、中高生になるとドリーム・ポップなど洋楽を好んで聴くようになり、そこでウィスパー系の歌唱に触れたことはその後の素地になったのだろう。バンドをやりたかった高校時代は「学校の軽音部が機能してなくて」活動することはなかったものの、大学で入った弾き語りサークルでアコギを始めたことが転機となった。

「最初の頃は1日に3投稿とか平気でしてたんですよ。毎日インスタライブして。とにかく楽しくて、ずっとそんなことをやってました。でも、歌手になるために始めたわけじゃなくて、なれるとも思ってないし、なりたいと強く願ってたわけでもないです。サークルでアコギを初めて弾いて〈私、やっぱり歌うことが好きかな〉と思って、ただずっと好きな曲を歌ってたっていうだけで」。

 当時のアカウントで最初に公開したのは、斉藤和義“歌うたいのバラッド”。繰り返し動画を撮影する過程で、現在の柔らかさを湛えた唱法も定まっていったという。

「インスタで撮って自分の歌を聴いて、撮って聴いてを繰り返してるうちに自分の声質とかそれに合う歌い方がわかってきて。自分の声を聴くのって気持ち悪いじゃないですか(笑)。でもこれは好きかなという声があって、それを全部好きに変えたくてずっとやり続けてたらいまのスタイルになりました」。

 そんな繰り返しのなかで彼女の名を知らしめたのが先述の“愛のままに”だった。

「ずっとカヴァーを上げてた頃にヒップホップのMVを見つけて聴いたら、すごく好きってなって、自分の表現方法でどうにかして歌えないかなって思ったんです。“愛のままに”を載せた時にBASIさんがバラの絵文字を送ってくれて、〈本物ですか!?〉ってすごく嬉しくて――。朝起きたらインスタのフォロワーがびっくりするくらい増えていて、何で?って思ったらBASIさんが私のカヴァーをリポストしてくださってて、それが始まりでした。そこからBASIさんを好きなリスナーさんや音楽関係の方も見てくれるようになって、ジワジワと〈ヒップホップをカヴァーするkojikojiという子がいる〉と認知してもらえるようになった気がします。リスナーの人からも私にオススメの曲や歌ってほしい曲を送ってもらえるようになったんですよ。そのなかに〈空音っていうヤバいラッパーがいるから聴いてください〉って教えてくれる人がいて、聴いたらすごく良くて……そうやって音楽で繋がっていった感じですね」。

 そこからBASIを含む多くのアーティストたちとコラボを経験、その最中でリリースされたのが初のEP『127』だった。

「BASIさんが〈こんなに聴いてくれてる人がいるのに、自分の曲がないのはもったいない〉って言ってくださって。でも私は歌を書きたいって思ったことがないし、やり方もわからないし……でも投稿を見てくれてる人がたくさんいて、期待値が高そうで怖いみたいな話をしたら、BASIさんが〈それだったら自分が書いて作るから歌ってほしい〉って言ってくださって」。