安らぎを感じてくれたら
弾き語りの風情や親密さからいわゆるシンガー・ソングライター然とした彼女の楽曲だが、その詞曲はBASIが担当していて、つまりは彼のフィルターを通して描かれた彼女の姿がリスナーそれぞれのkojikoji像を創出しているわけだ。が、その歌世界がリアリティーをもって響くのは、「自分が自分のことをこう書きたいなって思うような歌詞を書いてくださるので、私より私のことをわかってるような感じですね」と彼女も認める通り、歌詞の世界観とkojikoji自身が一体化して伝わるからだろう。全曲のトラックを東里起(Small Circle of Friends)が手掛けた『127』は、“ほろよい”の人気などもあって好評価を得たが、それがまた彼女へのプレッシャーを大きくすることになった。
「最初の作品の『127』をBASIさんが一緒にやってくださってすごく最高なEPが出来上がったわけじゃないですか。その『127』をリリースして、次はどんな作品にしようかと思った時に、自分の中でハードルが高くなっていて。でも音楽を始めて1~2年で、ありがたいことに沢山の方に聴いていただけたので、その方々の期待に応えられる新しい作品を作りたいなと思って。そう考えた時に、もう一回、BASIさんにお願いしたい、一緒に作りたいと思ったんです。BASIさんは〈待ってたよ〉ぐらいの感じで引き受けてくださって、また制作をすることができました」。
そうして完成したのが、およそ1年ぶりとなるセカンドEP『PEACHFUL』だ。
kojikoji 『PEACHFUL』 BROTH WORKS/FLOPICA(2021)
「私がSNSで桃の絵文字を多用してるんですけど、リスナーの人とかが私にメッセージを送ってくれたりする時に同じように桃を付けてくれるようになって、一種のシグネチャーマークみたいになってるんです。BASIさんが〈kojiちゃんは桃っていうイメージがずっとあるからそれにちなんだ曲を作りたい〉って言ってくださって“もも”が生まれたんです。もともと私が絵文字で桃を使ってる理由が、PEACHってスラングで〈最高〉とか〈調子いい〉とか〈素敵〉みたいな意味があるって知って、この絵文字めっちゃいい!ってなったんですけど、EPのタイトルを考えるときに、最高な気持ちが詰まって〈PEACHFUL〉ですけど、一文字変えたら〈PEACEFUL〉じゃないですか。いまみんなが大変な時なので、このEPを聴いてる間はちょっとでも心が穏やかになって安らぎを感じてくれたらいいなっていう思いを込めて。もちろん“もも”もあるので、まとまる感じがあって『PEACHFUL』にしました」。
基本の制作プロセスは前作と同様ながら、今回は複数のトラックメイカーを迎えて制作されている。
「BASIさんからボイスメモに歌詞とメロディーがついたフリー・トラックの状態で送っていただいて、それを私が好きなキーでギターの弾き語りに起こして、BASIさんとキーを相談しながら進めていく作り方は前作と変わってないです。今回は最初に〈kojiちゃんの色をもっと出したいから同世代のトラックメイカーに頼んでもいいし、自分でやれる範囲のことは全部やってみて〉と言ってくださってて、自然な流れで仲の良いニューリーとか、大学の友達のmarsh willowに頼みました」。
先述の“せもたれ”などで組んだニューリーとの“TASOGARE”は都会的でメランコリックなスロウ。一転してmarsh willow(lo-key design)によるキャッチーなフックも眩しい“VIBES”は「私が頭の中でイメージしてた楽しい雰囲気を伝えてやってもらった」と話す通りの軽快な出来で、制作陣の幅が曲調の幅にも繋がっている。
「例えば“七色の橋の上で”だと、ビートを乗せた後に増谷紗絵香さんにピアノを入れてもらいました。その後トラックを見たらまだ隙間があって、ずっと聴いてるうちにヴァイオリンとかストリングスとか入れたらすごい感動的な歌になるなと思って。私は中高でヴァイオリンを弾いていて、BASIさんも〈これは極上のバラードにしたい〉って言ってたので、それにピッタリ合うのはストリングスかなと思って自分で入れたらいい感じになりました。“もも”はいままで聴いてくれてるリスナーが安心できるような曲にしたいってBASIさんが言ってくださって、ハーモニーを作って厚みを出しました」。
その“七色の橋の上で”と“もも”では彼女も作曲面にインプット。個性のかぶらない4曲のバランスは、アフターアワーズ的なスロウの印象が強いkojikojiのイメージをやんわりと更新するだろう。
「BASIさんが最初から計算してたのかはわかりませんが、結果的にヴァラエティーに富んだ、いろんな面を見せられる4曲が集まりました。最初からいろんなヴァリエーションの曲を見せて、〈kojikojiっていろんな音楽をする人なんだ〉と思ってほしいです」。
そんな瑞々しい『PEACHFUL』を結実させたばかりの彼女だが、その意欲は早くも先へと向かっているようだ。
「いま作ってる自分の曲や客演で呼んでいただいた曲で、ちょっとずつ自分の内側にあるものを言語化するっていうことを学んでいる感じです。だんだん自分で書くのが楽しいって思うようになってきて、ここはこう言いたいとか、こういう音程でいきたいとか、そこになかった自我みたいなのが生まれてきて。いまは自分でどんどんやっていこうっていう気持ちです」。
左から、kojikojiの2020年のEP『127』(FLOPICA)、kojikojiが参加したBASIの2019年作『切愛』(BASIC MUSIC)、空音の2019年作『Fantasy club』(SORANE)、ニューリーとの“せもたれ”を収めたコンピ『CHILLY SOURCE COMPILE VOL.2』(Chilly Source)、lo-key designの2019年曲を収めたシングル『CAREFREE/Ruby』(Kissing Fish)、iCE KiDの20年のシングル『Don't stop trying/Beaytiful』(共にKissing Fish)、LUCKY TAPESの2020年作『Blend』(ビクター)