音を鳴らす人間が変わっていくのだから、サウンドが変わっていくのも必然
――先ほどのお話からすると、一定の時期までは〈FIVE NEW OLDらしさ〉に囚われていたということですか。
HIROSHI「〈どんなものを僕らのアイデンティティーとして掲げればいいんだろう〉みたいな模索は、すごくありましたね。〈ジャンルを越えてかっこいいサウンドを作りたい〉と思っていても、〈ここはロックでここはR&B〉といったふうに分離している感覚があって。やっている分にはいいんですけど、自分たちで作ったものを聴いたとき、ジャンルを越えてひとつになってる感じがしなかったんです」
WATARU「自然にでてきた曲もあるし、自分たちが〈作ろう〉と思ってできた曲もある。そういう部分がチグハグに感じていたし、〈どれも好きな曲やけど、これでいいのかな〉って」
HIROSHI「〈バンドは整合性がなきゃいけない〉とずっと思っていたんだよね。一貫してなきゃいけないというか」
SHUN「ひとつのものを突き詰めたアーティストをみんな好んで聴いていたから、それが自然とFIVE NEW OLDの概念として組みこまれていた気がする。でも、『Emulsification』ではスタンスができあがっていたからこそ、表面上ではチグハグな自分たちを〈これでいいじゃん〉と受け入れられた。
僕らのロール・モデルであるスタイル・カウンシルも、サウンド面で変化していっても精神性は変わらなかったし、ポール・ウェラーにいたってはジャムの頃から変わらずにパンクを表現していた。そういう軸を自分たちも捕まえられたよね」
HIROSHI「養老孟司さんも〈昨日の自分と今日の私は、そもそも別の存在だ〉って、よくおっしゃっていますから。細胞レベルで死んで生まれてを繰り返している時点で全然違う人なわけで、〈昨日の自分と今日の私は一緒だ〉って認識しているのは〈事実〉として残った〈情報〉でしかない。
音を鳴らす人間が瞬間ごとに変わっていくのだから、その時ごとで曲やサウンドが変わっていくのも必然。そうやって考えられるようになったら、逆に1本筋の通ったものが見えてきた」
HAYATO「前だったら〈これとこれは混ざらないでしょ〉って思っていたものを、〈やってみたら楽しそう〉と面白がれるようになったよね。結果的にFIVE NEW OLDの整合性が高まったんじゃないかな」
HIROSHI「実はFIVE NEW OLDって、ちょっと保守的な一面もあるから(笑)。マインドとしてはリベラルなところもあるけど、古きよきものも好きだからレガシーは大切にしたい。
でも、それはあくまで表面的なもので、もっと奥にあることが大事だと僕らは気づいた。4人で音楽できてることがハッピーだし、だったらなんでもいいじゃんって。そんな僕たちが作る音楽をポジティヴに捉えて聴いてくれている人がいると思うと、〈何しても面白そうじゃん!〉って捉えられるようになったんだと思います」
音楽を身にまとうことはアイデンティティーの表現
――今回の『MUSIC WARDROBE』の制作は、タイトルが表すテーマと楽曲のどちらが先だったんですか。
HAYATO「テーマが先ですね。2019年のツアー終わりには話し合いをしていて、〈こういうものが作りたい〉って決まっていたんです。そのテーマに沿った曲を作っていくうちに、こういうことだよねってタイトルが確定した感じ」
HIROSHI「コンセプトの〈ONE MORE DRIP〉についてもう一歩踏みこんだとき、〈やっぱりライフスタイルだ!〉となって。ファッションは自分のスタイルを提示するもののひとつだし、〈今日はどんな私になろう〉って選ぶのはアイデンティティーの表現じゃないですか。音楽もそうやって選ぶ瞬間があると思ったんです。曲を身にまとうというか」
――全16曲もあると、アルバム1枚でどんな自分にもなれる気がします。最初から、このボリュームになる予定だったんですか。
SHUN「最初は10曲くらいって言ってました(笑)」
WATARU「タイアップの曲も外せないし、制作のなかでふわっと浮かんできた曲もいれたい……なんてやっていたら16曲に(笑)。『MUSIC WARDROBE』を作るにあたり、僕とHIROSHIで機材を置けるスタジオのようなスペースを借りたんです。そこに集まって話し合いやセッションをするようになったら、どんどん曲が増えちゃって」
HIROSHI「めっちゃポジティヴなエネルギーが循環していて、曲を作るたびに明るくなってしまうから、アルバム全体のバランスをとるために静かめの新しい曲を足したり。アンビエント・ミュージックは好きで自分でも表現してみたいと思っていたので、いいきっかけになりましたね」
――凄まじい制作スピードだと思うのですが、コロナ禍の影響はなかったんですか。
SHUN「むしろライブが少なくなった分、めちゃくちゃ曲作りに集中できたというか。時間に追われる〈締め切りまでに〉っていうスタンスだと、リモートでデータのやりとりをしていたと思うんですけど、今回は時間も集まれる場所もあったので遊びながら曲作りができた。みんな〈こんな時だからこそ〉って機材を買っていたし、おもちゃを持ち寄って遊んでる感じだったよね」
HAYATO「coldrainのMasatoに参加してもらった“Chemical Heart”のアプローチも、WATARUが〈人間味のあるゆれを録りたい〉って言いだして、サンプリング・パッドに作った音を全部いれて、手作業でビートを作ったんです。普段の僕らだったら、パソコン上でドラムを打ちこんで終了だった気がするな……」