片足を地元に置いておく必要

 これまでに恩師のウィントン・マルサリスとライヴで共演するなど大御所との仕事も多い彼だけに、大物ミュージシャンも参加している。自由の獲得に伴う心の痛みを裏声で泣くように表現する“CRY”は、スティーヴ・ジョーダンのタメの効いたドラムスがゆったりとしたグルーヴを醸成。バックではエミリー・キングも声を重ね、2020年にジョンとの共同名義作『Meditations』を出したコリー・ウォン(ヴルフペック)やロバート・ランドルフもギターで泣きを添える。一方、ニック・ウォーターハウスが制作やギターで関与した“TELL THE TRUTH”は、ジェイムズ・ギャドソンの力強いドラムスとJB's風のホーンが60年代後期に連れ戻すドライヴ感のあるファンキー・ソウル。公民権運動の時代に人々を鼓舞する声となったメイヴィス・ステイプルズのナレーション“Mavis”に続いて、ネイト・スミス(ドラムス)やDJカリル(プログラミング)らに力を借りた“FREEDOM”で表題通りの主張を込めて歌う流れからは、デモを先導するジョンの姿が目に浮かぶようだ。

 「現在の米国に生きる黒人アーティストとして、社会の中でいつも口にしていることをアルバムで語るには、片足を地元に置いておく必要があると感じたんだ」と話すジョンは、自身を育んだNOLAの音楽文化とも向き合っている。18歳だった2005年に父の援護でデビュー・アルバム『Times In New Orleans』を自主リリースしてから、彼はNYで活動しながらも故郷への愛を失ったことはない。NOLAのトレメ地区を舞台にしたHBOのドラマ・シリーズ「Treme」に出演したことも地元との繋がりを示すものだろう。

 名匠ラッセル・エレヴァドも関与したレコーディングは、NYとLAのほかNOLAでも行われ、先行発表していた“I NEED YOU”からNOLA音楽への愛が溢れていた。ジョンがピアノやサックスなどを演奏し、ダブル・ベースの音と共にバック・ビートが煽るこれはファッツ・ドミノのレガシーを受け継ぐようなアップ。低音の語りを交えた歌もユニークだ。“ADULTHOOD”ではピアノ、ローズ、オルガンを操り、裏声も用いてディアンジェロのようなネオ・ソウルを気取るが、途中からタリオナ・ボール(タンク・アンド・ザ・バンガス)が声を交え、終盤でホット8ブラス・バンドが絡んでNOLAの街角に着地する。現代NOLAシーンの顔役とでも言うべきPJモートン(高校の先輩)とトロンボーン・ショーティ(アートスクール時代の友人)を迎えた“BOY HOOD”も地元へのトリビュート。ジャハーン・スウィート(ケラーニ、エラ・メイ他)が作るサウス・ビートに乗ってラップするジョンは、ホット・ボーイズやノー・リミットなどの名前を挙げながらNOLAのフッドで育った青春時代を振り返る。

 リッキー・リードやネイト・マーセローと組んだ“SING”で徐々にカーニバル気分を高め、“UNTIL”でマルディグラ・インディアン・ショウのトライバルな演奏やチャントに合わせてピアノで静謐な音を奏でるエンディングまで、原点を見つめ直しながら力強く前進する『WE ARE』。これは、奥深いNOLA文化をバックグラウンドに持ち、NYで音楽冒険を繰り返してきた彼がさまざまなソースを用いて作り上げたミュージック・ガンボなのだ。 *林 剛

ジョン・バティステの近作。
左から、ジョナサン・バティステ名義の2013年作『Jazz Is Now』(Naht Jona LLC)、ジョン・バティステ・アンド・ステイ・ヒューマンの2013年作『Social Music』(Razor & Tie)、2018年作『Hollywood Africans』、2019年のライヴ盤『Chronology Of A Dream: Live At The Village Vanguard』(共にVerve)、2020年のサントラ『Soul』(Walt Disney)

 

左から、タンク・アンド・ザ・バンガズの2019年作『Green Balloon』(Verve Forecast)、エミリー・キングの2020年作『Sides』(ATO)、ロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンドの2019年作『Brighter Days』(Provogue)、ネイト・マーセローの2019年作『Joy Techniques』(BEAT)