地に落ちて傷ついたフクロウはいま何のために羽ばたくのか? THA BLUE HERBのプロデュースで作り上げた11年ぶりのアルバムにその答えはある!
2019年末にYOU THE ROCK★とILL-BOSSTINOが中目黒の居酒屋で酒を酌み交わしたところから始まったという今回のプロジェクト。そこは、二人が初めて楽曲でタッグを組んだ曲“44 YEARS OLD”(tha BOSS名義の15年作『IN THE NAME OF HIPHOP』収録)が生まれるきっかけになった場所だ。そこから約5年を経て、二人はどのような連鎖反応を起こしたのか。自身のまとまったヒップホップ作品としては10年以上のブランクがあるYOU THE ROCK★は、今回どのような思いでアルバム制作に向き合ったのか。プロデュースを担ったTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINOにも同席してもらい、事の発端から話を訊いた。
元には戻れないから
――今回のプロジェクトは、どんな会話から話が転がり始めたんですか?
YOU THE ROCK★「居酒屋で最近どう?とか四方山話をしてたんだけど、二人とも酔っ払ってきて、〈O.N.Oのビートで曲を作ってみない?〉って言われて、〈え?〉みたいな。その日のうちにあれよあれよと〈ウチからアルバム出しなよ〉みたいになって〈アルバム?〉みたいな感じだったの」
ILL-BOSSTINO「その場は、確実にノリだね。別にYOUちゃんの人生をどうとかっていうつもりはまったくない。でも、そこらへんの奴よりもYOUちゃんに声をかけることの重さは、いくら酔っ払ってても理解してた」
――その声掛けで、YOUさんの何かが着火した感じですか?
YOU「着火というか、真っ白だよね。パーンと頭の中が光ってさ。酔ってたけど、そのときのことはカラーで覚えてる。やばいなと思って、必死に把握しようとしたよね。自分の置かれてる状況とか立場とか立ち位置とかわかってるから。誰も俺に手を差し伸べてくれないから、頭を下げたよね。下げてんだけど、〈いやいや! やめとけ! やめとけ! 上げろ! 上げろ!〉っていう自分もいてさ。でも、こんなチャンスはいましかねえぞって。戸惑ったけど、やるしかないと思ったんだ」
――その後、2020年の夏頃から札幌に渡ってデモ作りを始めたそうですね。
YOU「2020年の1月から5月にかけて、O.N.Oちゃんからトラックが続々と送られてきて。ビートというよりは、完全なる音楽になってて、一聴するだけでは構成がわからなくて紐解けなかったから、データのやりとりしてても埒があかないと思って、札幌に行ったの」
――トラックを貰う前にO.N.Oさんと方向性などは話し合っていたんですか?
YOU「ない。O.N.Oちゃんが俺をイメージして作ったものを送ってきてくれて」
――O.N.Oさんとの作業は、どのように進めていったんですか?
YOU「〈サッポロッジ〉という所を停泊基地にしてたんだけど、着いてその日にO.N.Oちゃんが来てくれて。たぶん彼も不安だったんだと思う。そこで俺たちの聴いてきたモノとか聴いてるモノとかを5時間くらいダーッと話したの。そうすることで、二人がいま好きな機材とか音とか見えてくる。そこから始まって、翌日から入れられるものを次々に入れていったの。ノートを3冊くらい持って行ってさ」
――ノートは書き付けていたんですね。
YOU「去年インドに行ったときに、ノートを持って行って書いてたから。リリックというよりは言葉のノート。その言葉を組み合わせていくんだけど、1ヴァースだけ入れる曲もあるし、明日はこの曲の2番だけとか、ヴァリエーションを付けて飽きないようにやってたんだ。だけど、6曲くらい録ったらなくなっちゃって」
――リリックを書くうえで、ブランクを感じるような場面はありましたか?
YOU「全然ないよ。ヴェテランだもん。経験値が多いし、考えて悩むことも、たぶん人の倍以上してきただろうから」
――言葉のノートの在庫がなくなっても、またすぐに補充できた。
YOU「そう。また新しくリリックを作り出して。いまもまた新しく書いてるくらい。映画を観たり、TV観たり、酒飲んでるときもずっとリリックのことを考えてるから」
――今回はどんなアルバムをめざしたんですか?
YOU「〈再起〉〈逆転〉みたいな。〈原点回帰〉と言っても元には戻れないから。アルバムを聴いてもらえればわかると思うけど、俺は悩んで、苦しんで、もがいて、みんなから離れてずーっと暗闇で。それを一回全部さらけ出して見せようと。それを自分の新しいヒップホップとして提示したかった」
――アルバム制作においてBOSSさんはどんな役割を担っていたんですか?
BOSS「ビートを作る以外、すべてだね。でも、俺が入っていったのはスタジオでレコーディングするときから。そこまでの骨組みはO.N.Oと二人で作り込んでた」
――楽曲の最終的な方向性をアドヴァイスしたり?
BOSS「常に、こうしたほうがいいなって思うときは口を出した。〈こういう曲を書いたほうがいいんじゃない?〉っていうことは、O.N.Oとやる前の段階から伝えてて」
YOU「“ヘビの学校”とか特にそうだね。あと、“PARTY OVER HERE”や“FOR YOU FROM YOU”も、ILL-BOSSTINOのディレクションというかアドヴァイスから出来てる」
BOSS「俺自身が聴いてみたかったんだよね。YOUちゃんのそういうテーマの曲を」
YOU「シングル・カットした“MOVE THE CROWD, ROCK THE HOUSE”の3ヴァース目もそう。パーティーをやるためにはどういう心意気が必要かっていうことを3番で書いてよ、とか。タイトルとかもそう。だから、いままでに経験してないプロダクションでやらせてもらった」
――“ヘビの学校”はYOUさんが過ごした長野県の小学校時代の話ですね。
YOU「それも〈YOUのその学校の話、おもしれーな〉って言ってくれたのがきっかけ。サッポロッジで友達と飲んでるときも〈学校の話をみんなにしてやって〉とか、もうネタになってて。それが曲になったんだよね」
――“PARTY OVER HERE”も新機軸ですね。パーティーロッカーのイメージの強いYOUさんが、〈パーティーの終わり〉の風景を歌ってる。
YOU「それは成長したんだと思う。歳を取って、いろいろ経験して、パーティーの帰り/イベントの終わりがすげえ大事だっていう。〈楽しかったな、おもしろかったな〉ってパーティーの内容を思い返して、まとめて整理するのは帰り道じゃん。その余韻で次の週がんばって仕事しようって思うわけじゃん」