唯一無二の才能同士がぶつかり合った、短くも濃密な季節から20年――刹那の衝動性から広がりゆく未来へ目を向けた4人が、新たなEPを携えていよいよ再始動!

 2000年の結成から、わずか1年という短くも濃密な活動が多くのリスナーに鮮烈な記憶を残した伝説のバンド、AJICO。UAと浅井健一という唯一無二の才能、その強烈な磁場や軌道の成せる技なのか、2つの惑星が20年ぶりに急接近し、新作EP『接続』のリリースと共に再始動を果たす。

AJICO 『接続』 スピードスター(2021)

 前回のランデヴーは、互いにキャリアの転換点と言えるタイミングだった。浅井健一はバンドとしてピークを極めたBLANKEY JET CITYの解散直後。そして、UAは2002年にシングル“閃光”で初めて作曲を手掛け、表現世界を大きく切り拓くことになるその助走段階。一瞬の空白期間に音楽の奇跡は起こった。きっかけとなったのは、ジャム・バンドやサーフ・ミュージックのオーガニックなサウンドをダビーに鳴らしたUAのサード・アルバム『turbo』(99年)に浅井健一が提供した“ストロベリータイム”と“午後”の2曲。そのレコーディングに触発された浅井がUAにバンド結成を持ちかけ、そこに当時UAのサポートを務めていたドラマーの椎野恭一と、アップライト・ベースの使い手で、RIZEやLOSALIOSなどの活動で名を上げることになるTOKIEが合流。〈RISING SUN ROCK FESTIVAL 2000 in EZO〉を皮切りに、1年足らずの短期間で、アルバム『深緑』を筆頭に3枚のシングル“波動”“美しいこと”“ペピン”とツアーの模様を収めたライヴ・アルバム/映像作品『AJICO SHOW』を残した4人は、文字通り、風のように現れ、風のように消えた。

 その活動の圧倒的なスピード感や衝動性を焼き付けるように、当時の作品のほとんどはヴォーカルを含む一発録り。ナイフのように鋭利な浅井のギターと、TOKIE、椎野恭一の滋味深いリズム・セクションが織り成すフリーフォームなバンド・アンサンブルのただなかで躍動するロック・ヴォーカリスト、UA。その歌声の生々しい響きはアレゴリーに富んだ歌詞世界を妖しく美しく映し出していたが、LITTLE CREATURESの鈴木正人によるプロデュースのもと、20年の歳月を経て届けられた新作EP『接続』におけるサウンドには、重厚で揺るぎなく、遙か彼方に突き抜けていくような広がりが感じられる。

 UAと浅井のツイン・ヴォーカルで歌われるオープニング曲“地平線 Ma”は、うねるようなグルーヴとクラヴィネットのファンクネスを交えたコズミックなミクスチャー・ロック・チューン。その作風の変化は、音楽家として長い年月をかけて積み重ねてきた音楽経験が実り豊かなものであったことを物語っているかのよう。美しいギター・フレーズとストリングスが空を舞うような浮遊感を醸し出す“惑星のベンチ”に、起伏に富んだ構成がヴォーカルの表現力を際立たせている“接続”、爽快感を振り撒くアップテンポなナンバー“L.L.M.S.D. -Lonely Lonely Magic Smiley Dress-”と、4曲の収録曲はサウンド・アプローチの多彩さとその響きのキャッチーさに驚かされる。

 刹那の衝動性から広がり続いていく未来へ。昨年、デビュー25周年を迎えたUAの呼びかけをきっかけに、ここから再始動するAJICOは、今までにないサウンドスケープを描き出しながら、全国ツアー、そして、8月に予定されている〈FUJI ROCK FESTIVAL '21〉に向けて進んでいく。2001年3月20日に赤坂BLITZで行われた最終公演が今も語り草になっている彼らが20年の歳月を経て果たしてどんなライヴを見せてくれるのか。さらなる表現の可能性を探求した新作EP『接続』を前に、期待は膨らむばかりだ。

 

AJICOの作品。
左から、2001年作『深緑』、2001年のライヴ盤『AJICO SHOW』(共にスピードスター)

 

AJICOのメンバーの関連作品。
左から、UAの2016年作『JaPo』(スピードスター)、浅井健一の2021年作『Caramel Guerrilla』(ARIOLA JAPAN)、HEAの2018年作『Goddess』(Ahoy!CapitanRecords)、Coccoの2021年作『クチナシ』(Colourful)