YUKIの12枚目のアルバム『SLITS』のリリースを記念して、タワーレコードではフリーマガジン「TOWER PLUS+ YUKI 特別号」を発行! ここでは中面に掲載されているライター・矢隈和恵によるレビューを掲載いたします。「TOWER PLUS+」はタワーレコード全店にて配布中です!

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YUKI 『SLITS』 エピック(2024)

 

自由、女性の強さ、傷などを象徴する〈SLITS〉

前作『パレードが続くなら』から1年4ヵ月ぶり、12枚目となるオリジナルアルバム『SLITS』は、1曲1曲に強烈な個性を持って、さまざまな違った表情を見せる12曲が収録。ダンスミュージック、ロック、ポップス、フォーク、スウィートソウルなど、多彩なサウンドの中で、自身が求める自由や希望、淡い想いや優しさ、力強さなどがYUKIの言葉で軽やかに紡がれていく、爽快でいて切ないアルバムだ。

YUKIが今歌いたい歌、届けたい楽曲を基本に、じっくりと時間をかけて進められたアルバム制作。YUKIにとって音楽を作ることは、もはや日常であり、日常から芽生えたいくつもの想いが詩のテーマへとつながる。YUKIの生きている毎日そのものが言葉となり、音となって、楽曲へと昇華されるのだ。

アルバムタイトルの『SLITS』は、スリットの入ったロングスカートからインスピレーションを得て付けられたもの。足が動かしづらいために入れられたスリットは自由の象徴であり、さらに、女性としての強さや自分のことをわかってほしいという承認欲求もそこには存在する。さらに、切り傷のような〈傷〉も意味するスリット。誰しも身体や心に残っているいくつもの傷があり、その愛おしい傷たちもYUKIの言葉でストーリーに落とし込まれ、それぞれの楽曲はさまざまな意味を持った〈SLITS〉という言葉で1本につながった。

 

YUKIが追求してきたダンスミュージックの進化形

1曲目の“Now Here”は、〈今 此処 此処にいる私を抱きしめる〉と、自身の存在を凛とした表情で肯定しながら、YUKIの高らかな歌声で幕を開けるダンスミュージック。アレンジは、R&Bシーンから高い評価を得ているトラックメイカーのU-Key zone。メロディが縦横無尽に跳ね回りながら、言葉遊びのようにくるくると展開していく言葉たちがなんとも心地よいが、ダンスミュージックでありながら、しっかりとYUKIのメッセージが込められているのが痛快だ。

そのリズムに続くように始まる“雨宿り”は、オリエンタルな音色のフレーズが雨音を想像させるミディアムテンポのダンスミュージック。〈あ・あ・あ・あまやどり〉という耳に残るフレーズがリズムのような響きで刻まれ、まるでミュージカルのワンシーンを見ているかのような歌詞の世界に引き込まれていく。〈大切な人に 大切にされたいと思うから/言われて嬉しい言葉 相手に 自分からも言ってあげなくちゃ〉というYUKIだからこそ生まれた詩。日常の中で忘れてしまっている優しさを軽やかにメロディに乗せて、心にそっと届けてくれるのがYUKIの歌だ。

続く“流星slits”はシンセの印象的なフレーズが一気にテンションを上げてくれる曲。“JOY”以降、YUKIが追求してきたダンスミュージックの進化形であり、YUKIの爽快なラップも飛び出す、遊び心が詰まった1曲だ。

冒頭の3曲でダンスミュージックを披露しつつ、ここからYUKIの音楽はさまざまな表情を見せながら、その世界を広げていく。