Page 2 / 2 1ページ目から読む

他のバンドとは違う音

Kroi 『LENS』 ポニーキャニオン(2021)

 そんな洋邦さまざまな音楽ジャンルを取捨選択して取り入れ、そこから得た音楽的センスはもちろんのこと、これまでの活動から得た経験や関わってくれた人たちへの感謝の気持ちをも集約して生まれたのがメジャー・デビュー作である『LENS』だという。

 「益田が読んでた『アルケミスト 夢を旅した少年』っていう本に〈すべてのものは一つなんだよ〉っていう一節があって、そこから思い付いたんですけど、凹レンズ・凸レンズの習性のように、これまでの経験を凸レンズで一点に集約して凹レンズで拡散する。このアルバムをきっかけに自分たちを世界に広げていきたいなと思って、この言葉をアルバム名に選びました」(関将典)。

 結果、出来上がった作品は当人たちが影響を受けた音楽の通り、ゴリゴリのファンク・ロックあり、内田のファルセットを聴かせるバラードあり、ドロッと怪しいスロウ・ナンバーあり、ジャム・セッションから生まれたインスト曲ありの幅広いスタイルを内包したものになった。

 「1曲レコーディングが終わると、次は何録ろう?って話を毎回するんですけど、そこは熟考せずに直感的に進めていきました」(関)。

 「入れたいものをどんどん入れていったらこうなったんですけど、最後に1曲目の“Balmy Life”を録ったら帳尻が合ったというか、アルバムが完璧なものになりましたね。アルバムをちゃんと作るとなると、あらかじめどういう作品にしたいか考えておかないと後でキツくなるのはわかってるんですけど、最初は考えずに始めたほうが見えてなかった景色が最終的に見えてくるし、思い描いてた完成形とはまったく別の、すごい変なモンができたっていう感じですね」(内田)。

 邦楽の定型にも洋楽の定型にもとらわれない自由な作品を、深く考えずに作った結果出来上がった〈すごい変なモン〉。しかしそこに聴きづらさはなく、かと言ってマネキンのようにキレイに整いすぎたJ-Popでもなく、むしろ正統派のファンクでロックな血肉が通った作品に仕上がった。そしてそこにはライヴ・バンドとして成長してきた5人の、〈グルーヴ〉などという簡単な言葉では片付けられない〈生っぽさ〉が多分に残っている。

 「各々のフレージングやプレイングでもそういうニュアンス感は大事にしますけど、千葉さんがやってくれるミックスの段階でも、いまのJ-Popだったら普通は隠しちゃうようなところをあえて残してさらけ出すみたいなことをしています。俺の口の開くピチャッて音とか、ちょっと弾きあぐねてる感じとかも雑味として残したりするんですよ(笑)」(内田)。

 「バンドの中にいながらミックスもしてるんですけど、セオリー通りじゃない、むしろ普通なら消したり下げたりするような音をバンドの個性を出すために上げることもあります。リスナーが意識できなくても、漠然とでもいいから、ちょっと他のバンドとは違う音がするなっていうのが何か感じ取ってもらえたら嬉しいですね」(千葉)。

 アルバムが出来たとなると、次に気になるのは生で観る機会についてだ。

 「いま予定している通りの流れでツアーをやれればいいなっていうのが大前提ですね。この〈ウィズコロナ時代〉のバンドに必要なものって、臨機応変さだと思っていて。〈世の中がこうきたら、俺らはこう行くぜ〉っていう、状況をちゃんと見て提示するものを決めていくスピード感が問われていると思うので、そこに乗り遅れないように時代を見極めていきたいですね」(内田)。

Kroiの初全国流通作品となった2021年のEP『STRUCTURE DECK』(Kroi)