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新しい装いの王道

 心地良く跳ねるリズム、グルーヴィーなギター・カッティングが煌めく摩天楼を描き出す“about long night”、滑らかでスタイリッシュなホーン・セクションがAORの真髄を伝える“tokyo wind”など、並ぶのは涼しげな顔をした夏向きのナンバーたち。それらすべてをまばゆく照らし出していく永井博のアートワークも最高の働きをみせる。

 「シティ・ポップといったらやっぱり永井さんでしょ(笑)。同時代的に知っている僕らとしては〈直球すぎたかな?〉って気恥ずかしさもあったけど、下の世代から〈エモいですね!〉なんて反応が返ってきて。そっか、堂々とやってよかったんだ、って」(池森)。

 衒いのない大胆さにエモさが芽生えることを改めて知った彼らだが、それを追求するにあたっては刺激的な出会いなどもいろいろと影響しているようだ。

 「〈シティ・ポップ〉というキーワードを掲げ、新世代のミュージシャンが今の時代ならではのサウンドを作っていると知って、すごく刺激を受けたんです。例えばLucky KilimanjaroやFriday Night Plansとか、こういうアレンジでやるんだ、って驚いた。今回この題材を選んでなかったら、出会えなかった音楽だと思う。そんな彼らのアプローチを参考にしつつ、彼らとは違う道を歩いてきた僕なりの表現ができないか?と意識を働かせたんですけど、結果としては前作よりも洒落た部分が出せたかなと思いますね」(山根)。

 新鮮な響きが欲しいという彼らの意図を見事に汲んでみせたアレンジャーたちの働きぶりも見逃せない。昨今のDEENサウンドに欠かせない侑音をはじめ、5名の精鋭が顔を揃えているが、なかでも渋谷系の空気感を鮮やかに蘇らせる“cosmic rendez-vous”を手掛けた杉山洋介(paris match)の手管が光る。それから清涼感満点なコーラスワークが光る“off limit”。こちらでは自身の楽曲に対するオマージュも行われている。

 「“off limit”はズバリ、〈ポカリスエット〉のCMのイメージですよね。みんながニヤッとするようなフレーズを散りばめつつ、DEENのナツ歌にオマージュを捧げてみました」(池森)。

 というようにさまざまなアイデアを駆使しながら多彩な楽曲をクリエイトすることに成功した彼らだが、でも結局のところ、作り方も含めてDEENの王道的アルバムとして結実しているという事実が大変に興味深い。考えてみれば、そもそも彼らはずっとDEENの王道とは何かを追求しつつ、今日まで歴史を築き上げてきたんだっけ、なんてふと思ったり。

 「それはDEENが、〈バンドやろうぜ!〉って集まって出来たバンドではないことが影響していて。ヒット曲に支えられて今の僕らがある、という考えが絶えず働いていて、なるべくイメージと乖離しない作品づくりをしようと心がけてここまで続けてきたから。DEENにとって何がいいのか?と考えて、それぞれの役割分担に沿って動く。そういうバランスがいいんだろうな、って思うんです」(池森)。

 「変わらずDEEN魂を持ち続けているんで、どんなテーマでやろうとも曲作りのスタイルはまったく揺るがない。そこを踏まえながらアレンジなどで新しい装いを施していく。そういう楽しみが今回は大きかったです」(山根)。