Photo by Kana Tarumi

2021年、バンド編成から堀込高樹を中心とする〈変動的で緩やかな繋がりの音楽集団〉へと生まれ変わり、新たなスタートを切ったKIRINJI。4月に新体制初の新曲“再会”を発表、7月28日(水)にはEP『爆ぜる心臓 feat. Awich』をリリースする。さらに堀込高樹は、8月27日(金)に公開される映画「鳩の撃退法」のサウンドトラックのリリースも控えている。

そんなKIRINJI/堀込高樹の魅力のひとつは、やはり歌詞だろう。そこでKIRINJIのファンであり、新作「無理になる」(「文學界」2021年6月)を発表したばかりの小説家・奥野紗世子が、お気に入りの堀込高樹の歌詞のフレーズを選んだ。奥野らしい言葉に対する鋭い感覚で選ばれたベスト・ラインは? *Mikiki編集部


 

今回は堀込高樹の歌詞のパンチラインを10個選んだ。

なぜかというと、バンド形式から堀込高樹を中心とする流動的な音楽ユニットになってはじめてのEPが出る前にやることは、タイミングが良いと思ったからだ。

キリンジ/KIRINJI問わず、ソロアルバムや提供曲も含めた10曲であり、順不同である。

 

仮そめに馴れ初めるんだ 恋は

冨田恵一 feat. キリンジ “乳房の勾配”(98年作『PRO-FILE ~11 Producers~ VOL. 1』収録曲)より

ワンチャンをこんな雅に表現出来る人はいるでしょうか。“耳をうずめて”でも使われている言い回し。“水とテクノクラート”の〈肩透かしのカタストロフィ〉、“恋の祭典”の〈手だれを手玉にとり〉、“癇癪と色気”の〈手繰って なぞって 掠って 閃く春〉などもそうですが、初期の歌詞はとくに押韻が心地よい曲が多いと思います。

 

卒業 誕生日 迎えるたび 君の値打ち下がるなんて
馬鹿だな

藤井隆 “わたしの青い空”(2004年)より

女子高生(多分)と中年男の歌なんですが、緊張感のある曲調も相まって援助交際が想起されつつ、セクシャルな歌詞かと思いきや〈くちづけの拙さの言い訳してたね/触れてもないのに〉など、プラトニックな関係性なのが良い。

 

あてつけのつもりなのかい、それとも未練かい?
熱い紅茶も冷める距離だね

キリンジ “メスとコスメ”(2000年作『3』収録曲)より

久しぶりに会った彼女が全身整形していた男の曲。すごいテーマ。
きっと彼女は、男が邪推したようなつもりはまったくなくて、美人になった彼女にとってはもはや当てつけるような価値のある男ではないのに、男はいまだに彼女が自分のことを好きなんじゃないかと密かに思っているというすれ違い。それがあとに続く〈熱い紅茶も冷める距離〉なんじゃないでしょうか。

 

今でもあなたは探しているの?
醸し出されることのない美酒を

キリンジ “愛のCoda”(2003年作『スウィートソウルep』収録曲)より

ひたすら美しいフレーズです。美しいフレーズと言えば、“千年紀末に降る雪は”の〈帝都随一のサウンドシステム 響かせて/摩天楼は夜に香る化粧瓶〉も好き。こういう言い回しをたくさん思いつきつつ、日常で使いたいと思っております。

 

祈りにも似ていた恋人の名前も今は
遠い響きを残して消えたよ

キリンジ “耳をうずめて”(99年作『47’45”』収録曲)より

恋の終わりはいつもこの状態になります。

名前を呼ぶことだけが、最後の繋がりになるんですよね。恋人の名前は、さめてみればなんてことない固有名詞です。

 

コテンパンに言い負かして
溜飲を下げて後で落ち込む

KIRINJI “明日こそは/It’s not over yet”(2018年作『愛をあるだけ、すべて』)より

これの連続です。やったって虚しいだけなのに。なんとなく感じていたことを歌詞にされて心が痛い。