Photo by 垂水佳菜

2020年末をもってバンド編成での活動に終わりを告げ、堀込高樹を中心とする〈変動的で緩やかな繋がりの音楽集団〉となったKIRINJI。新たなファンクラブの開設、前体制のラスト・ライブを収めた映像作品「KIRINJI LIVE 2020 -Live at NHK Hall-」のリリース、ベスト盤「KIRINJI 20132020」のアナログ化と、2021年に入って活発な動きを見せている。なかでも注目すべきは、やはり新曲“再会”だろう。

今回は、本日4月14日に配信された新体制として初の楽曲“再会”について、小説家の奥野紗世子が綴った。KIRINJIと堀込高樹のファンとして、これまで2度KIRINJIの歌詞についての論考を寄せてくれた奥野は、「逃げ水は街の血潮」(2019年)で第124界文學界新人賞を受賞した新進気鋭の小説家だ(初夏に新作を発表予定)。

堀込高樹はコロナ禍での実感、その先に見る希望を、どんな言葉で歌っているのだろうか。奥野が自由な筆致で迫る。 *Mikiki編集部

 

コロナ、うんざりです。

友人を飲みに誘っても〈会社から飲みに行くのはやめてと言われている〉なんてすげない返事。21時までだった飲食店の営業時間は〈まん防〉の影響で20時まで。

〈孤独でつらい〉と泣き言を言ったって、〈小説家ってそういう職業じゃん?〉なんて知ったようなことを言われる日々。

 

そんなわたしがこの鬱屈とした1年、密かに楽しみにしていたことがある。

〈堀込高樹はどのようにコロナ禍を過ごし、どんな曲を出すのだろう〉ということである。

詳しくはこちらを参照していただくとして、ここ数年でもっともすごい曲は『cherish』収録の“「あの娘は誰?」とか言わせたい”であり、〈口先の好景気/今夜も満席のネットカフェ/息できない クールじゃない/美しい国はディストピアさ〉と歌い切った堀込高樹である。

2019年作『cherish』収録曲“「あの娘は誰?」とか言わせたい”

『cherish』のリリース直後に現れた未知のウイルス感染症〈COVID-19〉 によって、世界はもはやディストピアを通り越してポスト・アポカリプスの予兆すら漂う。

この状況で堀込高樹はなにを歌うのか。

 

タイトルは“再会”。バンド形態のKIRINJIから、堀込高樹を中心とする変動的で緩やかな繋がりの音楽集団となったKIRINJIとしての始まりを予感させる。

“再会”リリック・ビデオ

歌詞は交差点で偶然〈君〉と出会うことから始まる。積もった話を語らい、〈グラスを掲げ〉〈肩を寄せ合おう〉〈夜どおし歌い踊ろう〉。

いいね! こういうことを、いままさにしたい!

コロナ禍が明けた先、いままでの日常が再開しているのだ。〈待ちわびていた 待ちわびていた〉と繰り返される。まさにそうである。

と、思ったのも束の間〈そんな夢を見た朝〉。まさかの夢オチ。

〈ディスプレイの中の微笑みは悪くない〉とZoom飲みを描き、〈たまに会えてもなんだかリミッターがかかったまま〉と〈黙食〉と〈時短〉を暗示させる。

そんな時世の話題を取り入れる『愛をあるだけ、すべて』以降のスタイルを踏襲しつつも、“再会”で白眉なのは、やはり〈透明のパーティションで愛までも遠ざけないで〉だろう。さすがチャットを〈二人は蜘蛛の糸を渡る夜露さ〉(“Love is on line”)と表現した堀込高樹である。

 

〈長いトンネルの先/誰だって望んでいるよ/その時を求めている/嘆きと怒り/諍いの向こうで/また会える日を/Let’s meet again〉なんてストレートで切実な感情を表現した歌詞を堀込高樹が書いたことがあるだろうか。

今はただただ災禍が過ぎるのを待つしかないし、それは雪解けのように簡単にはいかない。いまはかつての記憶と夢とで明けたその先を信じることで生きているのかもしれない。

必要なのは〈がんばろう〉とか〈応援〉とかそういうものではない。〈絶対にまた会って、踊ろう。あの店に行こうよ〉。これなのだ。

また今回は生楽器だとか打ち込みは全て堀込高樹がやっているのだが、ベースは引き続き千ヶ崎学さん。世界でいちばんグルーヴィな博士が今回もいい仕事しています。

 


RELEASE INFORMATION

リリース日:2021年4月14日
配信リンク:https://jazz.lnk.to/KIRINJI_SAIKAIPR

 

LIVE INFORMATION
堀込高樹 plays “あの人が歌うのをきいたことがない”
2021年5月3日(月)、4日(火)東京・南青山 ブルーノート東京
[1st]開場/開演:16:00/17:00
[2nd]開場/開演:19:00/20:00
メンバー:堀込高樹(ヴォーカル/ギター)/千ヶ崎学(ベース)/楠均(ドラムス)/林正樹(ピアノ)
※2021年5月4日の2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:2021年5月7日(金)23:59までhttp://www.bluenote.co.jp/jp/artists/takaki-horigome/

 


PROFILE: 奥野紗世子
92年生まれ。小説家。「逃げ水は街の血潮」で第124界文學界新人賞受賞。5月に新作発表予定。
Twitter:https://twitter.com/HumanTofu
note:https://note.com/souvenir_