2021年、コロナ禍を経てUKのダンス・ミュージックはどこへ行く?
――冒頭で野田さんがおっしゃったように、2000年代末から2010年初頭のUKでは新しいDJやプロデューサーがどんどん現れました。いまのシーンの状況は、ポスト・ダブステップの時代とはちがっているのでしょうか?
野田「いや、わからないね。UKに住んでいるわけじゃないし、そもそも日本のレコード店に12インチが入ってこなくなったし、枚数も減っているだろうしね」
河村「あと、この一年はコロナ禍の影響があったから、シーンが止まってしまった感じがしますよね。僕は基本的にシングルはデータで買っていて、量もそれなりに出ていて流れがあるのは感じるのですが、なんか実体を伴わない変な感じがして」
――特に、ダンス・ミュージックはそうかもしれませんね。
河村「新しい人が出てくるチャンスも限られますよね。出てきても話題にならない。たとえば、ジョイ・オービソンのファースト・シングルのように、〈フロアでかかったあの曲のダブプレートを誰が持っていて、それがヤバい〉というようなことが起こらない。それは大きいんじゃないですかね」
野田「だけど、ロックダウンの期間を有効に使った面もあるよね。インディー・ロックなんか特にそうで、最近はいい作品がすごく多い。とはいえ、UKでは7月19日からクラブが解禁されたんだよね。どうなるのかね?」
河村「ジョイ・オービソンのアルバムもそうですけど、けっこうリスニング寄りの作品を作っているアーティストが多い気がします。オーヴァーモノ※の最近の曲を聴くと、ウワモノのシンセとかにちょっとそんな感じが表れていて。
だから、ダンスフロアが解禁されて、そういったサウンドとか、ロックダウン中の掘り返しの蓄積とかがフロアでプレイされることによって、これからどうなっていくのかは、逆におもしろそうだなと思います」
――オーヴァーモノは、やっぱり注目の新人ですか?
野田「5、6年前にデビューしているから、もう新人じゃないけどね。テセラの才能がずば抜けていて。オーヴァーモノは自分たちのレーベルから出した新曲(『BMW Track / So U Kno』)が最高で、ジャングルのネクスト・レベルって感じだったね」
河村「あと、ぜんぜん新人じゃないですけど、今年はバグ※が新作を出すじゃないですか」
野田「バグは最高だよね。ダンスホールの再解釈は、彼がいちばん早かった。90年代末とか2000年代初頭とか、あの時点であれをよくやったよね」
河村「ジョイ・オービソンのアルバムにもその要素が入ってますが、いまUKのダンス・カルチャーといえば、やっぱりダンスホールがひとつのトピックになっていますよね。最近、ダンスホールのリディムを編纂した『Now Thing 2』が話題になってますが、バグことケヴィン・マーティンは2011年にダンスホールを集めた『Invasion Of The Mysteron Killer Sounds』という先鋭的なコンピの編纂をしていて、ソウル・ジャズからリリースしています。ちょうど、『Now Thing』の1枚目と『Now Thing 2』の間の空白を埋めるような時期と内容ですね。
バグにしても、インダストリアルでありかつダンスホールだなんて、まさにいまの音じゃないですか」
野田「それと、今年はバイセップの新作(『Isles』)もよかったよね。シングルの“Apricots”は、BBCでずっとヘヴィー・ローテーションだった。
ジョイ・オービソンの新作をリリースしたXLは、今後オーヴァーモノの新作のリリースも控えているだろうし、最近すごくダンス・ミュージックに対して積極的だよね。XLにとって、ダンス・ミュージックは自分たちのルーツだろうからね」
河村「本当に根付いている感じがしますよね。たとえば、ロブスター・テルミン※1なんかはディストリビューターとしてもおもしろいものをガンガン扱っています。〈とにかく新しくて勢いのある流行っているものを届けよう〉というよりも、それが通常運行であることにエネルギーを感じますよね。彼らのBandcampを開くと、ディープ・ハウスやエレクトロもあれば、ジャングル、UKガラージのシングルをいっぱい、いろいろなレーベルから出していて、やっぱりUKらしいなと。
その一方で、トレンドとは関係なく、アンダーグラウンド・オブ・アンダーグラウンドというか、ダブステップ・オリジネイターのDJヤングスタ※2のような人が数年前に自分のレーベルを立ち上げて、新たな才能を呼び込みながら、オーセンティックなダブステップを作りつづけている。そういう文化がUKのシーンの足元に根付いているというのが、本当に大きいと思いますね」
野田「それがいちばんデカいよ。今回は2ステップ/ダブステップ寄りの話が中心だったけど、10年前は同時にモダン・ラヴとかブラッケスト・エヴァー・ブラックとか、インダストリアル系のレーベルも活発だったから、当時のUKはものすごく勢いがあったんだよね。
いまはインディー・ロックが盛り上がっているけど、でもあの国からクラブ・カルチャーがなくなることは絶対にない。回り続けるんだよね。インディー・ロックの波が落ち着いてもう2、3年したら、きっと新世代のベリアルが出てくると思うよ」
RELEASE INFORMATION

JOY ORBISON 『still slipping vol. 1』 XL/BEAT(2021)
リリース日:2021年8月13日
配信リンク:https://joyorbison.ffm.to/stillslipping_vol1
■国内盤CD
品番:XL1188CDJP
価格:2,420円(税込)
解説・歌詞対訳付/ボーナス・トラック追加収録
■輸入盤CD
品番:XL1188CD
価格:2,490円(税込)
■輸入盤LP
品番:XL1188LP
価格:2,790円(税込)
TRACKLIST
1. w/ dad & frankie
2. sparko (w/ Herron)
3. swag w/ kav (w/ James Massiah and Bathe)
4. better (w/ Lea Sen)
5. bernard?
6. runnersz
7. ‘rraine (w/ Edna)
8. glorious amateurs
9. s gets jaded
10. froth sipping
11. layer 6
12. in drink
13. playground (w/ Goya Gumbani)
14. born slipping (w/ TYSON)
15. meandyou *Bonus Track for Japan

リリース日:2021年7月9日
配信リンク:https://koreless.ffm.to/agor
■国内仕様盤CD
品番:YT214CDJP
価格:2,200円(税込)
解説付
■輸入盤CD
品番:YT214CD
価格:2,490円(税込)
■輸入盤LP
品番:YT214LP
価格:2,790円(税込)
TRACKLIST
1. Yonder
2. Black Rainbow
3. Primes
4. White Picket Fence
5. Act(s)
6. Joy Squad
7. Frozen
8. Shellshock
9. Hance
10. Strangers