ES-175を片手に、とある一室で。YOUR SONG IS GOODのギタリストの小さなサーヴィス精神から生まれた音の断片は、XTALとのマジカルなmeetsによっていま、ジェントルな日常に寄り添う一枚へ──

部屋の規模の音楽

 KAKUBARHYTHMの最古参バンドとしてレーベルを牽引し、2019年には結成20周年を迎えたYOUR SONG IS GOOD(以下YSIG)。サイトウ“JxJx”ジュンと共にその音楽性の鍵を握ってきたのが、結成以来のメンバーでもある吉澤成友(ギター)だ。このたびリリースされる『Guitar Esquisse Volume One』は、吉澤の初のソロ・アルバム。(((さらうんど)))やJINTANA&EMERALDSのメンバーとしても知られるDJ/プロデューサー、XTALとタッグを組み、バレアリックかつアンビエント的とも言えるギター・インスト作品となった。

Masatomo Yoshizawa meets XTAL 『Guitar Esquisse Volume One』 KAKUBARHYTHM(2021)

 その原点となるのが、2020年5月から吉澤がInstagramでアップし続けている一筆書き的なギター音源。すべての音源にはイラストレーターとしても活躍する彼ならではの味のあるイラストが添えられていた。吉澤は〈Guitar Esquisse〉と題されたそのシリーズを始めた経緯をこう説明する。

 「去年の春頃、ジャズ・ベーシストのアヴィシャイ・コーエンが自宅で演奏している動画をTwitterに連投しているのを観て、びっくりしちゃって。好きなベーシストのプライヴェートな演奏を聴けたことにすごく興奮したんですよ。自分も音楽をやっている人間として、みんな外にも出れずに悶々と過ごしているなか、少しでも楽しんでもらえる何かができたらなっていう思いが出てきて。僕がアヴィシャイ・コーエンの動画で興奮したように、自分なりにギターの音源を上げることでニコッとかニヤッとしてくれる人がいたらいいなと思って、ああいった投稿を始めたんです」。

 同じ頃、吉澤は野村卓史(グッドラックヘイワ)、辻村友晴/辻村豪文(共にキセル)とyamomoなる新バンドを結成。現在までリモートでの生セッションを定期的に配信している。今までのような音楽活動ができないコロナ禍において、どのような表現ができるのか。Instagramでのギター音源とyamomoでの活動は、その可能性を探るものとも言える。そこで生み出されているのは、あくまでも生活に馴染む等身大の音楽だ。

 「確かに部屋の規模の音楽ですよね。それはyamomoに関してもそうかも。キセルのお兄ちゃん(辻村豪文)は自宅でドラムを叩けるんですよ。でも、爆音で叩けるわけではなくて、住環境に合わせた音量感もアレンジに反映されている。Instagramの音源も自分の部屋でギターを弾き、その場で録音しているわけで、家で弾いていてちょうどいいぐらいの音楽になってるんだろうね。これってボサノヴァのエピソードに近いかも。リオデジャネイロのアパートで弾いてちょうどいいサイズの音というか」。

 

〈meets〉したかった

 〈Guitar Esquisse〉の〈Esquisse〉には〈下書き〉という意味がある。実際、Instagramで音源をアップしていた段階では、アルバム制作を前提としていない〈下書き〉だったわけだが、(((さらうんど)))としてKAKUBARHYTHMのレーベルメイトでもあるXTALとの共同作業が始まることで、そこに新たな色彩が加えられることになった。

 「レーベルのスタッフから〈あの音源、作品にしませんか?〉という話をもらったんですよ。ありがたいけど、Instagramの音源をそのまままとめるのはどうも違う気がして。せっかくだったら誰かと組んであれを飛躍させたいなと思っていた。そうしたらスタッフから〈XTALくんはどうですか?〉というアイデアが出てきて。XTALくんの音楽がすごく好きなのと、自分の中にないセンスの持ち主なので、どんな音になるか予想がつかないというところもおもしろそうだなと思いました」。

 だが、制作のプロセスは当初、決してスムースなものではなかったようだ。

 「広い解釈として〈ダブ〉というキーワードは伝えましたが、お互いのアイデアが対等に融合した時の音を探りたかったので、あえて曖昧な状態で〈とりあえず試しに音をいじってください〉とお願いしたんです。最初のやり取りでは、僕がやっていたことをすごく尊重したものを作ってくれたんだけど、ちょっと気を遣われてる気がして(笑)。XTALくんとはもともとそれほど交流があったわけじゃなかったから、リモートで世間話をしたんですよ。中学校のとき何を聴いていたとか、本当に他愛のない話。XTALくんが去年出した作品(『Aburelu』)がもはやハウスでもない異質の音楽で、それの格好良さについて話したり。そのあとにXTALくんから送られてきたのが、アルバム2曲目の“Sketch in the Shade”。それが自分のイメージの範疇をポンと飛び越えたもので、これでもう大丈夫だと思った。そこからは〈1回ストップして考え直しましょう〉みたいなことは一切なかったし、やり取りはすごくスムースでした」。

 XTALのゆったりとしたビートで幕を開ける “Sketch in the Shade”は、AOR的な雰囲気もある吉澤のギターがしなやかな曲線を描く、本作随一のメロウ・チューン。そこで捉えられているのは、吉澤とXTALが〈meets〉した瞬間でもあった。

 「最初の段階で、このアルバムの名義は〈Masatomo Yoshizawa meets XTAL〉にしたいという話はしました。70年代のジャマイカでよくあったじゃない? (オーガスタス・パブロとキング・タビーの共演作である)『King Tubby Meets Rockers Uptown』とか、ハリー・ムーディとキング・タビーの『Harry Mudie Meet King Tubby's In Dub Conference』とか。やってる音はレゲエじゃないんだけど、あの〈meets〉による音のマジックをめざしたかった。(サイトウ“JxJx”)ジュンくんには〈meetsってそれ? マニアックだなあ〉って言われて(笑)。今までYSIGを聴いてくれた人にはそういう部分も楽しんでもらえるんじゃないかと思っていて」。

 YSIGでもたびたび顔を覗かせていた吉澤の音楽マニアぶりは、そのように存分に発揮されている。だが、本作を覆っているのはイージー・リスニング的な耳心地の良さ。マンションの一室で演奏された音のサイズ感を残しながら、それぞれのフレーズに込められたエッセンスをナチュラルに拡張させていくXTALの職人的な音作りもまた、本作を特別なものにしている。

 

小さなサーヴィス精神

 本作からは吉澤のギタリストとしてのルーツもはっきりと窺える。それはバンドのグルーヴを軸とするYSIGの作品群からは少々見えにくい部分でもあった。

 「YSIGのときはあくまでもバンドの中でのギタリストだけど、今回は自分というものがモロ出しになっていると思う。ギタリストとして昔から好きなのはアーネスト・ラングリンとグラント・グリーン。あと、ここ10年ぐらいは中牟礼貞則さんというジャズ・ギタリストが大好きで。1933年生まれの大ベテランなんだけど、ライヴがめちゃくちゃ良くてね」。

 そのように吉澤の根っこにはジャズがある。ただ、吉澤は「ジャズ・ギターからの影響は多いけれど、自分のスタイルはジャンルが曖昧なものだと思う」と話す。吉澤自身、ギタリストとして自己主張が強いタイプではなく、テクニック至上主義でもない。本作でも空間演出のツールとしてギターを用いているケースもあれば、特定のフレーズをループさせてある種の心地良さを生み出す場面もある。そのスタイルはアンビエント的ともいえるもので、アンビエントの源流を生み出したギタリスト、マニュエル・ゲッチングを連想させたりもする。

 「マニュエル・ゲッチングとあの人がやってたアシュ・ラ・テンペルは大好き。いつの間にかどこかからフレーズが湧いてきて、いつの間にかフレーズがなくなっているような感じ。あの感覚は今も大好きです」。

 使用しているギターは、多くのジャズ・ギタリストたちが愛用してきたGibsonのフルアコースティック・エレキギター、ES-175。その柔らかくてまろやかなトーンも本作の魅力のひとつだ。

 「アコギやエレキを使っていろんなギター・サウンドをカラフルにオーバーダビングするんじゃなくて、ES-175の音だけで作ろうと思って。ジャズ・ギター的な音でいろんな曲調を弾いてみようと思っていた。今後このギターともっともっと戯れたいと思っています」。

 タイトルに〈Volume One〉と付いている以上、今後シリーズ化を期待したくなってしまう『Guitar Esquisse Volume One』。息詰まるようなコロナ禍の生活において、暮らしにそっと寄り添い、穏やかなムードを生み出してくれるこんな音を求めている方は少なくないはずだ。

 「Instagramで音源をアップしはじめたのも小さなサーヴィス精神だったわけで、この作品が少しでも気晴らしになったらいいし、日常のちょっとした楽しみになってくれたらめちゃくちゃ嬉しいですね」。

左から、キング・タビーによるオーガスタス・パブロのダブ・ミックス盤『King Tubby Meets Rockers Uptown』(Yard Music)、アーネスト・ラングリンの66年作『A Mod A Mod Ranglin』(Federal)、マニュエル・ゲッチングの75年作『Inventions For Electric Guitar』(Ohr)

 

吉澤成友とXTALのこれまでのあれこれ

 本文にもあるように、吉澤成友とXTALは他のプロジェクトでもさまざまな音楽性の作品を残している。吉澤のほうだと、まずは言わずと知れたKAKUBARHYTHMの最古参、YOUR SONG IS GOOD。前身バンドのパンク/ハードコアなスタイルからグローカルなダンス・ミュージックまで鳴らすインスト・バンドは、ディスコ/ハウスを経由して徐々にバレアリックなサウンドを展開。2作続いている〈Re-Recording〉シリーズでもその流れを継承している。もう一方のTHE DEKITSは、yamomoと同様にイヴェントから派生したアコースティック・ユニット。TGMX(FRONTIER BACKYARD)、田上修太郎(COMEBACKMY DAUGHTERS)、Keishi Tanakaと共に、フォーク/カントリー風味のカヴァーなどを肩の力の抜けたプレイで披露している。

 XTALのほうは、まずK404とのユニットであるTraks Boysでテクノを基盤とした煌びやかなダンス・ミュージック示すと、そこに鴨田潤(ヴォーカル/ギター)を加えた(((さらうんど)))では、シンセ・サウンドと鴨田の個性的な歌唱を重ねた我流のシティー・ポップを探究。さらにJINTANA、Kashif a.k.a. STRINGSBURN、一十三十一、MAMI、カミカオルとのJINTANA & EMERALDS では、ドゥワップをとろけるように甘いエキゾ・ポップ化。9月には新作も控えている。また、ソロとしてはノンビートの最新作で新機軸を開拓。ノイズやドローンのコラージュによる実験的なIDM作品だが、ローファイな手触りと不思議なキャッチーさも併せ持つ、聴き手との距離感が絶妙な一枚となっている。 *bounce編集部

左から、YOUR SONG IS GOODの2020年作『Sessions 2』(KAKUBARHYTHM)、THE DEKITSの2011年作『DE KIT 4 KEY'S』(DE KIT)、Traks Boysの2008年作『Bring The Noise』(SWC)、(((さらうんど)))の2015年作『See you, Blue』(KAKUBARHYTHM)、JINTANA & EMERALDSの2014年作『Destiny』(Pヴァイン)、XTALの2020年作『Aburelu』(Cizima)