
いまから8年ほど前だろうか。Homecomingsが結成されて間もない頃、まだ少年の面影が残る21歳の福富優樹と話した際、彼は〈もっとも好きなバンド〉のひとつとしてYOUR SONG IS GOODを挙げてくれた。その頃のホムカミはアノラック~ギター・ポップ・バンド然としていて、ユアソンと音楽的には似ている印象がなく、少し驚いたことを覚えている。そうした意外性からか、妙に頭に残っていて、いつか彼がユアソンについて話す機会を作りたいと思っていた。
Homecomingsが新作『Moving Days』をリリースしたいまこそ、その格好のタイミングだろう。というのも、収録曲の“Moving Days Pt. 2”をYOUR SONG IS GOODのサイトウ“JxJx”ジュンがプロデュースしているからだ。同曲は、サイトウの力添えもあり、初夏の風のように心地よい、軽やかで晴れやかなソウル・ポップスとなっている。新作の大きなテーマである〈引っ越し〉の風景を描いた“Moving Days Pt. 2”については、すでにサヌキナオヤが同曲をモチーフとした漫画を執筆。さらに、サヌキの漫画を原作にしたショート・ムービーが公開されるなど、ホムカミの新たな代表曲となりそうだ。
今回は、サイトウも招き、両者の対談を実施。カクバリズムのレーベルメイトとなった2人が、それぞれの印象、“Moving Days Pt. 2”制作時のやりとり、さらにアルバム『Moving Days』の魅力についてまで、たっぷりと語ってくれた。

Homecomingsの第一印象は、極めて正しいインディー・ロック
――サイトウさんはもともとHomecomingsにどういう印象を持っていましたか?
サイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)「まずは京都のバンド、それからリリース元のSecond Royalは、カクバリズムともともと交流があったレーベルなので、そこの新しい子たち、というのが最初の印象でした。なので、新しい仲間が加わってきたというか。ぜんぜん知らない人というよりは、絶対に仲良くなるレールの上に登場してきてくれた感じ。実際にはじめて会ったのは〈フジロック〉だよね?」
福富優樹(Homecomings)「そうですね、2013年かな。僕らが〈フジ〉の〈ROOKIE A GO-GO〉に出た年。でも、そのときはまだちゃんとは話していないような気がします。角張(渉、カクバリズムの社長)さんと会場で会って〈ジュンさんと一緒にホムカミを観に来てください〉と言ったら、〈ジュンくんは(同じ時間帯だった)ジュラシック5を観に行くと言ってたよ〉って。それなら仕方ないなと(笑)」
サイトウ「おっと(笑)。僕らのリハのときに、畳野(彩加、Homecomings)さんと袖で観てなかったっけ? そこで、自己紹介された記憶があるんだけど」
福富「いや、それはたぶん〈フジロック〉の少し前にあった下北沢の〈Indie Fanclub〉なんですよ。そのときにもらったサインがこれで(CDを見せる)」
サイトウ「物的証拠が(笑)。そのとき、僕はまだホムカミの音を聴いてはなかった気がするんだけど、まぁでも会った瞬間から普通に仲間っていうか、そういう雰囲気だったな」

――では、実際にホムカミの曲を聴いてみたときの感想は?
サイトウ「いい意味で想像通りの(笑)、いや極めて正しいインディー・ロックという感じ。僕は、好きなことをやっている人が好きなんですよ。Homecomingsも音楽からそれが伝わってきたので、〈この人たちは好きな音楽をやっているな、いいなあ〉って好印象だったし、信頼できる気がした」
――その後、Homecomingsはキャリアを重ねていくわけですが、彼らの成長や変化をどう見ていましたか?
サイトウ「まず仲間として知り合ったというのがあるので、バンドの動きを意識していたというより、人として親しくなっていった感覚なんです。SNSや、たまに現場で会ったりなんかを通じて、福富くんのパーソナルな部分――ウェス・アンダーソンの映画が好きだとか――が伝わってきたし、好きなものだけでなく、それらを取り巻くカルチャーごと愛している様子を見て、さらに好感を抱いたり。歳はぜんぜん違うし、京都と東京で距離もあったけど、ゆっくりと時間をかけて彼のパーソナリティーを知っていったというか、不思議な感覚ですよね。そこにバンドの音がくっついてくる、みたいな」
――なるほど。福富さんが好きなカルチャーとHomecomingsの音楽自体にズレがないところも、サイトウさんとしては理解しやすかったのかもしれませんね。
サイトウ「そうですね。バンドのアートワークや、映画との関わり方もいいし、それから本(福富原作、サヌキナオヤ作画の漫画『CONFUSED!』)まで出しちゃったり。いずれもクォリティーがすごいのはもちろん、なんか楽しそうだし、見ているこっちがニコニコしてきちゃう感じがあると言いますか。良いですよね。そうだ、物販もかっこいいし。これは細かいエピソードなんですけど、福富くんは京都のタワレコで働いていましたよね? 僕はそれを知らなくて、お店に挨拶に行ったときにいたんですよ。バンドの一員やライブのお客さんとしてではない福富くんと会えて、より多面的に彼のことを知れて(笑)。
あと、〈こいつはやばいな〉って思ったのが、渋谷のCLUB QUATTROでツーマンをしたとき。もちろんHomecomingsのライブもすごく良かったんだけど……」
福富「2017年のクリスマスですよね」

サイトウ「そうそう。Homecomingsの企画。それまでも何回か誘ってもらってたんだけど、なかなかタイミングが合わなくて、やっと満を持してという感じでYOUR SONG IS GOODとして対バンさせてもらったんです。ライブに関して言うと、フロントの2人とリズム隊の2人のコントラスト、バランスがすごくかっこよくて。これはいいバンドだなって思いました。
で、忘れられないことがひとつあって、無事にライブが終わり、打ち上げに渋谷の〈ひもの屋〉というチェーン店系の居酒屋に行ったんです。で、みんなが最初の乾杯用にビールとかウーロンハイとかを頼んでいるときに、福富くんはホワイト・ルシアンというカクテルを店員さんに注文していたんですよ。ホワイト・ルシアンって映画『ビッグ・リボウスキ』(98年)のデュードがいつも好きで飲んでいるお酒なんだけど、そんなのがひもの屋にあるわけないじゃないですか(笑)。僕は『ビッグ・リボウスキ』を本当に好きなので、〈えー!? あの『ビッグ・リボウスキ』の?〉と。それで僕はやられてしまって、〈ああ、福富くん最高だな、ホントに信頼できる奴だなって〉って勝手に思いました。あれは爆笑しましたし、なんかすごく良かった」
福富「もちろん僕もコーエン兄弟の映画が大好きですし、『ビッグ・リボウスキ』でホワイト・ルシアンを知ったんですけど、〈ジュンさんの前でかますぞ〉ってよりは、その頃に飲んでいたお酒のスタンダートとして頼んだら、ズレていたみたいで」
サイトウ「その普通に頼んでいる感じも良かった。でも、びっくりしました。あの時点で、彼とはいずれレーベルメイトになるとわかってたのかもしれない(笑)」

常に変化するYOUR SONG IS GOODが、子供ながらに大好きだった
――福富さんはYOUR SONG IS GOODをいつ、どのように知ったんですか?
福富「中2の頃に、家でSPACE SHOWER TVが観られるようになったんですよ。BEAT CRUSADERSのヒダカ(トオル)さんとジュンさんがVJをしていた『STUDIO GROWN』という番組で、ユアソンの“SUPER SOUL MEETIN' ~超ソウルミーティン~”のライブ映像とかを観て、びっくりしたんです。当時の僕はレミオロメン、アジカン、銀杏BOYZとかを聴いていて、そういうロック少年からしたら、ユアソンは〈なんじゃこりゃ、すごいな〉となる音楽だった。まだヴィレヴァンさえ知りませんでしたからね。
同時期に、ユアソンとビークルがコラボしたスプリット『FOOL GROOVE/OUR MELODY』(2006年)も出たから、そのCDと一緒にセルフ・タイトルのファースト・アルバム(2004年)を買ったんです。そのあと『COME ON!』(2002年)も手に入れたんですけど、SAKEROCKとYOUR SONG IS GOODは、どういう人なのか、なんていう音楽なのかわからないまま聴いてましたね」
――いわゆるロック・バンドではないし、謎の人たちだったと。
福富「でも、そのあとすぐにジュンさんとハマケンさん(浜野謙太、元SAKEROCK)が司会のスペシャの番組『スペシャボーイズ』がはじまって、それを通じてだんだんとわかってきたんですよ。『スペシャボーイズ』は結構カルチャー・ショックで、僕にとっての〈インディーズ〉とはまた違う〈インディー〉との出会いは、あの番組だったと思う。チャットモンチーやHALFBY、サ上とロ吉やTUCKERなんかも出ていたし、そういう人たちを通じて、〈自分が知らないところにめちゃおもしろいカルチャーがあるんだ〉と気づいたんです。
で、タワレコやヴィレヴァンとかに行ったら、そういうアーティストを絡めたコーナーがあって、自分のなかでもいろいろと繋がっていく。その中心にいたのがYOUR SONG IS GOODとカクバリズムだったんです。中2以降は、スペシャっ子やったので、TVを通じて常にジュンさんを追いかけているという感じでした。その間に、洋楽も聴くようになるし、自分が聴く音楽も変わっていくんですけど、ユアソン自体もめちゃ(音楽的に)変わっていったじゃないですか?」
サイトウ「そうだね(笑)」
福富「それが良かったんです。ユアソンの『THE ACTION』(2008年)は僕が高2のときに出たんですけど、あのアルバムはアークティック・モンキーズやクラクソンズみたいな音楽をユアソンがやっている感じでしたよね。そのとき自分もニュー・レイヴとかガレージ・ロック・リヴァイヴァルが好きだったので、『THE ACTION』にも〈そうでなくっちゃ!〉って思えたんです。それがすごく嬉しかったし、〈すげー!〉となったのを覚えていますね」
――『THE ACTION』でのパンク/ロック化には自分も興奮したのを覚えています。
福富「ユアソンのライブを最初に観たのも『THE ACTION』のツアーだったんですけど、それはもう衝撃的すぎたのか、ほとんど覚えていなくて。なんか壮絶だったんです。当時、自分はELLEGARDENとかを観に行ってていて、首にタオルを巻いて、短パンをはいて……というキッズだったんですけど、そういうメロコアっぽいノリとは違いつつも、お客さんがすごく暴れていて、会場内は酸欠状態。ジュンさんやメンバーも苦しそうだったし(笑)」
サイトウ「それ、僕も覚えているんですけど、演奏以前に〈とにかく呼吸……呼吸をさせてくれ〉って感じだったんです(笑)」
福富「『THE ACTION』のあとに出た『B.A.N.D.』(2010年)は大学受験の帰りにCD屋さんに寄って買ったんですけど、ヴァンパイア・ウィークエンドの『Contra』(2010年)も同じ時期に出ていて、一緒に購入しました。ふたつのアルバムは、音楽的にもトロピカルでリンクしていると思った。僕は『B.A.N.D.』では“UNBREAKABLE”が好きですね」
サイトウ「渋いね。ありがとうございます(笑)」
福富「そのあとの“SIGNBOARDER TRIPPIN'”もすごく好きやし、こういう曲が最後に入っているっていうのがまたよくて……。『B.A.N.D.』のツアーのときは、もう京都に住んでたんですけど、ちょうどGWに金沢公演があって、帰省もかねて行けたんです。『THE ACITON』のツアーでは〈ユアソンのライブに行きました! 角張さんを遠目に見ました!〉っていう興奮だったけど、『B.A.N.D.』のときは〈ライブも最高だし、もうユアソン大好き~!〉となりました。京都に帰ったあとも磔磔に観に行ったし、大阪・梅田のAKASOと、さらに京都の嵯峨美の学祭にも行った。その年はたぶん8回くらいユアソンを観ていますね(笑)。追っかけみたいな感じでライブのたびにサインをもらっていました」
――ユアソンも音楽性の面ではいろいろと変化していきましたけど、福富さんはファンとしてその変わりっぷりに戸惑う時期などはなかったんですか?
福富「自分もリスナーとして成長していく過程にいたので、自然に受け入れられたんですよね。逆に『THE ACTION』のときに、それまでのユアソンみたいな音楽だったら、ここまでうわー!と興奮しなかったと思う。変化していくところが、子供ながらに好きやったんです。自分が歩いている道のちょっと先にいるけど、先にいすぎない感じも好きでしたね。
あと、バンドの変化の背景や影響を受けた音楽をインタビューやライナーノーツで教えてくれるのも良かったんです。全曲解説みたいなのがほとんどのCDに入っていたんですよね。あ、これ(『THE ACTION』)は入ってなくて悲しかった(笑)」
サイトウ「たぶん、力尽きたんだろうね(笑)」

福富「ホントにすごかったんです。FRUITYやNUTS & MILK※の頃からそうだったけど、〈CDやのに読み物としてもおもしろい〉ことにも、スピッツやアジカンとは違う匂いがあった。SAKEROCKのCDにもライナーが入っていたし、そういうインディー感に惹かれたんでしょうね。ジュンさんは変化していくときに、ちゃんとリスナーに向けて説明するじゃないですか。ライナーに書かれているバンドやジャンルをTSUTAYAで探して借りるという作業を、中学や高校の頃はよくしていました。ある種、雑誌みたいなメディアとして、ジュンさんやユアソンを捉えていたところがあるのかもしれないです。
『OUT』(2013年)以降のインタビューも、自分がそこまでダンス・ミュージックに詳しくないぶん、知れるきっかけになれるから、とてもおもしろく読んでいます。そこでフォー・テットの聴こえ方が変わったり、クラップ!クラップ!のアルバムを買ってみたりして。なのでユアソンとの付き合い方というか楽しみ方みたいなものは、どれだけ人間的に距離が近くなっても変わっていないんですよね」
――Homecomingsも毎回ライナーを入れていますし、今作でもアルバムの全曲解説を特設ページに掲載していて。思えば、福富さんのそういうスタンスはユアソンから影響を受けていたんですね。
福富「めちゃくちゃ意識していますね。音楽として、というよりも、そういう姿勢からの影響がHomecomingsというバンドに表れている気がします」

カクバリズムはずっと続いていくレーベルだと思う
――そんななか、お2人は晴れてレーベルメイトになったわけですけど、サイトウさんはHomecomingsのカクバリズム加入を聞いて、どう思いましたか?
福富「それは気になりますね(笑)」
サイトウ「いや、もうついに来たなっていう感じでした。人間的に仲良かったというのもあったし、違和感はまったくなかったですね。うちの社長(角張)から〈今度ホムカミやるかも〉みたいな話を聞いたときも、〈うん、そうだよね〉って感じでした(笑)」
福富「嬉しいですね」
――福富さんとしては、カクバリズムに入ることで、Homecomingsにどんな影響をもたらしたかったんでしょう?
福富「ユアソンはもちろんSAKEROCKやcero、キセル、mei(ehara)さんなど大好きな人たちがいっぱいいる、というのが入った理由としてはシンプルに大きいんですけど、そういう人たちがいる場所に身を置くことで、(自分たちの活動に)筋が通るんじゃないかなと思ったんです。自分たちもいい影響を受けつつ、Homecomingsからもカクバリズムにフレッシュな刺激を与えられたらいいなって」
――カクバリズムというレーベル自体には、どんな印象を抱いていましたか?
福富「カクバリズムは、ずーっと続いていくレーベルだと思うんですよ。所属しているバンドも長く続けている人ばかりやし、それはレーベルからアーティストへのケアやマネジメントがしっかりできているからなんだと思う。そこがすごく魅力的でした。あとカクバリズムって、そのときどきで自分たちの意思をちゃんと表明するじゃないですか。デザイナーさんの問題、思い出野郎(Aチーム)のイベントで差別発言があったときなんかも、すぐに自分たちの考えを発表していた。そういう姿勢も、自分がバンドをやるうえでの意識と合っている気がしました。そこも大きかったですね」

新しい街へのウキウキする気持ちを映した『Moving Days』
――そして、Homecomingsの新作『Moving Days』に収録された“Moving Day Pt. 2”は、サイトウさんがプロデュース。そもそも〈Moving Day〉という言葉はもともとシングル“Cakes”のカップリング曲“Moving Day Pt. 1”で使われていましたよね。今回は〈Pt. 2〉であり、さらにアルバムのタイトルにもなっていて。
福富「〈Moving Day〉というワードは以前から頭のなかにあって、いつか大きく使おうとメモってあったんです。“Moving Day Pt. 1”のときは“Cakes”のカップリングだけで終わるものではない気がしたから、〈Pt. 1〉と付けて、次も使えるようにしたんです(笑)。よく考えたらそれもユアソンっぽいですね」
――確かに(笑)。前作『WHALE LIVING』(2018年)以降、メンバー全員が京都から東京/関東に引っ越したことも、新作の〈Moving Day〉というテーマには影響を与えたんじゃないですか?
福富「住む町が変わったことは、やはり大きかったですね。引っ越してきて何もない、でも風通しのいい部屋があり、外に出てみると郊外の街で、大きな川が流れていて……という環境から新作の世界観が出来ていった。そして、気持ちがワクワクする、ウキウキする――そういう感覚にマッチしたのがソウル・ミュージックだった。アコースティックな『WAHLE LIVING』の次に出すべきものとしても、ソウルっぽい音楽がしっくりきたんです。肉体的な音楽……シンプルに言うと踊れるものにしたいという気持ちはあって」
――ホムカミとしてのソウルをめざすうえで、サイトウさんに力を借りようと思った?
福富「というより、僕はもうずっと昔からジュンさんに、〈ホムカミの曲で弾いてもらいたいな〉と思っていたんです。それこそHALFBYの曲に参加されていたし、GALLOWへの客演などもあったし、どの曲を聴いてもジュンさんの音ってわかる感じが良かった。だから、バンドとして〈キャロル・キングみたいな曲を作りたい〉となったとき、〈それはジュンさんに鍵盤を入れてほしいよね〉と、メンバー全員一致で決まりました。ちょうどカクバリズムにも行くし、タイミング的にもぴったりだなと」
――じゃあ、サイトウさんの参加ありきで曲作りも進めていったんですか?
福富「僕らとしてはそうでしたね。だから、デモでも間奏部分は思いっきり空けていて(笑)」
サイトウ「歌モノの曲なのに、おそらくオルガンのソロ用だと思われるスペースが〈こんなに空ける?〉ってくらい空いてたね(笑)。最初に聴いたときは笑いました」
福富「最初は演奏者としてお願いしようと思っていたんですけど、カクバリズムのスタッフからの提案でプロデュースもしてくれることになったんですよね」
サイトウ「僕は、紆余曲折がありつつ、いろいろなスタイルでバンドを20年以上やってきたし、〈これまで自分が経験してきたことを、そろそろ何かしらに活かせないかな〉とちょうど思っていたんですよ。そんなタイミングでHomecomingsがカクバリズムに入ってきて、この話をもらった。なのでタイミングがぴったり合ったというか、僕も〈いい機会をいただけたな〉と思いました」

ここにHomecomingsのインディー・ロックがちゃんとあります
――サイトウさんは“Moving Day Pt. 2”のデモを聴いたときどんな印象でした?
サイトウ「デモの時点で、メロディーも歌詞も歌い方もほぼ出来上がっていたから、すでにすごく良かったんです。なので、そこはあまりいじらないほうがいいなと思いました。今回は〈とにかくいい曲をめざす〉――そういうプロデュースがいいんじゃないかな、と。だから、僕は最初に〈これ、場合によっては僕がオルガンを弾かないかもしれないよ〉と伝えました。福富くんは〈うーん……〉と言ってたけど(笑)」
――福富さん的にはサイトウさんに弾いてほしいでしょうからね(笑)。
サイトウ「デモを聴かせてもらう前に、福富くんから〈ソウル〉というキーワードを教えてもらっていたんです。バンドのメンバーみんながソウルを聴いてて、これまでのインディー・ロックをやめるわけじゃないけれど、バンドとしてもちょっと新しいことをしたいと思っている、と。それなら自分のやってきたことを活かして、手伝えそうだなと思ったし、まず〈どのソウル?〉と探りました。ソウルといっても様々だから、そこがズレると大変なことになるので(笑)」
――〈ソウル感〉はどう擦り合わせていったんですか?
サイトウ「最初の時点でさっき言っていたキャロル・キングという名前も出ていたような気がするし、ひとつ〈SSW的な感覚としてのソウル〉というイメージを共有してもらっていはいたんです。ただ初めての共同作業だったので、もっとホムカミのことを知りたいと思って、僕から〈福富くんがこの曲に求めるソウル感を持った音楽は?〉〈いまHomecomingsが聴いているものは?〉、そして〈Homecomings内クラシックスといえば?〉という3つの質問を出しました。回答をまとめたファイルが戻ってきたんだけど、それがまたすごかった。画像もテキストもいっぱいで、ホントに雑誌みたいなやつ(笑)。〈福富くん、またやってくれたな〉と心を奪われましたね」
――さすが(笑)。そのなかで特に印象的な回答は?
サイトウ「まず〈バンド内クラシック〉では、いわゆるインディー・ロックの名盤みたいなものが並んでいて、ぺイヴメント、エリオット・スミス、ダニエル・ジョンストン、ジェイムズ・イハなどなど。ロケットシップも入っていたかな。なかにはサントラの作品も入っていて、すごく納得できました。
で、〈ソウル感〉と〈いま聴いているもの〉への回答としては、レックス・オレンジ・カウンティの“Loving Is Easy”が挙がっていて、これはデモの楽曲の構造的な部分で近いなと感じました。で、“Loving Is Easy”についてリサーチしたんですが、個人的には、バンド生演奏のシンプルなアレンジが素晴らしかった〈Tiny Desk Concert〉のヴァージョンがヒントになりそうだな、と思ったりして。
ただポイントだったのは、レックス・オレンジ・カウンティをそのままやるのではなくて、インスパイアさせてもらいつつ、バンドのいちばん大事な部分をなくさないように、ということでした。自分のバンドの話で恐縮ですが、僕らはそのときどきで好きなものにガーッと行っちゃいがちで、その結果いろんなスタイルの変遷をたどることになるんですけど、経験者として反省込みで言うと、やっぱり新しい部分と既存の魅力のバランスがとっても大事なんですよね。なので、そのさじ加減を大切にしながら、進めてあげたいなと。そうなるとHomecomingsの根っこにあるインディー・ロック的な部分が大事だし、その面でも〈Homecomings内クラシック〉を共有できたのは良かったです」
――インディー・ロック的な部分を活かすうえで工夫したところは?
サイトウ「デモのなかに、福富くんがギターのフレーズをいろいろと試しているテイクがあったんです。きっとギターで表現できるソウルっぽさを試していたんだと思うんですが、その断片にひときわ光っているフレーズがあったんですよね。完成したヴァージョンではイントロとアウトロに使っているギター・リフなんですけど、〈お! これめちゃくちゃいいフレーズじゃない?〉と思ったんです。ソウルというより、まさにインディー・ロック的な、ギター・リフで一気にもっていくみたいなかっこよさがあった。
なので、ソウル的なアプローチをめざしつつも、〈ここにちゃんとHomecomingsのインディー・ロックがあります〉という感じが大事だし、新しい部分と既存の魅力のバランスをとる秘訣は、そのあたりにありそうだと感じました。ベースやドラムにもそういう部分があったから、ホムカミ流のソウルをめざしつつ、これまでのインディー・ロックのいい部分も確認していったのかな」

福富「いままではメンバー以外の人に参加してもらうこと自体がほとんどなかったので、そういうことを言ってもらえるのはすごく楽しかったです。ジュンさんからのアドヴァイスは4人それぞれが〈おー!〉って感じだったと思います。照れくさいけど嬉しかったな。プレイヤーっぽくない4人なんで、〈自分のこれが魅力です〉とか言えない感じなんですよ。ほなちゃん(福田穂那美、ベース)とかも〈ベースについてのインタビューはNGです、なんも喋れません〉という感じで(笑)」
サイトウ「僕らもバンドとして、ほぼ同じ。やっぱりプレイヤー志向ではないので何かその感覚がわかります。だからこそ客観的に見えてきたというか〈おーい! ここ光っているよー!〉とピンときたような気がしますね。
そんな感じで、バンド・アンサンブル的には福富くんが弾いたギターのフレージングの妙を活かしつつ、なるちゃん(石田成美)のドラムとほなちゃんのベースがシンプルながらすごくいい感じにグルーヴしていたので、そこを軸に組み立てていきました。僕からは、ソウルっぽい響きを出すためのコード変更や、構成の見直し、テンポの調整、なんかを提案させてもらって。プリプロで、メンバーのアイデアが入って、さらに曲が良い感じに化けました。
で、メロディー、畳野さんの歌ですよね。これがもうデモの段階からお世辞抜きに素晴らしかったです。なんだろう……日本語を歌ったときのグルーヴ感、言葉をメロディーにする際の発音とか、ホントににすごくてかなり衝撃的でした。〈とにかくこの素晴らしい歌を最大限に活かさないと!〉と強く思いましたね。制作の最初の頃はソウルとかインディー・ロックとか言ってましたけど、最終的には、そういうジャンル云々ではなく、〈サビで風を吹かす〉みたいなワードに変わっていた(笑)。そんな感じで、とにかく畳野さんの歌が最高だったんです」
福富「それは、彩加さんの声がやっぱり特別な声だというのが大きいと思う。やっぱりソウルってリズムであり歌でもあると思うし、ポップスとして提示するものとしても彩加さんの歌はいちばん聴かせたいものでした。それこそ彼女が参加したくるりの“コトコトことでん”(2021年)なんかを聴いても、この人の歌ってすごいな……と思ったし」
サイトウ「インディー・ロック的な味わいを大事にしつつ、畳野さんの歌をどんどん伸ばしていったら、Homecomingsはさらにすごいことになるんじゃないか……なんていう興奮が、このレコーディング中にはありましたね。で、こうなると大事なのは福富くんの歌詞ですが、畳野さんの歌と福富くんの言葉というコンビネーションこそがもう最高なんですよ」

街を歌うことで社会を描く
――サイトウさんは『Moving Days』というアルバム全体には、どんな感想を持たれました?
サイトウ「まず本当に素晴らしい作品でした。1曲目の”Here”のイントロを聴いて、〈あ! これは名盤だ〉と直感しましたね。とにかく”Here”の出来が素晴らしすぎて、〈プロデューサーとかいらなかったんじゃないの?〉とすら思いました(笑)。
“Moving Days Pt. 2”は映像作品になるんですが、その撮影の関係で、福富くんがいま住んでいる街に僕が出向くことがあったんです。で、車の中でこのアルバムを聴きながら向かったんですけど、本当にサウンドトラックかっていうくらいにぴったりハマって。自分と郊外とがどんどん接続されていくような感じがあったんですよね」
福富「嬉しいです。自分が住んでいる場所の感じはどうしても出るっていうか。あらためて自分で聴き直しても、そう思いました。でっかい川が流れていて、こっちを向くと電車の線路があり、逆を向くとモノレールがあり、丘があって街が光っている。その感じは自分で想像していた何倍もアルバムに出ている気がします」
サイトウ「僕も郊外育ちなんですけど、このアルバムは言葉から喚起される情景とか、その結果の空間の広がりとかがすごく魅力的。車中で聴く体験は、郊外の景色が輝き、光を帯びているように見えたし、自分もその世界に入り込んでいくような、これまで味わったことのないものでした。都会のことを歌っている歌はいっぱいあるんだけど、郊外を題材にしたこんな音楽ってあったかな、いやもっとこういう音楽があってもいいよな、と思いました。あとはそれゆえに〈俺はいま福富くんの街に向かっているんだ〉というのも、ものすごく実感した(笑)」

――福富さん自身が、いま暮らしている街を好きになれたことも、作品にいい影響を与えていそうですね。
福富「うん、そうですね。ただ、街だったり部屋だったり。たぶんどこに行っても好きになる人なんやろうなと思います(笑)。本当は街について歌うことを卒業するつもりやったんですよ。いままで意識しすぎていたし、もうそれはいいかなって。もっと街ではなく、暮らしや社会について歌っていこうかなと思っていたんです。でも出来上がった曲をいざ並べてみたときに、結局、街が浮かび上がってきた。だから、僕にとっては街の物語を歌うことが社会を歌うことなんだろうな。それは実感しますね」
サイトウ「福富くんのなかで、その2つは地続きなんだろうね、その感覚はとてもよくわかります。もしかしたら人によっては郊外の街に行っても、何も感じないと思うんですよ。でも福富くんの感性で描かれると、なんてことのないようなもののなかにも、愛おしいものがあると思える。すごいよね、君は」

LIVE INFORMATION
Homecomings〈Tour Moving Days〉

2021年7月17日(土)愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
2021年7月18日(日)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
2021年7月23日(金)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
★ツアーの詳細やその他のライブ情報はこちら