(左から)福富優樹、サイトウ“JxJx”ジュン
 

いまから8年ほど前だろうか。Homecomingsが結成されて間もない頃、まだ少年の面影が残る21歳の福富優樹と話した際、彼は〈もっとも好きなバンド〉のひとつとしてYOUR SONG IS GOODを挙げてくれた。その頃のホムカミはアノラック~ギター・ポップ・バンド然としていて、ユアソンと音楽的には似ている印象がなく、少し驚いたことを覚えている。そうした意外性からか、妙に頭に残っていて、いつか彼がユアソンについて話す機会を作りたいと思っていた。

Homecomingsが新作『Moving Days』をリリースしたいまこそ、その格好のタイミングだろう。というのも、収録曲の“Moving Days Pt. 2”をYOUR SONG IS GOODのサイトウ“JxJx”ジュンがプロデュースしているからだ。同曲は、サイトウの力添えもあり、初夏の風のように心地よい、軽やかで晴れやかなソウル・ポップスとなっている。新作の大きなテーマである〈引っ越し〉の風景を描いた“Moving Days Pt. 2”については、すでにサヌキナオヤが同曲をモチーフとした漫画を執筆。さらに、サヌキの漫画を原作にしたショート・ムービーが公開されるなど、ホムカミの新たな代表曲となりそうだ。

今回は、サイトウも招き、両者の対談を実施。カクバリズムのレーベルメイトとなった2人が、それぞれの印象、“Moving Days Pt. 2”制作時のやりとり、さらにアルバム『Moving Days』の魅力についてまで、たっぷりと語ってくれた。

Homecomings 『Moving Days』 ポニーキャニオン(2021)

Homecomingsの第一印象は、極めて正しいインディー・ロック

――サイトウさんはもともとHomecomingsにどういう印象を持っていましたか?

サイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)「まずは京都のバンド、それからリリース元のSecond Royalは、カクバリズムともともと交流があったレーベルなので、そこの新しい子たち、というのが最初の印象でした。なので、新しい仲間が加わってきたというか。ぜんぜん知らない人というよりは、絶対に仲良くなるレールの上に登場してきてくれた感じ。実際にはじめて会ったのは〈フジロック〉だよね?」

福富優樹(Homecomings)「そうですね、2013年かな。僕らが〈フジ〉の〈ROOKIE A GO-GO〉に出た年。でも、そのときはまだちゃんとは話していないような気がします。角張(渉、カクバリズムの社長)さんと会場で会って〈ジュンさんと一緒にホムカミを観に来てください〉と言ったら、〈ジュンくんは(同じ時間帯だった)ジュラシック5を観に行くと言ってたよ〉って。それなら仕方ないなと(笑)」

サイトウ「おっと(笑)。僕らのリハのときに、畳野(彩加、Homecomings)さんと袖で観てなかったっけ? そこで、自己紹介された記憶があるんだけど」

福富「いや、それはたぶん〈フジロック〉の少し前にあった下北沢の〈Indie Fanclub〉なんですよ。そのときにもらったサインがこれで(CDを見せる)」

サイトウ「物的証拠が(笑)。そのとき、僕はまだホムカミの音を聴いてはなかった気がするんだけど、まぁでも会った瞬間から普通に仲間っていうか、そういう雰囲気だったな」

――では、実際にホムカミの曲を聴いてみたときの感想は?

サイトウ「いい意味で想像通りの(笑)、いや極めて正しいインディー・ロックという感じ。僕は、好きなことをやっている人が好きなんですよ。Homecomingsも音楽からそれが伝わってきたので、〈この人たちは好きな音楽をやっているな、いいなあ〉って好印象だったし、信頼できる気がした」

Homecomingsの2014年のシングル“I Want You Back”
 

――その後、Homecomingsはキャリアを重ねていくわけですが、彼らの成長や変化をどう見ていましたか?

サイトウ「まず仲間として知り合ったというのがあるので、バンドの動きを意識していたというより、人として親しくなっていった感覚なんです。SNSや、たまに現場で会ったりなんかを通じて、福富くんのパーソナルな部分――ウェス・アンダーソンの映画が好きだとか――が伝わってきたし、好きなものだけでなく、それらを取り巻くカルチャーごと愛している様子を見て、さらに好感を抱いたり。歳はぜんぜん違うし、京都と東京で距離もあったけど、ゆっくりと時間をかけて彼のパーソナリティーを知っていったというか、不思議な感覚ですよね。そこにバンドの音がくっついてくる、みたいな」

――なるほど。福富さんが好きなカルチャーとHomecomingsの音楽自体にズレがないところも、サイトウさんとしては理解しやすかったのかもしれませんね。

サイトウ「そうですね。バンドのアートワークや、映画との関わり方もいいし、それから本(福富原作、サヌキナオヤ作画の漫画『CONFUSED!』)まで出しちゃったり。いずれもクォリティーがすごいのはもちろん、なんか楽しそうだし、見ているこっちがニコニコしてきちゃう感じがあると言いますか。良いですよね。そうだ、物販もかっこいいし。これは細かいエピソードなんですけど、福富くんは京都のタワレコで働いていましたよね? 僕はそれを知らなくて、お店に挨拶に行ったときにいたんですよ。バンドの一員やライブのお客さんとしてではない福富くんと会えて、より多面的に彼のことを知れて(笑)。

あと、〈こいつはやばいな〉って思ったのが、渋谷のCLUB QUATTROでツーマンをしたとき。もちろんHomecomingsのライブもすごく良かったんだけど……」

福富「2017年のクリスマスですよね」

サイトウ「そうそう。Homecomingsの企画。それまでも何回か誘ってもらってたんだけど、なかなかタイミングが合わなくて、やっと満を持してという感じでYOUR SONG IS GOODとして対バンさせてもらったんです。ライブに関して言うと、フロントの2人とリズム隊の2人のコントラスト、バランスがすごくかっこよくて。これはいいバンドだなって思いました。

で、忘れられないことがひとつあって、無事にライブが終わり、打ち上げに渋谷の〈ひもの屋〉というチェーン店系の居酒屋に行ったんです。で、みんなが最初の乾杯用にビールとかウーロンハイとかを頼んでいるときに、福富くんはホワイト・ルシアンというカクテルを店員さんに注文していたんですよ。ホワイト・ルシアンって映画『ビッグ・リボウスキ』(98年)のデュードがいつも好きで飲んでいるお酒なんだけど、そんなのがひもの屋にあるわけないじゃないですか(笑)。僕は『ビッグ・リボウスキ』を本当に好きなので、〈えー!? あの『ビッグ・リボウスキ』の?〉と。それで僕はやられてしまって、〈ああ、福富くん最高だな、ホントに信頼できる奴だなって〉って勝手に思いました。あれは爆笑しましたし、なんかすごく良かった」

福富「もちろん僕もコーエン兄弟の映画が大好きですし、『ビッグ・リボウスキ』でホワイト・ルシアンを知ったんですけど、〈ジュンさんの前でかますぞ〉ってよりは、その頃に飲んでいたお酒のスタンダートとして頼んだら、ズレていたみたいで」

サイトウ「その普通に頼んでいる感じも良かった。でも、びっくりしました。あの時点で、彼とはいずれレーベルメイトになるとわかってたのかもしれない(笑)」