Chihei Hatakeyama
 

ギター・サウンドを軸にしたエレクトロニカを作り出すChihei Hatakeyama(畠山地平)。2006年のデビュー以降、ワールドワイドな活躍を続けてきた彼が、UKのギアボックス・レコーズ(Gearbox Records)からニュー・アルバム『Late Spring』を発表した。柔らかで、ほのかに甘いサイケデリアが貫かれた本作のサウンドスケープは、タイトル通り春の終わりに聴くのに最適。聴き手を穏やかなトリップへと誘う作品になっている。

今回は、同じく電子音楽家であり、TRAKS BOYSや(((さらうんど)))のメンバーとしても活動しているDJのXTALが、畠山にインタビュー。、Chihei Hatakeyamaならではのサウンドの正体に迫った。 *Mikiki編集部

 


XTAL
 

アンビエント/ドローンという音楽スタイルをとりながら、聴き手の感情や記憶に強く作用していくことが、私にとってのChihei Hayakeyama氏の音楽の魅力である。また精力的に創作を行いリリースを続けているところも、同じ音楽の作り手として興味深い点であり、今回はどのようなプロセスで制作を行っているかを氏に尋ねた。今後の自分の創作にも刺激を与えるような、有意義な対話をすることができた。

 

マイブラのギター・ノイズを拡大していくとChihei Hatakeyamaになる

――僕はXTALという名前で音楽を作っています。ダンス・ミュージックだったり歌の入ったポップ・ミュージックだったり、電子音楽だったりいろいろな音楽を作っているんですが、そういう自分の立場も交えながら、今回はお話を訊けたらと思っています。まず、僕と畠山さんの音楽との出会いから伝えたいんですけど、Chee ShimizuさんというDJの方を畠山さんはごぞんじですかね?

「ええ。高円寺にKNOCKというクラブがあって、よく行っているんですけど、CheeさんがたまにそこでDJをしているんです。会うと話しますね」

――あ、お知り合いなんですね。CheeさんがやっているOrganic Musicというオンラインのレコード屋さんで畠山さんの『Mirage』(2017年)を取り扱っていて、僕はそれで知ったんです。中古がほとんどの品揃えなのに、新品のレコードを置いているのが珍しくて、それで買ってみたらすごくいいなと思った。

自分の印象的なところでいうと、畠山さんの音楽はアンビエントのなかでもエモーショナルなアンビエントだと感じて、そこにすごく惹かれました。ブライアン・イーノ的な〈聴いても聴かなくてもいい〉といった意識のうえで作られているアンビエントとは違うなと。そして、それは畠山さんが思春期に聴いてきた音楽とかが関係しているのかなと想像しているんです。僕は77年生まれなんですけど、畠山さんは何年生まれですか?

「78年ですね」

――じゃあ、ほとんど同世代ですね。僕は中学生くらいのときにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとかライドとかイギリスのギター・バンドが好きだったんですけど、『Mirage』や新作を聴いて、そういう音楽のギターの残響やコード感にズームインしていくと、畠山さんの音楽に近づくんじゃないかなと思ったんです。畠山さんはそのあたりの音楽を、当時聴いたりしていました?

「そうですね、鋭いなと思いました。ギターのコードとかは結構マイブラを参考にしています」

2017年作『Mirage』収録曲“Starlight And Black Echo”
 

――ギターを使われていることは畠山さんの音楽の大きな特徴ですよね。アンビエント的な楽曲を作りはじめたきっかけは?

「最初にひとりでシンセやシーケンサーで音楽を作るようになったときは、そんなにアンビエントを意識していたわけではなかったんです。いまから20年くらい前、大学生のときはポスト・ロックっぽいジャム・バンドをやっていました。それもシューゲイザーっぽい……いまじゃあまり見かけないけれど、当時はいっぱいいたようなBOREDOMSとかの影響下にあるバンド(笑)。でも、バンドでやるのはなかなか難しいですよね。若いし喧嘩になっちゃったりするわけで。ああじゃない、こうじゃないとか。いま思うと細かいことばっかにこだわっていたんですけどね。

それで、友達が当時出たばっかりのPowerBook G4で曲を作っているのを見たら、〈いや、こっちのほうがいいな〉と思って、すぐにヨドバシカメラに突撃したんです。オーディオ・インターフェイスとCubaseとソフト、全部で70万円くらいになったかな、3年ローンをその場で組んじゃった。そのあと借金を返していくのが大変でした(笑)。とにかく、そこからパソコンで音楽を作りはじめたんです」