毎週火曜日に更新している、編集部スタッフがオススメの邦楽ソングを紹介する連載〈Mikikiの歌謡日〉。昨年に引き続き年末特別編として、〈MKK歌謡祭〉をひそやかに開催いたします。編集部の4人+TOWER DOORSの小峯崇嗣が今年のベスト・ソングを最大5曲挙げ、それぞれコメントとともに紹介いたします。記事末尾には楽曲をまとめたSpotifyプレイリストもありますので、併せてお楽しみください。

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鈴木英之介のベスト5

サニーデイ・サービス “心に雲を持つ少年”

サニーデイが今年放った瑞々しき傑作『いいね!』の冒頭を飾る一曲。再生タブをタップすると、スミスのジョニ―・マーを彷彿させるメロディアスなギターに性急なビート、そしてかすれたハイトーンのヴォーカルがどっと押し寄せてくる。ヒリヒリとした焦燥感を湛えたバンド・サウンドを浴びながら、〈音楽を聴いて胸がドキドキする〉という感覚を久しぶりに味わった。曽我部恵一が志磨遼平を相手に、この曲の制作秘話を語った対談映像も必見。

 

岡田拓郎 “New Morning”

最新アルバム『Morning Sun』のラストに置かれた一曲。エレキ・ギターの深く歪んだトーン、アコースティック・ギターの生々しい音、近くで鳴っているかのように感じられるデッドなドラムスの響き……各楽器の音色からその配置に至るまで偏執的なまでのこだわりで貫かれている。その音像はウィルコの昨年作『Ode To Joy』との親近性を感じさせる。そして終盤に訪れるドローン/アンビエントのような展開が、深い余韻を残す。聴き終える度、〈新しい朝〉の到来を信じてみたくなる。

 

田中ヤコブ "膿んだ星のうた”

〈自由なんて欲しくないのに/いつでも私は軌道を逸れて/何処へでも行けるんだよ/だけど何処にも行けないんだよ〉。山本精一を思わせるエレキ・ギターの弾き語りで訥々と歌われるこの一節に、心を掴まれてしまった。名盤の風格漂う最新作『おさきにどうぞ』の収録曲。やがてテンポアップし軽快な曲調になっていくのだが、基底にはメランコリーが残り続ける。しかしそれが妙に心地良いのだ。欠落感を抱えた心にそっと寄り添ってくれるような、寂しくて優しい曲。

 

澁谷浩次 “Lots of Birds”

ロバート・ワイアットの“Sea Song”を初めて聴いたときのような、静かな衝撃を覚えた。朴訥とした歌声と切ない和声進行に、とにかく胸を打たれる。基本的にピアノ弾き語りのような形で進行していくが、時折入ってくるヴィヴラフォンの響きがそこに高貴な浮遊感をもたらしており、非常に効果的だ。イ・ラン“患難の世代”と同一の素材をもとに作られたというミュージック・ビデオも、楽曲の世界観と完璧なまでにシンクロしており、素晴らしい。

 

タケトモアツキ “愛なんて”

まるでMr.Childrenのような必殺のミディアム・バラードをインディー・フォークやアンビエントR&Bなどを経由した繊細な音響で包み込む。このブレンド感覚がとても新鮮だと思った。そして歌詞がまた、切ないこと! 〈心なんてどれだけキスしても見えるはずないから/不安になり僕は君の体温に縋りつく〉などのフレーズに表れた感覚には、心当たりのある人も少なくないはず。この曲が収められたデビュー・アルバム『無口な人』も、ぜひ一聴を。

 

小峯崇嗣のベスト5

ALFRD “Personality”

新鋭レーベル〈makran〉所属のアーティスト、ALFRD

今年出会った楽曲の中でも、ダントツです。サウンドもメッセージ性も含めて全てが衝撃でした。2020年、BLMなどで浮き彫りになった現代社会の問題、個の在り方、多様性などに対峙するユースの想いや自身の姿勢を表した曲になっています。MVの冒頭のインタビューやカット割りなどの構成もとても印象に残りました。

 

AMIKO “ダンスホール”

2018年から活動するアーティスト、AMIKO。映画音楽の作曲家であり、作詞作曲を行うSSWであり、ピアニストやトラックメイカーであり、さらにはアートワークの制作も自身で行う多才なアーティストです。今回紹介した楽曲は戸田真琴監督の映画「永遠が通り過ぎていく」(2019年)のエンディング・ソングで、今年配信されました。

流麗なピアノの澄み切ったサウンドに、エレクトロニカやノイズなどを取り込んだドラマティックな一曲に仕上がっています。その美しい音像に心の底から感動しました。

 

non albini “Kyoto(feat. Lil Soft Tennis)”

関西を拠点に活動するネオ・ポスト・パンク・バンド、R4のヴォーカリスト、Hiroki Arimuraによるソロ・プロジェクト、non albini。デビューEP『Nostalgia King』のLil Soft Tennisとフィーチャリングした楽曲。

来年のイベントやフェスでアンセムになっているのではないでしょうか。観客全員が大合唱している光景が目に浮かびます。正直フィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)の“Kyoto”より名曲です。

 

zzz “イルネス”

東京を拠点に活動するシンガー・ソングライター/プロデューサーのzzz(ズズズ)が今年リリースしたシングル “イルネス”をご紹介。彼のいままでの曲の中でも、新たな試みを感じられる楽曲に仕上がっています。西海岸系のメロウなギター・サウンドが心地良く、インディー・ポップ感を前面にだしたバンド・サウンドの一曲です。

 

Sahnya “kite(feat.prince)”

新潟県を拠点に活動するアーティスト、Sahnya(サーニャ)が今年リリースしたシングル”kite(feat.prince)”をピックアップ。彼女に出会ったのは、2019年の暮れにリリースされたアルバム『My poetic scenes』でした。ダイレクトに心に響く言葉の数々に惚れ惚れしてしまった作品です。

今回のトラックは、princeが手掛けたネオ・ソウルからの影響を感じるレイドバックしたメロウなサウンド。そこに乗った優しくも現実を突き付けるメッセージに心奪われました。〈絡まった糸を解いて/物事の本質を自由にしてあげよう/一人一人が少しだけ近づくために〉。今年起きた出来事に重ね合わせてみると、本当にその通りだと改めて考えさせられる歌詞です。

 

天野龍太郎のベスト5

Moment Joon “TENO HIRA”

2020年、私にとってこの国の音楽シーンでもっとも重要なアーティストはMoment Joonでした。彼の言葉には変革の種が宿っていると思います。しかし、それはあくまでも種。それを肥沃な大地に埋め、芽吹くようにちゃんとケアし、大樹へと育てていくのは、私たちひとりひとりの役目だと思います。

 

SAI “SISTERHOOD”

Ms.MachineのSAIの飾らないリリックには、いつも揺さぶられます。GEZANが〈今お前はどこでこの声を聞いている?〉と語りかけたように、SAIは〈listen sister〉と呼びかける。音楽は一方向的な表現ではなくコミュニケーションであることを、彼女の“SISTERHOOD”は教えてくれます。

 

曽我部恵一 “永久ミント機関”

タイトで心地よい4つ打ちに乗せて語られる、いくつかの物語。そうして最後に歌われるのは、〈がんばれ!〉という言葉。こんなにナチュラルに背中を押す清々しい〈がんばれ!〉は、初めて聞いたかも。

 

ann ihsa “ひみつのへや”

今年出会った音楽のなかでも、とりわけ大きな驚きをもたらしてくれたのがann ihsaでした。彼女たちの『shuda shuda』ann ihsa soloとしての『緑の人』は、繰り返し聴いた大切なアルバムです。いずれも過去の作品なので、難波ベアーズを支援する目的でann ihsaが編んだ『CO​-​OP Compilation album vol​.​1』から“ひみつのへや”を選びました。フラジャイルな歌とアンサンブルの、いまにもほどけて霧散してしまいそうなあやうさとピュアネス。他にくらべられるものがない音楽だと思います。

 

ドードー(dodo)“大人のうちだあやこさん”

ここ数年で私にとって大きかったのはhikaru yamadaさんと再会したこと、そして、んミィさん(NNMIE)と出会ったこと。彼のんミィバンドは、さらに新しい音楽との出会いをもたらしてくれました。なかでもセキモトタカフミさんのバンド、どろうみは今年アルバム『親のない星が手の中で』をリリースしていて、そちらもすばらしかったのですが、ここではuccelliさんがサポートするドードー(dodo)のシングル“大人のうちだあやこさん”を取り上げます。すっと筋が通ったうちだあやこさんの歌と、不知火庵さんの心地よいハーモニー、あと、ねじれたユーモア。なにより、得も言われぬ妙味を生んでいるuccelliさんの不思議なサウンド・プロダクションがいい。どこかシュギー・オーティスのようであり、『Outro Tempo』のようでもあり、ニック・ハキムのようでもあり……。