晩年のジョン・コルトレーンの精神性をさらに純化させたアリス・コルトレーンの異色作『キルタン~トゥリヤ・シングス』
息子ラヴィのプロデュースにより新たな光があてられる
ジョン・コルトレーンの妻としても知られるジャズ・ピアニスト/ハーピストのアリス・コルトレーンは、1937年にデトロイトで生まれ、幼い頃から音楽に興味を示し、9歳の頃から教会の礼拝でオルガンを弾くようになった。音楽の専門学校には通っていないが、クラシックのピアノを習い、ヨーロッパのクラシック音楽に強い影響を受けたアリスは、やがてビ・バップと出会い、パリでバド・パウエルに師事し、60年代初頭からジャズ・ピアニストとして活動を始めた。その後まもなくマッコイ・タイナーの後任としてジョン・コルトレーンのカルテットに参加した彼女は、ジョンと共に精神世界の探求も始め、65年にはジョンと結婚したが、67年に死別。その翌年に発表した初リーダー作『モナスティック・トリオ』は、ジョンのグループのサウンドを踏襲した印象が強かったが、その後は精神世界をより深く探るようになり、音楽もアルバムを追うごとに瞑想的な色彩を強めていった。70年にヒンドゥー教の導師と出会った彼女はインドを訪れ、自らも指導者となってトゥリアサンギタナンダを名乗り、80年代に入ると自らが行う礼拝のための音楽作りに専念するようになった。
ALICE COLTRANE 『Kirtan: Turiya Sings』 Impulse!/ユニバーサル(2021)
今回、ジョン・コルトレーンやチャールズ・ミンガスといったジャズ史における重要な存在の拠点となったインパルス・レーベルの創立60年を記念して、アリスの一連のアルバムが初めてSHM-CD化されたが、その中の1枚である『キルタン~トゥリヤ・シングス』はもともと、彼女の指導を受ける生徒たちのために、カセットテープの形で500本ほど限定配布されたものである。1982年に録音されたオリジナルの音源は、アリスの朗誦とワーリッツァー・オルガンにストリングスやシンセサイザー、雷鳴のようなサウンド・エフェクトを重ねたもので、今ではYouTubeなどで聴くこともできるが、今回発売されるCDは、プロデュースを手掛けたジョンの息子ラヴィ・コルトレーンの意向で、アリスの歌とオルガン・パートのみが収録されている。