ジャズやフォークからフィールドレコーディングまでを融合させた独自の瞑想的なサウンドで、世界的な注目を集めている若き異才ナラ・シネフロ。2022年にリリースしたデビューアルバム『Space 1.8』が絶賛を集めたことも記憶に新しいが、先日2ndアルバム『Endlessness』を発表、早くも今年のベストアルバムの一つとして称賛されている。そんななか待望の来日公演の開催もアナウンスされた。

今回Mikikiは、新作について短期集中連載を展開。様々な聴き手に異なる環境と媒体で『Endlessness』を聴いてもらい、その場で感想を聞く。初回は、ブロードキャスターのピーター・バラカンにタワーレコード渋谷店のTOWER VINYLで聴いてもらった。ALTEC A5という巨大な劇場用スピーカーで2LPのアナログ盤を再生した。

NALA SINEPHRO 『Endlessness』 Warp/BEAT(2024)

 

音楽のお風呂に入っているような状態

――ピーターさんはナラ・シネフロのことをご存知でしたか?

「実はこのレコードで初めて知ったので、前作は聴いていないんです。アルバムに付いている柳樂(光隆)さんの解説文を読んで、3年前にアルバムを出していたこと、しかもそれがすごく反響があったことを知りました。だから、あくまでこのアルバムでしか判断できないし、彼女のバックグラウンドも知らないんです。彼女はいくつなんですか?」

――まだ24歳のカリブ系ベルギー人で、ロンドンで活動しています。

「若いですね。柳樂さんのライナーノーツによると、どの楽器も独学で習得したそうですね。実は僕、こういうタイプの音楽ってあまり聴いてこなかったんですけど」

――とはいえ、レーベルからの案内にバラカンさんが即座に反応されたと聞いています。

「いつも新譜の情報をもらっているのですが、ジャケットのデザインを見て、おもしろそうだなって思ったんです。それで1曲だけ聴いてみたところ、全部聴きたいと思ってレーベルにお願いしました。きっかけは勘でしたが、好きな音楽でしたね」

――『Endlessness』をじっくりと聴いてみて、いかがでしたか?

「コンピューターのスピーカーで一度聴いたのですが、今日ちゃんといいスピーカーで聴いたら、まさに音を浴びているような感覚でしたね。音楽のお風呂に入っているような状態でした(笑)」

――〈音浴〉という感じですよね。

「そういえば、音浴博物館という施設が長崎県の山奥にあるんです。廃校になった小学校にものすごい数の古いレコードやオーディオ機器を置いていて、同じ音源を複数のスピーカーでスイッチングして聴けるようになっています。あそこはなかなか素敵なところです。

脱線しましたが、これは本当に音浴の作品って感じですね」

――よくわかります。

「夏休みにブータンへ旅行に行って、古都のプナカに2泊したんです。街の中を川が流れていて、しばらく流れを見ていたのですが、このレコードを聴きながら、それを思い出しました。彼女の音楽を聴いていると、川の流れを見ているようだったんです。まさにアルバムタイトルの『Endlessness』(終わりがないこと)と曲名の“Continuum”(連続した繋がり)どおりの状態。川の流れって、常に同じでいて、また常にちがってもいて、それにすごく近い感じがしました。音を聴いて、その映像がよみがえってきました」