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©Frans Schellekens

 本稿執筆のために取材したラヴィによれば、アリスはこの頃、カリフォルニアのアゴラ・ヒルズにあったレッドウィング・スタジオを好んで使用しており、スタジオに備えてあったワーリッツァーのオルガンは、ライヴ盤の『トランスフィギュレイション』(1978年)や最後のアルバムとなった『トランスリニア・ライト』(2004年)など、彼女の多くの作品で使用されたものだという。〈キルタン〉とは、音楽を伴ったヒンドゥー教の礼拝を意味する。アリスは年に2、3回インドを訪れて何週間も滞在し、ヒンドゥー教はもちろん、インド音楽も学んだというが、本作で聴かれる朗誦やオルガンの演奏は、インド音楽というよりもむしろ、ゴスペルやブルース、ジャズの影響が色濃く出たものになっている。ブルージーな“クリシュナ・クリシュナ”やジョンのカルテットでそのまま演奏できそうなコード進行の“ラマ・カタ”、グルーヴィな“チャラナム”などは、その最たる例だ。アルバムとして発売するという商業目的ではなく、厳粛な礼拝のための音楽であるにもかかわらず、オリジナル音源に収録された歌とオルガン以外のパートやサウンド・エフェクトも含めて、アリスの自由なアーティスト性がうかがい知れる作品だと言えるだろう。今回のCD化にあたってアリスの歌とオルガン・パートのみを収録したことについて、ラヴィは次のように語る。

 「15年前に歌とオルガンだけのサブミックスを聴いた時、他に重ねたパートがない状態の母の声とオルガンの純粋さと、そこから感じられる意思の明確さに感動したんだ。もともとテープで配布された音源もいまだに人気があって、ネット上のデータやブートレッグの形で流通している。でも、日曜日に母がキルタンを主催する時には、自らオルガンを弾いて朗誦していたから、今回のCDのほうがむしろ、実際のキルタンの雰囲気をよりリアルに伝えるものになっていると思うよ」

 


PROFILE: ラヴィ・コルトレーン (Ravi Coltrane)
1965年、ハンティントン生まれ。86年頃、カリフォルニア・インスティテュート・オブ・アーツに入学。テナー・サックスを学ぶとともに、ジャズの理論やインプロヴィゼーションの方法をチャーリー・ヘイデンらから学ぶ。91年にエルヴィン・ジョーンズの誘いを受けて〈ジャズ・マシーン〉に参加。その後ジャック・ディジョネット、ラシッド・アリ、ビリー・コブハム、ボブ・クランショウ、ロイ・ヘインズ、山下洋輔らと共演。現在は自身の率いるバンド等で世界中のジャズ・フェスティヴァル、ジャズ・クラブを中心に活動中。

PROFILE: アリス・コルトレーン (Alice Coltrane) 【1937-2007】
1937年、ミシガン州生まれ。バド・パウエルにピアノを師事。1960年代後半、ジョン・コルトレーンのバンドのピアニストとして、ジャズのゴッド・マザーとして、スピリチュアル・ジャズの名手として名をはせる。フライング・ロータス、カマシ・ワシントン、レディオヘッドなどへ影響を与える。夫亡き後、1968年にインパルスより初のリーダー作『ア・モナスティック・トリオ』をリリース。この時にハープの演奏をはじめる。2004年に息子であるラヴィ・コルトレーンのプロデュースで『トランスリニア・ライト』をリリース。2007年逝去。

 


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