フランスのレーベル、ウィウォントサウンズ(Wewantsounds)が日本コロムビアのアーカイブから選曲・監修した大野雄二ワークスのコンピレーション『TOUCH -The Sublime Sound of Yuji Ohno-』を世界リリースする。ファンク、ジャズ、フュージョン、ディスコを織り交ぜた、日本発信のコンピレーションとは一味違う選曲から、これまでに大野雄二へのインタビューや公式ライブレポートなども担当している音楽ライター、北爪啓之に各楽曲を解説してもらった。 *Mikiki編集部

大野雄二 『TOUCH -The Sublime Sound of Yuji Ohno-』 Wewantsounds/コロムビア(2023)

 

日本ポップ音楽史上、最重要作家の知られざる曲

大野雄二は我が国のポピュラーミュージック史において最も重要な作編曲家/プレイヤーの1人である。代名詞ともいえる“ルパン三世のテーマ”を聴いたことのない日本人というのは稀だろうし、映画「犬神家の一族」の流麗な“愛のバラード”や、「人間の証明」でジョー山中が歌った哀切なテーマ曲、あるいはNHKの長寿紀行番組「小さな旅」の郷愁溢れるメロディーや、「きのこの山」のコミカルなCMソングなど、知らずに耳馴染んでいる曲も数多いはずだ。

78年作『「ルパン三世」オリジナル・サウンドトラック』収録曲“ルパン三世のテーマ”

76年作『「犬神家の一族」オリジナル・サウンドトラック』収録曲“愛のバラード”

77年作『「人間の証明」オリジナル・サウンドトラック』収録曲ジョー山中“人間の証明のテーマ”

ところが大野の数多い楽曲からセレクトされたこのコンピレーション盤『TOUCH -The Sublime Sound of Yuji Ohno-』には、多くの人々がイメージするであろう彼の曲はほぼ収録されていない。それはすなわち単なるベストアルバムの類いではないということでもある。では一体どんなコンピなのだろうか?

 

2020年代のフランスやヨーロッパで有効な大野サウンド

『TOUCH』は日本コロムビアとフランスの再発系レーベル、ウィウォントサウンズの共同企画による編集盤で、コロムビアが所有する大野関連音源からウィウォントサウンズが選曲を行っている。同社はこれまでに坂本龍一や矢野顕子らYMO人脈をはじめ、梶芽衣子の歌謡曲から篠崎史子の現代音楽まで邦楽アーティストの作品を手広くリイシューしていることからも、日本の音楽シーンに相当精通したスタッフが制作に関わっていることは想像に難くない。

つまり本作はフランスのスペシャリスト視点による海外マーケット向けのコンピであり、大野雄二にあまり馴染みのないリスナーたちを前提としたものだと考えて良いだろう。それゆえ日本で有名な曲かどうかは選択基準には関係なく、よりフラットな感覚で〈2020年代のいま、フランスあるいはヨーロッパで有効な大野サウンド〉が選ばれているように思える。その結果、私たちにとってはかなり意外で新鮮なラインアップになっているのが何よりも面白い。

また、アナログ盤だとわかりやすいのだがA面1曲目とB面1曲目、そしてB面ラストに日本語詞の歌を配し、その間にインストと英語詞のナンバーをほぼ交互に並べている構成からは、〈1枚のアルバム〉としても飽きずに楽しめるような工夫とこだわりが感じられる。

以下では各収録曲について触れてみたい。