Photo by Dan Medhurst

ラッパー/シンガー/DJ/プロデューサーとしてマルチに活躍し、ファッション方面でも注目を集めるパク・ヘジン。2021年12月の来日ツアーの開催も予定している彼女が、待望の​デビュー・アルバム『Before I Die』をニンジャ・チューンからリリースした。この記事では、そんな本作においてパク・ヘジンがみずからのヴォーカルで表現していること、そしてダンス・ミュージックとしての可能性についてライター/批評家のimdkmが綴る。 *Mikiki編集部

박혜진 PARK HYE JIN 『Before I Die』 Ninja Tune/BEAT(2021)

 

平熱の韓英バイリンガル・ヴォーカルが放つ存在感

韓国出身、現在はLAに拠点をおくパク・ヘジンが、初のアルバムをリリースした。その名も『Before I Die』。〈死ぬ前に〉という題には、気鋭のアーティストが放つ待望のファースト・アルバムにしてはあまりにもヘヴィな響きがある。実際、本作はサウンドにおいてもメッセージにおいても、タイトルに違わない信念とタフさを感じさせるものだ。

音数を削ぎ落とした生々しくエレクトロニックなビートと、英語と韓国語によるバイリンガルなヴォーカル。2018年のデビューEP『IF U WANT IT』以来、パク・ヘジンのシグネチャーといえるスタイルは一貫している。とりわけ印象的なのはエモーショナルに傾きすぎずに平熱を保つパクのヴォーカル・スタイルで、歌ともラップともスポークン・ワードともつかない奇妙な存在感を持つ。ビートに感傷がにじんでいても、逆に激しさを増しても、クールな佇まいを崩さずにひとつの芯を通す。

たとえば、『IF U WANT IT』収録曲で、のちにブラッド・オレンジがゲスト・ヴォーカルに加わりリメイクすることになる“CALL ME”は、パクのそうしたバランス感覚がよく感じられる一曲だ。こうしたヴォーカリストとしての魅力は、バルトラ“Ahead Of Time”(2019年)でのヴォーカリストとしての客演や、ノサッジ・シングとの“CLOUDS”(2020年)クラムス・カジノとテイク・ア・デイトリップとの“Y DON’T U”(2021年)といったコラボレーションでも遺憾なく発揮されている。

バルトラの2019年作『Ted』“Ahead Of Time”

自らプロデュースするビートも、ハウスやトラップを行き来しながら、ときにハードでインダストリアルな方向へも突き抜けるストイックさが魅力だ。ニンジャ・チューンからのリリースとなったEP『How can I』(2020年)では、パクらしいトーンを貫きつつも、ハウシーなトラックのみならずルーズなダウンテンポ、ダークなインダストリアル・テクノ、疾走するアップテンポな4つ打ちなど多彩な表情を披露した。

 

韓国人として、女性として、強さと脆さを独白する作品

『Before I Die』はこうしたパクのスタイルが存分に展開する充実した一作であると同時に、きわめて率直な思いと決意がつめこまれた一種のステートメントのような作品だ。家族と離れ満足に連絡もとれない孤独や、アーティストとしてのキャリアに立ちはだかる周囲の無理解といった困難を吐き出しながら、それでも前に進むことを宣言する。そうした歌詞のモチーフもあいまって、本作でのパクのヴォーカルは、これまでの作品とは少し表情を変えて、一種独白のような性格を帯びているように思える。

表題曲では、韓国を離れてアーティストとしてのキャリアを独力で歩もうとする孤独と決心が自伝的に綴られ、ジャジーなピアノと歪んだビートのコントラストが映える“Where Did I Go”では、幼い日の思い出がノスタルジックに描き出される。
こうした自伝的なストーリーを支えるのが、たとえば“Me Trust Me”や“Never Give Up”、“Never Die”といった、反骨精神とともに自らを奮い立たせる楽曲だ。パク自身によるアルバムへのコメンタリー※1では、特に“Never Give Up”について、韓国から移住したひとりの女性として経験した危険や差別への抵抗の意志(〈絶対に諦めない〉)を示すものだと語っている。

『Before I Die』収録曲“Never Give Up”

本作に漂う強さと脆さが表裏一体となった切実さを思うと、親密なコミュニケーションへの渇望が随所に顔を出すことは当然と言えるかもしれない。孤独を支える誰かを求める“I Need You”や、日がな〈君〉を思う“Good Morning Good Night”、出会いとセックスをモチーフにした“Can I Get Your Number”“Whatchu Doin Later”“Sex With ME (DEFG)”。野心と孤独のはざまにいる〈私〉の姿が、飾り気のないハードなビートと共に描き出される。

『Before I Die』収録曲“I Need You”