オアシスが96年8月に開催し、2日間でのべ25万人の観衆を集めたネブワースでの伝説的なライブ。この公演に迫ったドキュメンタリー映画「オアシス:ネブワース1996」が、2021年9月23日(木・祝)より全世界の映画館で公開される。
オアシスのドキュメンタリー映画といえば、ギャラガー兄弟の幼少期からネブワースまでを追いかけた「オアシス:スーパーソニック」(2016年)があるが、「オアシス:ネブワース1996」をその続編として位置づけることも可能かもしれない。「スーパーソニック」は、95年のセカンド・アルバム『(What’s The Story) Morning Glory?』のリリースを経て、UKロックの新たな王者にのぼりつめたオアシスの頂点をネブワースの2日間だと捉えていたが、同公演の模様については、極わずかな映像しか使っていなかった。今回のドキュメンタリーでは、そんなネブワースのライブを約2時間にわたって追体験することができるのだから、オアシスのファンならずともロック・リスナーであれば興奮ものの一本である。
今回は、ジェイムズ・ハッドフィールド、油納将志、久保憲司という3人の音楽ライターが「オアシス:ネブワース1996」を合評。いずれもネブワースをふまえて、〈いったいオアシスとは何だったのか〉を考えたものとなっている。ぜひ、これを読んで映画館に駆け付け、あなたなりにオアシスを再検証してみてほしい。なお、11月19日(金)には、ネブワースでの2日間の伝説のライブを収録した豪華完全版(映像作品を含む国内盤4形態)『Knebworth 1996』がリリースされる。 *Mikiki編集部
絶対に行くべきライブだった、僕はそう思う
by ジェイムズ・ハッドフィールド
もし君が96年のイギリスに住んでいるティーンエイジャーだったとしたら、オアシスは決して避けて通れない存在だったはずだ。それは僕が学んだ寄宿学校でも同様で、どこに行っても『(What’s The Story) Morning Glory?』がかかっていたし、牧師の先生が説教の時間に”Wonderwall”について話すこともあったほどだ。
ネブワースでのライブは確かBBCレディオ1の放送で聴いたはずだ。ノエルが汚い言葉を急に吐き散らしたのは覚えている。そういったことも含めて、すべて生中継されていた。
〈90年代最高の……〉なんて呼ばれているライブは他にもザラにあるけど、オアシスのネブワースでのライブは本当に〈大事件〉だった。デビュー・アルバム『Definitely Maybe』のリリースから2年しか経っていなかったのに、オアシスはレッド・ツェッペリンやローリング・ストーンズの公演で名高いネブワースでライブを行い、2日間で25万人もの観客を集めたのだから。マヌケな奴が何か言っていると思った人たちもいただろうが、ノエルが観客に向かって言った〈俺たちは歴史を作っている〉はまったく大袈裟には聞こえなかった。
途轍もない出来事がその場で起こっているにも関わらず、ネブワースのステージ上ではいつものオアシスのライブと同じ光景が繰り広げられていた。ジェイク・スコットが監督を務めたこの映画のなかで、とあるファンが言っていたように、褒め言葉として〈バンドはただそこにいて、演奏していただけ〉だった。”Champagne Supernova”でのジョン・スクワイアの名人芸のようなゲスト・パフォーマンスや、オーケストラを伴った豪華絢爛な演奏を除けば、彼らのライブはいつも通りだった。
絶対に行くべきライブだった、僕はそう思う。監督のジェイク・スコットは観客をストーリーの中心に据え、コンサート映像にありがちな観客目線でのライブ映像、高揚したファンたちへのインタビュー素材を使いながらも、その当時の熱気までをこの映像作品に収めようとした。ノエルの自尊心に満ち溢れたナレーションはファンたちの当時の思い出話を挟み込むことによって中和されており、チケットを取るために長時間電話の前にいたこと、一晩中会場の外で待ち続けていたこと、自宅でライブ放送を聴いていたことなど、当時のファンたちが体験した出来事がこの作品のなかでは映し出されている。
大ブレイクを果たしたこの労働者階級出身の若者たちと人々との距離感はどのようなものだったのか。オアシスとファンの関係性はこれまでに幾度となく話題になった。あるファンは〈オアシスは自分たちだった〉と振り返る。〈彼らは自分たちそのものだったんだ〉。でも、ファンってそんなふうに考えるものだろう。
思い返してみると、そこからのオアシスは落ちていくだけだった。劇中でノエル自身も認めているが、ネブワースでのライブはバンドのピークだった。1年後、彼は英国首相官邸で新たに選出されたトニー・ブレア首相と酒を酌み交わしていた。そしてブリットポップは呆気なく死んだ。