
彼らがハイだったとき、君はどこにいた? 奇跡のリユニオンを果たした兄弟バンドによる金字塔が30周年――90年代UKカルチャーの精神を反映しつつ、時の流れとは無縁の普遍性を湛えた栄光のストーリーを再検証!!
英国ロックの歴史に接続
ロンドン中心地であるウェストエンドのソーホー地区は、英国ロックンロール発祥の地である〈2i’sコーヒー・バー〉や老舗のジャズ・クラブ〈ロニー・スコッツ〉、ビートルズやローリング・ストーンズ、デヴィッド・ボウイ、T・レックスらが録音を行ったトライデント・スタジオが存在するなど、イギリスの音楽文化が凝縮されたエリアだ。そんな歴史的な区画に位置し、スウィンギン・ロンドンの中心地であるカーナビー・ストリートに次いで知られるバーウィック・ストリートは、80年代に〈ゴールデン・マイル・オブ・ヴァイナル〉と呼ばれ、最盛期には24軒のレコード・ストアが軒を連ねた通りであり、95年7月23日の朝5時、オアシスのセカンド・アルバム『(What’s The Story) Morning Glory?』のカヴァー・シューティングが行われた地でもある。バンドのアイコニックなボックス・ロゴの制作者でもあるデザイナーのブライアン・キャノンは、この作品のアートワークに長きに渡って育まれてきたイギリスの音楽文化を凝縮させることで、〈ブリティッシュネス〉のアイデンティティーを強固に確立した作品を飾り立てた。

それから30年。奇跡の再結成を果たしたオアシスは、95年10月2日のリリースからこれまでに全世界で2,200万枚以上のセールスを記録し、イギリスで史上3番目に売れたスタジオ・アルバムとなった『(What’s The Story) Morning Glory?』の30周年記念デラックス・エディションをリリースする。貴重な機材やノエル直筆の歌詞の写真を封入したブックレットと共に新装されたアートワークは、オリジナルのフォト・シュートから30年後の同日同時間帯に撮影された無人のバーウィック・ストリートが映し出されているが、通りの右手にあるシスター・レイ・レコーズのショーウィンドウに〈あなたはここにいます〉という説明書きと併せて飾られたオリジナルのアートワークが映り込んでいる。つまり、長い歳月を経て、バーウィック・ストリートは全世界のファンにとってオアシス神話に触れられる聖地となったのだ。
しかし、破天荒なオーナー、アラン・マッギーに見い出され、クリエイションから94年にデビューしたオアシスに対して、当初、筆者はいまいちピンと来ていなかった。バンドが頻繁に言及していたビートルズ以上にグラム・ロックやサイケデリック・ロック、パンク、ガレージなどからの影響が強く感じられ、リアム・ギャラガーの強烈な北部訛りからロンドンの労働者階級を象徴するコックニー訛りを打ち出したセックス・ピストルズを想起し、バンドの尊大な発言や態度が同郷マンチェスターの先達、ストーン・ローゼズの流れを汲むものであることは認識していたものの、レイヴ・カルチャー以降、グランジやオルタナティヴの勢いが増していた当時の時流とオアシスの方向性が上手く結び付かなかったのだ。
その後、厭世的なグランジに対してのカウンター・ソングである“Live Forever”を収録したファースト・アルバム『Definitely Maybe』、中期ビートルズを彷彿とさせるストリングスを初めて取り入れたシングル“Whatever”などを経て、オアシスは『(What’s The Story) Morning Glory?』を発表。ビートルズを含む広い意味での英国ロックを体現するバンドとなった。グラム・ロッカー、ゲイリー・グリッターの“Hello, Hello I’m Back Again”からコーラス・フレーズを引用したオープナーの“Hello”が象徴するように、その楽曲にはサンプリングが当たり前となった時代における〈引用〉が効果的に用いられている。ジョン・レノン“Imagine”にインスパイアされた“Don’t Look Back In Anger”は、労働者階級社会を描いたジョン・オズボーンの戯曲「怒りをこめてふり返れ」を思い出させるものでもあるし、“Wonderwall”の曲名はジョージ・ハリソンの『Wonderwall Music』から取ったもの。さらに“She’s Electric”にはキンクスの“Wonderboy”とビートルズ“With A Little Help From My Friends”へのオマージュを織り込んでいるなど、このアルバムを聴くと、英国ロックの歴史にコネクトする瞬間が何度となく訪れる。