世界中の支持を集める米NYのガレージロックバンド、パーケイ・コーツ。彼らの7作目『Sympathy For Life』は、ロックとダンスミュージックの新たな融合を試みた意欲作だ。このパワフルなダンスロックアルバムには、さまざまな文脈が交差している。ロック × ダンスミュージックの歴史、NYの文化や伝統、コロナ禍で失われたダンスフロアやパーティー……。そんな快作『Sympathy For Life』について、DJでライターのTAISHI IWAMIがアツい筆致で綴ってくれた。 *Mikiki編集部
『Screamadelica』顔負けのロック × ダンスミュージック
前作『Wide Awake』(2018年)は〈パーティーでもかけられるレコード〉で、今作『Sympathy For Life』は〈パーティーそのものに影響を受けているレコード〉だとパーケイ・コーツのフロントマンの一人、オースティン・ブラウンは言う。確かにその言葉通り、今作は、バンドのキャリア史上もっともリズムに重点を置いた前作のダンサブルな側面を、さらに深く掘り下げた作品だ。
そして、今作が放つ存在感やグルーヴは、例えばプライマル・スクリームのサードアルバム『Screamadelica』(91年)顔負けと言っても過言ではないだろう。アシッド ハウスの洗礼を受け〈ロック × ダンスミュージック〉の金字塔を打ち立てたあのアルバムを、ブラウンはリファレンスの一つとして挙げている。
2010年代ガレージロックの重要バンド
パーケイ・コーツは2010年にNYで結成された。以降、オーセンティックなブルースやサザンロック、サイケデリックロックやガレージロック、パンク~ポストパンク、アバンギャルドなノイズミュージックなど、プリミティブなロックンロールのエネルギーを損なわずに、多岐にわたる音楽性を打ち出しながら進化を続けてきた。
その自由でやんちゃでウィットに富んだ多面的な魅力が溢れるサウンドは、2000年代初頭にストロークスやホワイト・ストライプスらのブレイクによって巻き起こったロックンロールリバイバル期のバンドと比べると、多くのリスナーにとって見つけやすいものではなかったかもしれない。しかしパーケイ・コーツのサウンドは決してかつての残り火などではなく、西海岸のタイ・セガールらと同様2010年代のガレージロックのレガシーと言えるものであり、昨今のUKを中心としたインディーロックやポストパンクの盛り上がりに与えた影響も大きい。
転機となったポップでダンサブルな『Wide Awake!』
そんなパーケイ・コーツの一連の活動のなかでも、もっとも大きな転機となった作品が『Wide Awake!』だ。同作のプロデューサーに名乗りを上げたのはデンジャー・マウス。グラミー賞の常連で、ロック文脈ではU2やレッド・ホット・チリ・ペッパーズやベックらを手掛けてきたことで知られている大物である。また、デンジャー・マウスはブラック・キーズとの仕事でも知られている。デビューから長い間、知る人ぞ知る存在だったガレージロックバンドが、ダンサブルな方向に向かいながらメインストリームを席巻し、シングル“Lonely Boy”(2011年)で世界的なバズを起こした過程に、デンジャー・マウスは貢献した実績があるのだ。そのことを考えると、〈パーティーでもかけられるレコード〉を目指したパーケイ・コーツのパートナーにはうってつけの人物だろう。
そして『Wide Awake!』は、ファンクやレゲエ、アフロビートなどの要素を取り入れたリズムセクションの輪郭をデンジャー・マウスとともにはっきりと浮かび上がらせたことで、パーケイ・コーツのキャリア史上もっともポップでダンサブルな作品になった。その結果、本国アメリカでのチャートアクションは2014年のサードアルバム『Sunbathing Animal』を下回ったが、UKやオーストラリア、ヨーロッパなどにファン層を広げ、Spotifyでは再生回数1,000万回をゆうに超える曲が3曲(“Tenderness”、“Total Football”、“Wide Awake”)も出た。
なかでもタイトル曲“Wide Awake”は――これは筆者が国内のクラブを遊びまわっていた記憶がベースなので正確なデータではないが――ロック系のパーティーやディスコ系のパーティーを含め、2018年に〈もっともプレイされたインディーロックのシングル〉という印象が強い。
また、〈パーティーそのものに影響を受けているレコード〉『Sympathy For Life』の構想が、〈パーティーでもかけられるレコード〉『Wide Awake!』の段階で薄っすらとでも見えていたのではないかと考えると、次のようなことも想像できる。彼らの拠点、NYにあった伝説のクラブ〈パラダイス・ガレージ〉(77~87年)のメインDJでありプロトハウスのレジェンドであるラリー・レヴァンが、ディスコやファンクだけでなく、そういった音楽から影響を受けたトーキング・ヘッズやリキッド・リキッド、ブロンディやクラッシュといったパンク/ニューウェイブ勢の曲もプレイしていたこと。作品中もっともダンスミュージック色の強い“Wide Awake”は、そんなことにも想いを馳せながら制作されたのかもしれない、と。