田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。リアム・ギャラガーが1年半ぶりにライブをしました! 英ロンドンのO2アリーナで国民保険サービス、通称NHSの医療従事者に向けたパフォーマンスを行っています。彼らしい懐の深さを見せつけたライブと言えそうですね。フロント・アクトを務めたプライマル・スクリームのパフォーマンスもたいへん良かったそうですよ」

天野龍太郎「亮太さんのオアシスネタ、もう飽きたんですけど……。それはそうと、ボブ・ディランの件はショッキングなニュースでした」

田中65年に当時12歳だった女性に酒や麻薬を与えて性的に虐待した、と提訴されました。ボブ・ディランの側は全面的に否定していて、しかも女性が訴えた65年当時の期間はアメリカ国外にいたとのこと。真相はわかりませんが、裁判の行方を冷静に見守りましょう」

天野「それと、もうひとつ。ほとんど音沙汰のなかったケンドリック・ラマーが新作についてのメッセージを突然発表して、文中で〈TDEでの最後のアルバムを制作している〉と書いていることが話題になっています。果たして、次作がトップ・ドッグ・エンターテインメントからの最後の作品になるのでしょうか? 気になるところですね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

Parquet Courts “Walking At A Downtown Pace”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はパーケイ・コーツの新曲“Walking At A Downtown Pace”! 米NY発、いまや現在のブルックリン・シーンを代表するロック・バンドの新曲ですね。Mikikiでは前作『Wide Awake!』(2018年)がリリースされた際に、久保憲司さんにバンドの本質に迫るコラムを書いてもらいました。それにしても、今回の“Walking At A Downtown Pace”は最高じゃないですか? 聴いた瞬間に、ハウス・ミュージックを思わせるビートと艶やかなギター・リフに体温が急上昇するような感覚を得ましたよ」

天野「その比喩、この状況で言われるとこわいからやめてください……。たしかにガレージ・パンク × ダンス・ミュージックなサウンドで、亮太さんの大好物の感じですよね。わかりやすい(笑)! 否応なしにアガりますが、一方で〈ハッピー・マンデーズみたいだな~〉と思っちゃいましたが。このダンス・ロック路線は、『Wide Awake!』に予兆がありましたよね」

田中「ロック色が強くて猥雑な感じは、ハピマンというより、ショーン・ライダーとベズがバンドの解散後に結成したブラック・グレープに近い印象ですね。まあ、ほとんど同じグループですけど(笑)。パーケイ・コーツのオースティン・ブラウン(Austin Brown)は、〈トーキング・ヘッズの作品やプライマル・スクリームの『Screamadelica』(91年)など、ダンス・ミュージックと混ざり合って生まれたロック・レコードをめざした〉と語っています。この曲に限っては『Screamadelica』より『Give Out But Don’t Give Up』(94年)っぽいなと思いますが……」

天野「また細かい話をしている……。パーカッションやライド・シンバルの使い方がいい感じですよね。あと、僕は歌詞がいいなって思いました。パンデミック以前の、混沌としていながらも活力にあふれたブルックリンの街の風景が描かれていて、実際に暮らしている人ならではの視点と愛を感じさせるリリックだなと。かなりぐっときました。彼らのニュー・アルバム『Sympathy For Life』は10月22日(金)にリリース。下半期の注目作だと思います!」

 

Trippie Redd feat. Drake “Betrayal”

天野「2曲目は、ある意味でこの一週間の最大の話題曲ですね。トリッピー・レッドがドレイクをフィーチャーした“Betrayal”。トリッピーが先週末にリリースした新作『Trip At Knight (Complete Edition)』の収録曲です。〈Complete Edition〉とありますが、普通のアルバムとのちがいは、この曲が入っているかいないかだけなんですけど(笑)」

田中「“Betrayal”はトリッピー・レッドとドレイクの初の共演曲で、プロデューサーはタズ・テイラー(Taz Taylor)、ピンクグリルズ88(PinkGrillz88)、ダイノックス(Dynox)の3人。最近のトリッピーのモードである、リル・ウージー・ヴァートから影響を受けたとおぼしきど派手でフューチャリスティックなシンセサイザー・サウンドが特徴のトラップ・ナンバーです。なんといっても、話題になっているのはドレイクのヴァースのリリックですよね」

天野「しかも、カニエ・ウェスト絡みという……。2018年からビーフをしていたドレイクとカニエなんですけど、以前からドレイクと仲が悪かったプシャ・Tもそこに関わっています。それで、今回のドレイクのヴァースは、カニエとプシャ・Tに宛てたものなんじゃないかと考えれられているんですね」

田中「問題に鳴っているのは、〈45、44(燃え尽きる)、放っておけ/イェ(カニエ)は俺のためにsh*tを変えてくれなかった、もう変えられない〉というライン。〈44〉はカニエとプシャの年齢で、後半の部分はカニエの新作『Donda』とドレイクの新作『Certified Lover Boy』のリリースが被ることに言及しているんじゃないか、という……」

天野「その後、カニエはドレイクに宛てて脅迫めいたメッセージを送っていて、一触即発の状態になっています。音楽そのものと関係があるのかないのかわかりませんが、そういうわけで“Betrayal”は話題の曲というわけです(苦笑)」

 

C. Tangana “Yate”

天野「3曲目はC.(セー)・タンガナの新曲“Yate”。C.・タンガナのことは、いつか紹介したいと思っていたんですよね」

田中「C.・タンガナことアントン・アルヴァレス・アルファロ(Antón Álvarez Alfaro)は、スペインのマドリードで活動するラッパー。2005年に〈クレマ(Crema)〉という名前で活動を始め、2011~2016年まで〈アゴラゼイン(Agorazein)〉というラップ/グループで活動していました。実は、彼はロザリアの元カレで、彼女の出世作である『El Mal Querer』(2018年)に参加していたことでラテン・グラミー賞を受賞したのだとか」

天野「それだけじゃなくて、本国ではソロ・アーティストとしてとても人気があるようです。そんな彼がさらに成功を手にしたのが、今年2月にリリースしたセカンド・アルバム『El Madrileño』。ここでタンガナは、なんとラップを捨ててフラメンコ・ポップに振り切っているんです。僕はロザリオにハマってからニュー・フラメンコのことをちょっと調べていたので、その流れで彼を知ったんですね。オマール・アポロやジプシー・キングズ、トッキーニョらが参加した『El Madrileño』は傑作なので、ぜひ聴いてほしいです」

田中「その『El Madrileño』はスペインのアルバム・チャートで1位になるなど、大成功を収めました。今回、同作のリリース以降初のシングルである“Yate”も、アルバムの流れを受け継いだ現代的なフラメンコ・ポップですよね。3本も重ねられたフラメンコ・ギターが清涼感たっぷりです」

天野「レゲトンをアップテンポにした速いビートはちょっと意外でしたが、このテンポ感だからこそダンサブルになっていますよね。全体的に音像がカラッと乾いていて爽やかで、まさにサマー・チューンって感じ。C.・タンガナ、今後もぜひ注目してほしい才能です」