(左から)佐藤浩一、福盛進也
 

ミュンヘン在住時の2018年に、ECMから初リーダー作『For 2 Akis』をリリースしたドラマー/作曲家/プロデューサーの福盛進也。だがコロナ禍により、本来の予定よりも早く日本へと居住を移し、昨年設立した自己レーベルがnagaluだ。〈どこにもない、自分の音楽〉を鋭意送り出すそのさまを目の当たりにすると、世界を見た新しい日本人としてのジャズ・ビヨンド表現創作の気概が確かな形になっていることに気付かされる。そんな彼が2021年11月25日(木)~27日(土)に、同レーベルの全貌を伝えるイベント〈nagalu Festival 2021〉を東京・丸の内コットンクラブで信頼できる仲間たちと共に開催する。3日間4公演すべてに出演する福盛進也と、同レーベル第2弾アーティストであるピアニストの佐藤浩一に、レーベルやフェスについて話をうかがった。


 

日本人だからこそできる音楽を

――まず、nagaluレーベルのコンセプトについて語ってもらえますか?

福盛「流れる水は腐らないという〈流水不腐〉という言葉を父から聞いていて、そういう〈水が流れるような音楽〉というのを作りたいなという思いをずっと持っていたんです。それで、自分のレーベル名を考えた際に、流れるという言葉が一番しっくりきて、それでnagaluと名付けました」

――それは、侘び寂びに代表されるような日本人的な心持ちとつながるところもあるのでしょうか。

福盛「うーん。どうでしょう? 日本人だからそう思うところはあるのかもしれませんけど」

――福盛さんは高校時代からアメリカに音楽を学びに行き、その後にはドイツでも暮らしています。海外生活が長いと、逆に日本人的な何か、美点のようなものには敏感になったりもするのでしょうか? 

福盛「そうですね。行った当初は全然思わなかったですけど、途中からは自分はやっぱり日本人なんだというのを嫌でも認識するようになりました。どうしたって日本人でしかないわけで、日本人だからこそできる音楽をやろうと思うようになりましたね」

――佐藤さんもバークリー音大に行っていますよね。やはり向こうに住んで日本人としての意識が強くなったということはありますか?

佐藤「僕が行ったのはほんの2年ほどなので、進也君とは長さが違いますけど、短いなりに僕も当時は悩んだところはありました。当時はアメリカのジャズやブラックミュージックに憧れがあって行ったわけですが、いざボストンでいろんな国の人と会うわけですよね。そして、ブラックミュージックを演奏している学生たちと一緒にやったり、無宗教ですけどチャーチに行ったりもし、そうすると音楽への憧れはあるんですけど、精神的な部分で自分が演奏する音楽ではないと気付いてしまったんです。2年間いて日本に帰ろうと思ったのは、自分にしかできないことができるのは日本だということでした。その時点で、僕も日本人としての感覚というのは意識しました」

福盛「あれ、NYにもいなかった?」

佐藤「NYは半年弱ぐらいです」

――向こうの生活やノリをちゃんと知っているからこその、インターナショナルな日本人の音楽という思いにたどり着いたという部分はあるんじゃないかと思います。

福盛「そうですね。とくに作曲をしはじめてから、どこか日本人的なメロディーやハーモニーが無意識に自ずと出てくるので、そういうことを意識するようになりましたね。曲を書くと普段聴いているアメリカやヨーロッパのジャズとは違うものが出てきたりもしますからね。それに作曲という行為は、自分自身が何をやりたいかが見える一番の手段だとも思いますし」

福盛進也
 

――福盛さんがミュンヘンに行ったのは、アメリカのジャズに対する違和感もあったわけですよね。

福盛「そもそもテキサスに在住の頃はハードバップをやりたい思いが強く、その後コンテンポラリーも好きになりヴィニー・カリウタみたいになりたくてバークリーに行ったんですけど、途中でなんか違うなとなりました。そして、すでに存在するものをやってもしょうがないと思ったときに、ECMと出会ったんです。それでヨーロッパに行きたいなとなって。でも結局念願のECMからアルバムを出したらこれもちょっと違うなと……」

――(ECM社主/プロデューサーの)マンフレート・アイヒャーは個性が強いですからね。

福盛「どこまで言っていいか分からないけど、ちょっと残念なところがあって。自分が作り上げた世界観が彼の音楽となり小さくまとまってしまった。元々プロデュース業に興味もあったし、それだったら自分のレーベルでやりたいということになったんです」

――福盛さんと佐藤さんのデュオ公演をはじめ、何度か一緒になる公演を観させてもらっていますが、お2人が最初に出会った時のことを覚えていますか。

福盛「2018年に伊藤ゴローさんを介して知り合ったんですよね。最初トリオでやったら、いいピアニストだなと思い、その後ずっと密に付き合いが続いています」

佐藤「永福町のsonoriumでやった時(2018年1月)のリハーサルの段階で、すごくしっくりきたんですよ」

福盛「あ、それは初めて聞いた(笑)」

佐藤「進也君の曲もやるというので譜面を送ってもらって、リハーサルでポロっと弾いたら、僕の側にきて褒めてくれたんですよ(笑)。進也君の譜面を僕なりに弾いただけだったんですが、ピッと合った感じがあって、一緒に音を出した時の気持ち良さは今もよく覚えています」

2019年1月に行われた2人のライブの模様