2023年、設立5周年を迎えたレーベル、Days of Delight(ファウンダー&プロデューサー:平野暁臣)。日本のジャズのプラットフォームとして、その勢いはますます加速するばかりだ。

来たる2024年5月30日(木)には、平倉初音の新譜『Moon and Venus』が同レーベルからリリースされる。Days of Delightに欠かせないトッププレイヤーである須川崇志(ベース)、山田玲(ドラムス)を迎え、全曲を平倉自身のオリジナルで構成した、意欲的でありながらも愉しさいっぱいに聴きとおすことができる快作だ。

前作『Wheel of Time』(2023年)の発表から1年余り、ますます勢いを増すこのピアニストに話を聞いた。

平倉初音 『Moon and Venus』 Days of Delight(2024)

 

多面性が開花したピアノトリオによるオリジナル集

――リーダーアルバム3作目にして、ついに〈ピアノトリオによるスタジオ録音のオリジナル集〉の登場ですね。

「はい。別のレーベルから出た1枚目の『Tears』(2022年)はオリジナル中心のライブレコーディングで、2枚目の『Wheel of Time』はワンホーン/ドラムレスのスタンダード集でした。実は、『Wheel of Time』を制作している頃から、プロデューサーの平野さんと、〈次はピアノトリオで全曲オリジナル。スタジオレコーディングで〉と決めていたんです」

――『Wheel of Time』のリリースから1年余りが経ちましたが、パンデミックも落ち着いて、活動のペースも戻ってきましたか?

「そうですね。ツアーに行く機会も増えましたし、去年の夏にはアメリカに2か月行きました。ノースカロライナで10日間のワークショップに参加したあと、ボストンやニューヨークに滞在したんです。ボストンのバークリー音楽大学在学中に知り合った友だちがニューヨークで演奏していたので、その友だちに会いに行ったりとか。私にとってのヒーローのようなミュージシャンたちの演奏を毎日、どこかで聴いていました。

今回のアルバムをレコーディングしたのは昨年の12月。帰国後まもなくだったので、確実にアメリカ滞在の影響を受けていると思います。やはりニューヨークのジャズシーンは先をいっているので、その要素を取り入れていけたらいいなと思って。“Glass Falls”、“Virgo’s Sapphire”、“The Trigger Point”はアメリカに行った後に書いたものです」

――『Moon and Venus』では、“Espelhar”と“Virgo’s Sapphire”でフェンダー・ローズの演奏も聴くことができます。

「〈スタジオにローズもある〉と聞いていたので、何曲かそれで録ってみようと思ったんです。この2曲はアコースティックピアノで弾いたバ―ジョンも録ったんですが、今回はローズで演奏したテイクを選びました。

私はローズの音が好きですし、ロバート・グラスパーのようなコンテンポラリーなジャズも好きなんです。アコースティックピアノとフェンダー・ローズは音色が異なるので、弾くフレーズがだいぶ変わるんですよね。ローズを弾いた曲をアルバムに入れたことで、これまでとは違う自分の一面が出せたように思います」

――まさにそうですね。特に“Virgo’s Sapphire”には、ダンスミュージックの雰囲気を感じました。

「そうなんです。私は、4ビートでも8ビートでも、踊り出したくなるようなジャズが好きなので、そういう曲も作りたくて」

――いっぽう、“Ballad no. 4”は、音の質感も含めて、聖堂の中で響いているような感じがしました。

「須川さんをフィーチャーするために書いた曲です。須川さんはチェリストでもあるので、須川さんのコントラバスの弓弾きが生きるクラシカルな曲を作りたいなと思って。この曲が完成できてよかったです」

――曲名も絶対音楽的というか、クラシカルな印象です。

「〈4番目に作ったバラード〉なので、シンプルに“Ballad no. 4”とつけました。これというタイトルが思い浮かばなかったんです(笑)。

自分の音楽は〈ジャズ〉というくくりの中に分類されるものですけど、実際はいろんな音楽に影響を受けてきましたし、クラシックを弾いていた経験もあります。そういう自分の多面的な部分をオリジナル曲でもっと出していけたらいいなと思っているんです」