カエターノ・ヴェローゾや渡辺貞夫らとの関わりで知られるチェロ奏者/アレンジャー/プロデューサーであるジャキス・モレレンバウムと、彼の妻であるシンガーのパウラ・モレレンバウム。ジャキスはクラシックを核に置く高尚さに加え、洗練とポップミュージックが抱えるドキドキや広がりをメビウスの輪で繋いでしまうような技量を持ち、パウラは時間軸を自在に行き来するような澄んだ歌声のもと、すうっと聞く者の心に入り込んでしまう。

そんな夫婦の出会いを導いたのは、ボサノヴァの名作曲家であるアントニオ・カルロス・ジョビン(1927年〜1994年)だ。2人はそれぞれチェリストとシンガーとして晩年のジョビンの表現に関わることで、その才能を開花させた。

そして、1990年代に入り、ジャキスとパウラと重なることを欲した才人が坂本龍一だった。長年ジョビンのことを作曲家として敬愛していた坂本は、、ジョビンの薫陶を受けたジャキスとパウラと出会う。そして3人は、ジョビンの財産を同時代に覚醒させるユニット、Morelenbaum2/Sakamotoを結成。2001年作『CASA』は、ジョビンの曲をその精髄を知る3人のアンサンブルによって再提示した内容となった。

同作に収録された多くは、リオにあるジョビンの家で、それこそジョビンのピアノを用いてレコーディングされている。ジャキス、パウラ、坂本の付き合いはその後も続き、東京・赤坂ACTシアターでのパフォーマンスの模様を収録したライブ盤『Live In Tokyo 2001』をリリースしている。

一方、モレレンバウム夫妻と度々交差してきたのが、アレンジャー/プロデューサーとしても我が道を行くギタリスト、伊藤ゴローである。ジョアン・ジルベルトやジョビンから大きなインスピレーションを受けている彼だが、2014年にはジャキスとの連名によるアルバム『ランデヴー・イン・トーキョー』を録音。ここではジョビンの曲とともに伊藤とジャキスの曲も取り上げ、ジョビン、ひいてはブラジル音楽の洗練の襞を露にした。

同作にはパウラのほか、夫妻の娘であるドラのボーカルが入った曲もある。なお、ドラは現在リオの新たなポップ感覚を体現していると大評判のバンド、バーラ・デゼージョに在籍している。

それから書き遅れたが、布施尚美とのユニットnaomi & goroの作品群をはじめ、坂本が立ち上げたレーベル、commmonsのプロダクツにも伊藤はいろいろと関与した。ジョビンの機微を知る伊藤は、教授お気に入りの日本人ギタリストだったのだ。

さて、そんなモレレンバウム夫妻と伊藤ゴローが、坂本龍一のトリビュート公演を2024年12月3日(火)にビルボードライブ大阪、12月6日(金)にビルボードライブ横浜にて行う。しかも3人をサポートするミュージシャンたちも、腕と感性に長けた人たちばかりなのだ。

ピアノの佐藤浩一は、鋭敏なアート感覚を風のある風景として描くことのできる逸材で、長年伊藤をサポートしているほか、個人としても福盛進也のレーベルnagaluから審美性に満ちたアルバム『Embryo』(2022年)を発表している。また、バイオリンの伊藤彩も伊藤ゴロー アンサンブルで不動の地位を占めるハイブリッドな奏者だ。

ブラジリアンビートの魔法を会得するドラマー/パーカッション奏者の小川慶太は、『ランデヴー・イン・トーキョー』にも参加していたので、伊藤とは10年以上の付き合い。NY在住の小川は、ジャズ界の人気集団であるスナーキー・パピーの一員であることでも知られている。

また、今年初めにユニバーサルから新たなリーダー作『Contact』を出した角銅真実(パーカッション)も様々なフィールドで活動する、解き放たれたミュージシャンズ・ミュージシャンの一人だ。

月の裏側までをも思うままに描き出したと言いたくなる、坂本龍一の官能的にして闊達な音楽を、こうした実力者たちはどのように解き直すのか。興味はつきないが、これは師走の〈特別な体験〉となるだろう。

 


LIVE INFORMATION
JAQUES MORELENBAUM, PAULA MORELENBAUM & GORO ITO
~Tribute to RYUICHI SAKAMOTO~

2024年12月3日(火)ビルボードライブ大阪
1stステージ
開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ
開場/開演:19:30/20:30
https://www.billboard-live.com/osaka/show?event_id=ev-20158

Montreux Jazz Festival Japan special live @ Billboard Live Yokohama
JAQUES MORELENBAUM, PAULA MORELENBAUM & GORO ITO
~Tribute to RYUICHI SAKAMOTO~

2024年12月6日(金)ビルボードライブ横浜
1stステージ
開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ
開場/開演:19:30/20:30
https://www.billboard-live.com/yokohama/show?event_id=ev-20159

■チケット料金 ※飲食代金別
【大阪】
BOXシート:21,300円(ペア販売)
S指定席:10,100円
R指定席:9,000円
カジュアル:8,500円(1ドリンク付)

【横浜】
DXシート カウンター:10,100円
S指定席:10,100円
R指定席:9,000円
カジュアル センターシート:9,600円(1ドリンク付)
カジュアル サイドシート:8,500円(1ドリンク付)

※本公演はClub BBL会員、および一般販売をWEB受付のみ実施いたします
※法人会員は電話にてご予約承ります

■メンバー
ジャキス・モレレンバウム(チェロ)
パウラ・モレレンバウム(ボーカル)
伊藤ゴロー(ギター)
小川慶太(ドラムス/パーカッション)
佐藤浩一(ピアノ)
角銅真実(パーカッション)
伊藤彩(バイオリン)