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nagaluフェス1日目〈佐藤浩一 〜 "Water & Breath" 『Embryo』リリース・ライヴ〉

――〈nagaluフェス〉の1日目は、この佐藤浩一さんの公演となります。これはアンサンブルとピアノソロの両方を披露することになるのでしょうか?

佐藤「今イメージしているのは、アンサンブルで始めて、中盤でソロを何曲か演奏して、またアンサンブルをやろうかなと思っています」

――参加者はほぼほぼレコーディング参加者が出演するという感じですよね。

佐藤「そうですね。ベースの甲斐(正樹)君だけがドイツに戻っているので、吉野弘志さんにお願いしました」

――吉野さんというのも渋いですよね。経験豊かなベテランですし。

佐藤「吉野さんとは以前から共演させていただいているんですよ。そして、進也君と吉野さんの3人でこの前演奏する機会があり、これは合うと思い今回お願いしました」

――『Embryo』をフォローするわけですが、ライブではどんな感じに膨らませたりするのでしょう? 

佐藤「照明が楽しみなんです」

福盛「今回、照明を外注でお願いするんです。だから、いつものコットンクラブのそれとは違うものになると思います」

――どうして、ライティングに凝ろうと考えたのでしょう。

福盛「先月、高知に2週間半滞在して舞台をやったんですよ。ミュージシャンは僕だけだったんですが、僕もちょっと演技をしたんです。やはり舞台の人たちは、音楽のステージの作り方と全然違うんですよ。劇場に入ってじっくりと照明や音響の人も含めて全員で作りあげていくのがいいなと思えたんです。いつものジャズの世界だと、場所や関わる人がどうしても被ってきてしまうしどれも似たり寄ったりで面白みがない。それに違和感を覚え、何か変えたいなと思ったんです」

――なんか、アンチの塊じゃないですか。

福盛「(笑)。それでやっているところはありますね。今まで関わってきた音楽の人と一度離れて、先月やった舞台のような作り方をもう少ししていきたいなと思っていた矢先にちょうどコットンクラブでのこの話があったので、照明をいつもと違う人に頼んでみようと思いました。演劇の方で照明大賞のようなものをとった方にお願いします」

佐藤「それが楽しみですね。音楽自体のほうはできるだけ長い時間、たっぷりやりたいなと思っています。最初はリズム隊だけの演奏から始まるかもしれないし、いろいろなことを見せていきたいと考えています。そして、基本的にはアルバムのアレンジを踏襲しつつ、エレクトロニクス音が入っている曲はアレンジを変えようかと思います。CDではバイオリンとチェロとエレクトロニクスでやっている曲があるんですけど、今回はそこにビオラとコントラバスも入れて厚くしようと思いますし、可能だったら1曲は新曲をやりたいですね」

(左から)市野元彦(ギター)、佐藤、ロビン・デュプイ(チェロ)

nagaluフェス2日目〈林正樹グループ 〜 "Blur The Border"〉

――続くフェスの2日目は、林正樹さんがリーダーとなる日です。

福盛「これはまだレコーディングしていないプロジェクトとなりますね。実はS/N Allianceという兄弟レーベルを今年立ち上げたんですよ。nagaluはモノラル録音だとか、2枚組だとか、日本のものしか出さないとか、いろいろ決まりごとを勝手に自分が決めているんです。アメリカやヨーロッパにずっと滞在している中で、海外(特にヨーロッパ)では活躍しているけどこっちではあまり知られていない人たちの音楽や、録音済みだけど発掘を待ち望んでいる世界中の素晴らしい音楽というのを、nagaluよりももう少し自由な感じでS/N Allianceから出したいんです。そしてもちろん、林正樹グループのような日本の音楽の新録もリリースしていきたいですね。

去年、森下周央彌という関西にいるギタリストのレコーディングに僕がディレクターとして立ち会ったんですが、素晴らしい音ながら自主レーベルからしか出していなかったので、それをレーベルの第1弾として出しました(『Ein.』)。それが8月で、10月にはバイオリン奏者の吉田篤貴さん率いる〈EMO strings meets 林正樹〉の『Echo』というピアノと弦楽器のアンサンブルのアルバムを出しました。正樹さんのライブには、その吉田篤貴さんも入ります」

佐藤「僕は挾間美帆さんのm_unitで彼と一緒なんです。そこでは吉田君はビオラなんですけど、それで僕のアルバムでもビオラを弾いてもらっていますし、今回の僕のライブにも入ってもらいます」

――2日目は、完全に林正樹さんがイニシアティブを取るわけですね。

福盛「そうですね。林正樹グループの名義で、全部正樹さんの曲をやります」

――メンバーが藤本一馬さんや福盛さんに加え、ベーシストが須川崇志さんであるのが興味深いです。林さんは須川さんのバンクシアトリオの一員でもありますが、須川さんは普段、本田珠也さんや石若駿さんとコンビを組むことが多いですから。

福盛「そうですね。須川さんと同じ現場になることはまだそれほど多くはないですが、音楽的にも人間的にもすごくやりやすい人だと感じています。実は、林さんが自分の名前が付いているグループをやるのは今回が初めてらしいんです」

――では、今回のライブのために林さんは張り切って、いろいろ考えそうですね。

福盛「新曲もあるし、今までやった曲もこのグループ用にアレンジしてやるので新しい世界が見えると思います。彼の“大和比”という曲があるんですよ。それって1:√2のことで割り切れない数字らしいんですけど、それを楽譜にして音楽にしている面白い曲なんです」

――林さんって、変な拍子の曲をよく作るんですよね。

福盛「それは最終的に41拍子と58拍子になって、限りなく1:√2に近くなるんです。正樹さんらしい曲で、僕は大好きなんですよ。正樹さんの素晴らしさの一つとして、楽譜上難しく見える曲も実はどこかキャッチーで、変拍子だけど変拍子という事実を聴き手に感じさせない美しい曲を作るところですね。だから楽譜を覚えるのも意外と簡単です。その最たるものが、さっき言った“大和比”だと僕は思います。はっきりとしたメロディーがあるわけではなく、ずっと同じ音が繰り返されるんですけど、そういう不思議な魅力があるんです」

林正樹グループ(左から藤本一馬/ギター、福盛、林正樹/ピアノ、吉田篤貴/バイオリン、須川崇志/コントラバス)

――佐藤浩一さんと林正樹さんって、リアルな研ぎ澄まされたジャズ感覚とジャズ・ビヨンドたる広い感覚を理想的に併せ持っている最たる日本人ピアニストだと、僕は思っているんです。その2人と親しい関係を築いている福盛さんって、なんて〈引き〉の良い人かと感心してしまいます。

佐藤「ありがとうございます」

福盛「それについては、めちゃくちゃ恵まれていると思いますね。そういう運は持っていると思います。まあ、運だけでやってきているので(笑)。浩一君と正樹さんは僕が一番共演の多いピアニストですが、全然違うタイプのピアニストであり作曲家でもあり、得る喜びが各々で違うんです。だから、初日と2日目はその対比が面白いし、楽しみでもありますね。何度かやってレパートリーも固まってきていますし、林正樹グループはどんどんグループらしくなっていますね。その流れで、レコーディングできたらレーベルとしても嬉しいなと思います」