彼方へ飛び去っていく3人――そして、楽園はどこにある?

 2016年の1月17日、その時点で行っていたツアー・ファイナルにおいてメンバー3名の脱退と東京進出を発表。それからちょうど1年後の2017年1月17日、Especiaが解散を発表した。大阪から東京に拠点を移した後、オリジナル・メンバーの冨永悠香と森絵莉加に新メンバーのミア・ナシメントを加え、2016年6月25日からトリオ編成で再起動したものの、結果的には復活から1年を待たずして解散となってしまったわけだ。

 Especiaが活動をスタートしたのは2012年のこと。当初は〈堀江系ガールズ・グループ〉を謳う10人編成の大所帯であった。2012年といえば、いわゆる〈アイドル・ブーム〉的な動きがどんどん拡大していた頃で、ラウド・ロックやラップ、クラブ・ミュージック、サブカル、スカム、ご当地キャラクター……などなど、さまざまな試みや音楽性やギミックが、女性アイドルという自由度の高いシステムやフィルターを通すことで、新しくユニークな何かに生まれ変わって見えた時期だった。そんななかでEspeciaは徐々に減員しながらも、フレッシュな何かを提示し続けていたと思う。よく知られる6人組になった2013年には、ヴァイナル制作のためのクラウドファンディングを行ったり、バブル時代のファッションを採り入れていたり。ヴェイパーウェイヴの視点でヴィジュアル・イメージやMVを制作したり。何より、AORやファンク~ディスコ~ブラコンを下地にしたアーバンな音楽性は、急増する同種のJ-Pop作品に大きく先駆けたもので、〈シティー・ポップ〉という死語が蘇生するひとつのきっかけにもなったのではないだろうか。音楽やカルチャーの流行のような範疇で早すぎるのと遅すぎるのは同義になるのかもしれないが、控えめに言っても早すぎるグループだったのは確かだ。ただ、当人たちの時間はもちろん無限ではなかったということだろうか。

Especia WIZARD Bermuda(2017)

 3人による最初で最後のアルバム『WIZARD』は旧体制での楽曲もHi-Fi Cityがリアレンジして新録し、ここが初出となる新曲も4つ収めた15曲入りのベスト盤だ。歌唱などメンバー個々の力量も、ブレーンたちの音楽性も、明らかに進化の余地とポテンシャルを残していることに何とも言えない気持ちになるが、そもそも5人時代最後の作品だった昨年の『CARTA』すら無邪気に聴くことができていないのに、この力作をどう楽しめばいいのか。思わせぶりなアートワークに包まれて、また忘れられない音楽が残ってしまった。