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新しい日が始まる

 一方、MVも撮られたリード曲“Labyrinth”はRillsoulの作曲/編曲。以前“guilty pleasure”でも演奏していた平岡タカノリ(ドラムス)、角谷光敏(ベース)、小林洋介(トランペット:Calmera)に加え、ライヴでバンマスを務めるクマガイユウヤ(ギター)の小気味良いプレイも交えたジャジーなバンド録音が、幻惑的で新しいHALLCA像を妖しく浮かび上がらせている。

 「アルバム全体のバランスを見た時にバンド曲が欲しくて、Rillsoulさんに〈バンド〉っていうワードだけ伝えて作っていただいたのが“Labyrinth”で、Rillさんが仮歌で付けてたメロが好きだったのでそのまま活かさせてもらいました。いつもバンマスしてくれてるクマちゃんと音源で初共演できたのも嬉しいし、たくさんの人が関わってくださって、その意味でも濃厚になったと思います。歌詞は〈こういう一面もあるんだよ〉みたいな、大人な感じ(笑)。人間は一人一人がラビリンスみたいに入り組んでるけど、自分から相手に迷い込んでいくことで人生経験が深まっていくというか。出会いと別れ、愛について歌ってる曲ですね」。

 Rillsoulはさらにもう1曲、Blackstone Villageとして“Fall Back Asleep”を手掛けており、こちらは幻想的でディープなダンス・トラックになっている。

 「現実で会えない人に夢の中で会おうっていう、ちょっと切ない恋愛の曲ですね。曲自体はコードを変えたりしながらこの形に落ち着いて、作るのに凄い苦労したんですけど、今回のアルバムではいちばんドリーミーな感じを表現できたと思います」。

 さらに“Strawberry Moon”はシンガー・ソングライターのkiarayuiと共作したコラボ曲のHALLCA版。高校時代からの親友で近年はライヴのコーラスも務める間柄ながら、音源での共演はこれが初。シンセの煌めく繊細な原曲に対し、ここではPellyColoの手腕によってエレガントな意匠に様変わりしている。

 「私の参加したkiarayuiちゃんのヴァージョンが去年の4月に出て、その後に私のも出す話だったんですけど、コロナで予定が組めなくて〈入れるならセカンド・アルバムやな〉と思ってました。yuiちゅん主導でまとめてくれて、歌詞とかメロを投げ合いながら一緒に作った曲です。昔からめっちゃ仲良くて、〈うちらって太陽ってよりは月やん〉みたいな話をしてたので、そこから〈月〉とか〈光〉の描写が多い内容になりましたね」。

 そして雨上がりのような幸福感でアルバムを締め括るのは、「いちばん歌詞を読んでほしい」という先述の“Twisted Rainbow”。過去を踏まえた現在の目線から未来への希望を描いた歌詞は書かれた当時の素直な心情だとして、いま聴くとまた違った角度から前向きな救いの言葉のように響いてくる。

 「上手くいくことだけじゃない人生なのはみんなそうだと思うけど、やっぱり虹で締めたいなと思って最後の曲にしましたね。今回は一曲一曲に凄い気持ちを込められたし、全体にも思い入れが凄く強いアルバムになりました。全然まだ〈完璧!〉っていう感じではもちろんなくて、その気持ちが次を作り続けたいという意欲に繋がると思うんですけど、いまはホントに100点あげたいぐらい(笑)満足度が高いです。自分でアレンジャーさんやデザイナーさんとやりとりして、マスタリングやジャケの入稿まで私が進行したので、そこも前との違いですね。〈もっと良くなるんじゃないか〉みたいな欲が出てきて、どこで終わりにするか自分でジャッジする苦しさもあったけど(笑)、いままで以上に〈作った!〉って思えます」。

 先述のヴァイナル『Private Paradise』に続いてcpnnnが手掛けたアートワークも実に鮮やか。海上の空港をモチーフに、ヤシの木やストレリチアが配されているのも印象的だ。

 「ジャケの空は色味も凄いこだわっていて、夕方じゃなくて朝の空になるんです。飛行機がちょうど飛ぶ5時半ぐらいっていう設定が自分の中であって。これから新しい日が始まって〈PARADISE GATE〉に向かうよ、みたいなワクワク感を詰め込んだ空の色にしました。私、朝がいちばん好きなんですよ」。

 現実から離陸するための特別な招待状。新しい日が始まって、楽園へのゲートはここに開かれている。

HALLCAの作品。
左から、2018年のEP『Aperitif e.p』(WAVERIDGE)、2019年のアルバム『VILLA』(Magellan-Blue)

 

左から、Tsudio Studioの2020年のシングル“Promise of Summer”(Hiraeth)、kiarayuiの2020年作『MOONLESS』(Words Studio)、はるかりまあこの2021年のEP『TERMINAL』(HKM Project)、Calmeraの2021年作『誰そ彼レゾナンス』(B.T.C.)