〈女優シンガー〉というカテゴリを設けてみたとき、なかでも柴咲コウは、もっとも目覚ましい前進を見せているアーティストのうちのひとりと言えるだろう。精力的かつコンスタントに音楽業を展開し、この分野でも確かなポピュラリティーを獲得。その一方で、クリエイターのDECO*27TeddyLoidらとのユニット=galaxias!に顕著に表れているような、ある種のオルタナティヴなアプローチを端々に注入してくるところもおもしろい。女優業さながらに、シンガーとしても多彩な表情を持ち合わせ、さまざまな層のリスナーを魅了し続けるその足取りは美しく、頼もしい。

柴咲コウ 蒼い星 Colourful(2014)

 そんな彼女が、レーベル移籍第1弾となるニュー・シングル“蒼い星”をリリースする。7月にスタートした島本和彦原作のTVドラマ「アオイホノオ」のエンディング・テーマに起用されている表題曲は、柴咲とは初の顔合わせとなるJeff Miyaharaがプロデュースを担当。新体制での第一歩に相応しい正攻法のバラードに仕上がっており、エモーショナルなドラマを丁寧に描くヴォーカルに強く胸を揺さぶられる。エレピやストリングスが織り成すアンサンブルの、壮大でありながら決して大仰ではない端正な佇まいも魅力的。彼女の代表曲のひとつとして名を連ねることになるであろう名曲だ。

 カップリングの“summer day”は爽やかで軽やかなリズムが心地良いミディアム・チューン。表題曲の詞はカミカオルとの共作だが、こちらは柴咲がひとりで作詞を担っている。これまでも多くの詞を手掛けてきた彼女だが、ここでは〈出てきたよ 夢に きみのぬくもりに ハッとしたよ baby〉といった具合に真っ直ぐな感情を綴り、瑞々しいラヴソングに仕立てている。気を衒うことのないピュアネスに、誰しもがキュンとさせられるはずだ。

 そして、ラストの“涙は宇宙に降る”はぺぺろんPの手によるアグレッシヴなナンバーで、歌い手としてクレジットされているのは、なんと柴咲本人ではなく〈ギャラ子〉。このギャラ子とは先述のgalaxias!の活動のなかから生まれたボーカロイドで、柴咲の声を元に制作されたことが先頃あきらかになったばかり。ロボティックな抑揚でダイナミックなメロディーをなぞっていく様が、前2曲の情感豊かなパフォーマンスとの強烈なコントラストを生み出しており、それがすこぶる楽しい。彼女の作品ではかつてない実験的な試みだし、当人のオルタナティヴな趣味がここにも反映されていると言えるだろう。

 シンガーとしての力量を力強く提示しつつ、時に可憐な表情を見せたり、ニヤリとさせられる仕掛けを施したり……柴咲コウの多面性を3曲に詰め込んだ本シングルだが、これらもまだ彼女の一側面でしかないのは、これまでの作品群からしてもあきらか。ここを起点にして、これからどんな歩みを見せてくれるのかにも大いに期待したいところだ。

 

▼関連作品

ぺぺろんPの2012年作『ReFraction-BEST OF PeperonP-』(HPQ)

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▼Jeff Miyaharaが関わった近作を紹介

左から、BoAのニュー・アルバム『WHO'S BACK?』(avex trax)、w-inds.の2014年作『Timeless』(ポニーキャニオン)

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 ここでは柴咲コウの音楽活動を駆け足で紹介。2002年に“Trust my feelings”でデビューした彼女は、2003年にRUI名義で発表した“月のしずく”を皮切りにヒットを連発。2007年までに発表した15枚のシングル曲はベスト盤『Single Best』(ユニバーサル)でチェックを! その後も順調にリリースを重ね、2011年はロック色を強めた5作目『CIRCLE CYCLE』(同)とgalaxias!としての初作『galaxias!』(同)を発表。翌年の6作目『リリカル*ワンダー』(同)には奥田民生渡辺シュンスケも参加しました。ジュノ・リアクターとのコラボも話題となった2013年は、福山雅治とのKOH+名義で5年ぶりの新曲“恋の魔力”を発表。ドラマ「ガリレオ」関連のコンピ『Produced by Masaharu Fukuyama 「Galileo⁺」』(同)に収録されたほか、同年のツアーでも披露されました。その模様は「Ko Shibasaki Live Tour 2013 ~neko's live 猫幸 音楽会~ Neko's Special Book & DVD」(同)で確認できます! 明けて2014年は、内澤崇仁androp)との3度目のタッグ曲“ラブサーチライト”(同)も発表しています。 *bounce編集部

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