さまざまな音楽のテイストをしなやかに吸収して独創的な進化を続ける若きシンガー・ソングライターの新境地――猟奇的な愛の渇望を表現したニュー・シングルが登場!

曲を届けるということ

 第60回グラミー賞(2018年)の最優秀レコード部門にノミネートされたルイス・フォンシ“Despacito”のソングライター、マーティ・ジェイムズとの共作による“R.O.C.K.M.E.”で注目を集め、昨年7月にEP『Departure』でメジャー・シーンに登場した川口レイジ。現在進行形のグローバル・ポップと同期したトラックメイク、滑らかなグルーヴと豊かな感情表現を含んだヴォーカリゼーションは、音楽シーンに鮮やかな衝撃を与えた。デビューの準備のため、日本とLAを行き来しながら制作を続けてきた川口も、自身の楽曲がリスナーに浸透していることを少しずつ実感しているようだ。

 「デビューが去年の7月末だったので、下半期にいろんなことが一気に動き出して。音楽活動に対する意識も変わってきましたね。以前はとにかく自分たちが好きなもの、いいと思うものを作っていたんですが、デビュー後のライヴ、インストア・イヴェントなどを通してリスナーの顔が見えるようになって。いまは制作の段階から〈この楽曲を届ける〉ということを意識して制作しています。一貫しているのは、自分の声や内面を表現できる音楽を作りたいということ。それを軸にしながら、リズムやアレンジなどで新しいテイストを吸収している感じです」。

 昨年末に原点であるストリート・ライヴを大阪で行い、FM OH! 85.1ではパーソナリティーを務めるラジオ番組「E∞Tracks Selection ~川口レイジのradio K~」もスタートするなど、活動の幅を拡大している川口。その音楽表現の広がりは、このたびリリースされるファースト・シングル“I'm a slave for you”からも明確に伝わってくる。表題曲はYui Mugino(milet“us”などを手掛けるシンガー・ソングライター)、Ryosuke“Dr.R”Sakai(中島美嘉、ちゃんみな他)とのコライトによるナンバー。ファットにしてしなやかなベースラインや美しい浮遊感を湛えたシンセ、洗練されたメロディーラインが一つになったミディアム・チューンだ。

川口レイジ I'm a slave for you ARIOLA JAPAN(2020)

 「ベースラインが決まった時点で楽曲の方向性が見えて、それをループさせながらメロディーを作っていきました。ベースと歌でデュエットするようなノリもあるし、曲の核になる部分がはっきりしていれば、あとはスムースなので。ジャンルは特に意識せず、好きな要素をミックスしている感覚ですね。オシャレで洗練された雰囲気と攻撃的なところが混ざっているので」。

 〈I'm a slave for ya 飽きるまで I promise I'll try 痛いくらい踏みつけて〉の一節に象徴される、女性に跪き、愛に縛られることを望む男性心理を表現した歌詞もインパクト十分だ。

 「この曲はドラマ『この男は人生最大の過ちです』の主題歌で、まず原作のマンガを読んで、印象に残ったシーンをスクリーンショットに残していったんです。1話目から〈僕を奴隷にしてください〉というセリフが出てきたり、ちょっと猟奇的な部分もあるんですが、ストーリーの中で共感できる部分をピックアップしながら詞を書きました。ドラマのイメージに寄せることを考えても、これくらい強い言葉のほうがいいかなと。以前は当たり障りのない言葉を選ぶようなこともあったんですが、今回はリスナーに向かってドン!と伝わるフレーズを意識していて。小難しい言葉を歌っても響かない気がするし、できるだけ飾らず、背伸びしない歌詞にしたかったんですよね」。

 倒錯した恋愛像を描いた歌詞を、あえて抑制を効かせたヴォーカルで表現しているのも、この曲の魅力。感情を露わにしすぎず、クールな雰囲気を保つことで、その奥にある危うい感情を際立たせているのだ。

 「例えば、悲しい曲を凛としたイメージで歌ったり、ギャップを作るのが好きなんです。“I'm a slave for you”の場合は、歌詞の世界に寄り添いすぎず、あまり感情的にならないように歌っています。まっすぐに歌うことで、猟奇的な感情を表現したかったので」。

 

自分にはいろいろな面がある

 2曲目には、Carlos K.(AKB48、西野カナ他)と共作した“STOP”を収録。「この曲もドラマを意識して制作しました。“I'm a slave for you”が〈ドM〉だとしたら、こちらは女性を手に入れたいと渇望する男の気持ちですね」というこの曲は、エレクトロ、ハウス、インディーR&Bなどのテイストを織り交ぜながら次々とシーンが移り変わっていく、起伏に富んだ構成で、川口のクリエイターとしてのセンスが反映された楽曲と言えるだろう。

 「Carlos K.さんは『Departure』にも参加してくれていて、デモも含めて何曲も一緒に作っているから、すごくやりやすいんです。ただ、スーッと流れるように作ってしまうと淡々とした印象になりがちなので、アレンジやサウンドメイクはかなり凝っていますね。工場で作るのではなく、ハンドメイド感を大事にしたというか」。

 さらにUKのイアン・ファルカーソン、ジェズ・アシュハーストとJeff Miyahara(JUJU、SHINee他)とのコラボで、女性を〈映画のスター〉に例えたロマンティックな歌詞も魅力的な“MOVIE”、そしてJunichi Hoshino(あいみょん、V6他)との初タッグで臨んだバウンシーな“Be mine”を収録。ベース、キック、歌を中心に、低音を強く押し出し、ダンス・ミュージックとしての機能を高めたサウンドメイクもさらにクォリティーを上げている。

 「いまのリスナーはスマホなどで聴くことも多いし、低音をキレイに聴かせるミックスはかなり難しいんですが、トップ・クリエイターの皆さんと制作するなかで少しずつノウハウを学んでいます。どの曲もそうなんですが、音数を増やすのではなくて、軸になる音を決めて制作することが多いですね。ストリーミングが浸透しているので、海外のすごい楽曲と並べて聴いても差を感じさせないサウンドにしたいんですよね」。

 3月27日には東京・TSUTAYA O-nestで初のワンマン・ライヴ〈Kawaguchi Reiji 1st One-Man Live「Departure」〉の開催も決定。海外のシーンとリアルタイムで重なりながら独創的な進化を続け、既存のJ-Popをアップデートする可能性を秘めた彼の存在は今年、さらなる飛躍を果たすことになりそうだ。

 「いまはワンマンに向けて準備を進めていて。マニピュレーター、ギタリスト、ドラマーと一緒にやろうと思っていて、歌でメッセージを伝えるシンガー・ソングライター的な場面も、お客さんと一緒に思い切り盛り上がれる場面も作りたいし、パフォーマンスの質も上げていきたいです。自分にはいろいろな面があるので、それを活かしながら、自分にしかできないエンターテイメントを見せたくて。そのためにも、今年は曲をどんどん出したいですね」。

 


【ライヴのお知らせ】

Kawaguchi Reiji 1st One-Man Live「Departure」
3月27日(金)東京・TSUTAYA O-nest(OPEN 19:00/START 19:30)