
ポジティヴな歌心を纏ったメッセージとミクスチャー感覚に溢れた心地良いサウンド――揺るぎなく〈My Way〉を貫いた二人の足取りを『The Best』で改めて体感しよう!
再評価を集める二人の軌跡
Def Techからベスト・アルバム『The Best』が届けられた。YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で披露した動画が2700万回以上再生されている代表曲“My Way”(コメント欄には〈変わらない歌唱力と静かな熱量に震えた〉〈受け継がれていくべき曲〉といった言葉が数多く寄せられている)から、東京オリンピックの開会式/パラリンピックの閉会式に出演したドラマーの酒井響希をフィーチャーした“おんがくMUSIC”までを収録した本作。2020年で結成20周年を迎えた二人のキャリアを網羅すると同時に、独創的なミクスチャー感覚に溢れた音楽性、都市と自然を行き来しながら描かれる世界観、そして、どんな状況であっても本質を見失うことなく、前向きな意志を示す姿勢が強く刻まれた作品だ。

2001年にMicro、Shenによって結成されたDef Techが世に出たきっかけは、“My Way”だった。MicroとShenが出会った直後に制作されたというこの曲は、二人のアカペラによる〈Def Tech sound Shen and Micro 'round singing on and on and on/地に足付け 頭雲抜け 進む前に前に前に〉から始まる。さらにアコギの美しい響き、タイトでシンプルなトラックが加わり、ヒップホップとレゲエ、ハワイアンが混ざり合うようなアレンジとフロウによって、〈劣等感や嫌悪感を吐き出し、自分らしく未来に進んでいこう〉というメッセージを放つこの曲は、幅広い音楽ファンに口コミで伝わり、2005年を代表するヒット・チューンになった。同曲を含むファースト・アルバム『Def Tech』は、170万枚以上のセールスを記録、瞬く間にブレイクを果たすことになる。ルーツ・ミュージックを融合させたスタイル、自然体でポジティヴな意志を注ぎ込んだリリック、二人の個性をぶつけ合いながら共存させたヴォーカル/ハーモニーを含め、“My Way”にはDef Techのすべてのエッセンスが込められていると言っていいだろう。
さらに“Lokahi Lani”(2005年作『Lokahi Lani』収録)、“Power in da Musiq ~Understanding”“Catch The Wave”(2006年作『Catch The Wave』収録)などのヒット曲を次々と放ったDef Techだが、急激なブレイクに伴うストレス、ヒットを期待されるプレッシャーといった要因により二人の関係性が良好に保てなくなり、2007年には解散を発表。CDデビューからわずか2年で最初の終焉を迎えてしまったのだ。
リユニオンと大きな転換点
そんなMicroとShenがふたたび邂逅したのは、2009年の終わり頃。Shenに子どもが生まれたことをきっかけに再会した二人は、〈この子のために子守唄を作ろう〉と制作をスタート。その際に生まれた“Rays of Light”を収めたアルバム『Mind Shift』(2010年)を引っ提げてリユニオンを発表した。
トライバルなビートに乗せ、Def Techの帰還をダイナミックに歌い上げる“A-1”、オーガニックな音響と優しく穏やかな歌声で〈冷たすぎるビル風に凍えて肩を寄せる/二人の雲間に差し込む木漏れ日〉というフレーズを紡ぎ出す“Rays of Light”などを含む『Mind Shift』は、もちろん彼らのキャリアにとって大きな意味を持っている。アルバム『Powers of Ten』のインタヴューの際にMicroは「この10年は『Mind Shift』して、何事も〈とにかくやってみてから考えよう〉と切り替えられるようになったんです」と語っているが、このアルバムによって彼らは、さらにポジティヴな姿勢を身に付け、本当に必要なものに向かって生きる智慧を得たのだと思う。
その後も地球と共に生きることの大切さを描いた“All That’s In The Universe”、愛する人に向けた温かい思いをストレートに綴ったヒップホップ・チューン“My Baby Love”など、豊潤なサウンドと普遍的なテーマを兼ね備えた楽曲を生み出し、みずからの音楽世界を広げ、深めてきたDef Tech。再結成後のターニングポイントとして挙げたいのは、アルバム『24/7』(2013年)に収められた“Bolero”だ。モーリス・ラヴェルの〈ボレロ〉を想起させるリズム、美しい透明感と大らかなスケールを同時に体感できるメロディーが共鳴するこの曲の背景にあるのは恐らく、繰り返し起きてしまう災害、深刻さを増す環境問題や経済的格差。時代はますます暗くなり、人々は癒えることのない傷を抱えながら生きている。しかし、それでも僕たちはすべての感覚を楽しみ、強い気持ちを持ちながら歩き続けなくてはいけない――。“Bolero”から伝わる真摯なメッセージは、10年代以降のDef Techの指針になっていると言っていい。なお、2021年の11月には“Bolero”の対訳リリックビデオ、Billboard Live Yokohamaでのパフォーマンス映像もアップされているので、ぜひチェックしてほしい。
時代の流れに左右されない価値
サーフ・カルチャーを愛し、海と都市を行き来しながら生活しているMicro、Shenの日常がさらに色濃く反映されているのも、10年代以降の彼らの音楽の特徴だろう。最新オリジナル・アルバム『Powers of Ten』に収録された“Like I Do”は、ハワイのサーフィンの歴史をテーマにしたハワイ州観光局制作のドキュメンタリー番組 「WORLD SURF JOURNEY ~ROOTS OF HAWAII~」のテーマソング。そして“Surf Me To The Ocean”はサーフィン競技の日本代表チーム〈NAMINORI JAPAN〉の公式応援ソングだ。サーフィンが初めてオリンピック正式競技になったこともあり、これらの楽曲への注目度も大きく上がった。チルポップやローファイ・ヒップホップの流れを汲むトラックメイク、心地良いリラクシンをたっぷりと含んだメロディーやヴォーカルも現在のDef Techのモード。そう、彼らはいまもナチュラルな変化と進化を繰り返しているのだ。
コロナ禍においてもPositve Mental Attitudeを貫き、新作の発表、有観客ライヴと能動的な活動を継続。冒頭で触れたようにデビュー20周年のタイミングで既存のヒット・チューンにもふたたび光が当たり、SPiCYSOL、変態紳士クラブ、OZworldといった下の世代のアーティストとの交流も活性化されるなど、ここにきてさらに注目度を高めている。これまでの軌跡が刻まれたベスト・アルバム『The Best』は間違いなく、彼らの音楽の再評価と再発見、そして、まだDef Techを知らないリスナーとの出会いに繋がるはず。〈いま〉を見つめつつ、時代の流れに左右されない価値を照らし出す彼らの音楽。その真価をぜひ、じっくりと体感してほしい。
Def Techの作品を紹介。
左から、2005年作『Def Tech』(iLLCHiLL)、2005年作『Lokahi Lani』(TENSAIBAKA)、2006年作『Catch The Wave』(Jawaiian Style)、2010年作『Mind Shift』、2011年作『UP』(すべてEUNTALK)、2013年作『24/7』(EUNTALK)、2015年作『Howzit!?』、2016年作『Eight』、2018年作『Cloud 9』、2020年作『Powers of Ten』(すべて2VOX/Village Again)