結成20周年、デビュー15周年を迎えたふたりが届ける、10曲入り10枚目のオリジナル・アルバム! 先の見えない時代をリラックスしながら生き延びるためのポジティヴなパワーがここには溢れている!
ありがとうと素直に思える
サーフ・ロック、ヒップホップ、ハワイアン、レゲエなどを融合させたサウンドメイク、〈幸せ〉や〈自由〉〈愛〉〈大切な人との繋がり〉といった本質的なテーマを掲げたリリックによって、日本の音楽シーンで独創的なポジションを獲得してきたDef Tech。2005年のファースト・アルバム『Def Tech』が200万枚以上のセールスを記録するも、MicroとShenの衝突によって2007年に解散、2010年に再結成、と変化の激しいキャリアを重ねてきたが、ここ数年の彼らは――基盤であるサーフ・カルチャーにどっぷり浸りながら――マイペースで活動を続けている。
「Shenとはとにかく仲が良くて(笑)。昔は制作のたびに大喧嘩していて、RIZEの“Vibration”(2002年)という曲のレコーディングでは、Jesse(RIZE)に〈歌う気がないなら帰れよ!〉って怒られたこともあって。それくらいぶつかってたんだけど、この10年は『Mind Shift』(再結成後の第1弾アルバム)して、何事も〈とにかくやってみてから考えよう〉と切り替えられるようになったんです。仲が良すぎて、なかなか曲が出来ないのがジレンマですね。お茶しながら3~4時間しゃべって、〈今日も充実してたね〉って日もあるので(笑)」(Micro:以下同)。
結成20周年、デビュー15周年を迎え、「いちばん心が安定しているし、穏やかに音楽をやれている。奇跡ですね」と笑顔で語るMicro。その気分は通算10作目となるニュー・アルバム『Powers of Ten』にも強く反映されている。先行曲“Like I Do”を含む本作の基調は、ローファイ・ヒップホップ~チルホップの潮流。穏やかでゆったりしたグルーヴ、メロウでリラックスしたラップは、現在の彼らのモードそのものだ。

「20代の頃は反骨心の塊で、どんなにメロウな曲でもどこか殺気立ってたと思うんですよ。どこにいてもアウェイだと感じていて、ライヴも〈全員ぶっ倒してやる〉みたいな気持ちで挑んでたので。でも、いまはそういう音楽をやりたくないし、僕自身も聴きたくない。こうやって話しているのと同じような声色やトーンで歌いたいんですよね。それはきっと自分を受け入れられるようになったからだと思う。ファンのみんながDef Techの音楽を好きでいてくれるのも実感できてるし、〈ありがとう〉と素直に思えるので。サウンドに関しては、チルホップ系の影響があるかも。最近だとショパンというアーティストの“Mellow Mornings”という曲を海に行くときの車のなかでいつも聴いてたりします」。
波の音から始まるチルな音像と〈ここのところ疲れもピーク/ならばいっそのことLet's go the beach〉という歌詞が溶け合う“Surf Me To The Ocean”で始まるアルバム『Powers of Ten』。都会と海を行き来しながら紡がれたリリックは、彼らの生活に根付いていることはもちろん、ストレスフルな日常を強いられている人々に多くの気づきを与えてくれそうだ。
「僕自身も東京に住んでいて、時間があればこうやって海に来て(註:取材は千葉の海岸からリモートで行われた)、ストレスをリリースして。海と都会の行き来という意味では、カリフォルニアも日本も同じですからね(笑)。そこで聴きたいのはゴリゴリのロックではないし、夕焼けにはやっぱりケニーGの“Forever In Love”が似合うし。“Surf Me To The Ocean”もそうですけど、これほど音楽とサーフカルチャーが融合しているのは、日本だと珍しいと思います」。
本物が求められる時代になる
〈SNSからFace 2 Face〉というラインが突き刺さる“Face 2 Face”、スマホやタブレットを介して架空の自分を演出する社会を風刺した“Instabation”など、アルバム前半には強いメッセージを含む楽曲が並んでいる。このことについてMicroは「僕の日本語の歌詞からアルバムが始まるのも今回が初めてなんですけど、それは自分に言いたいことがあったから」と説明する。
「いまの社会の現状も大きく影響しているでしょうね。コロナ禍があってリモートワークが普及したり、いいこともあるんだけど、特に若い子たちはもうSNSに疲れてしまっていて。加工した自分になろうとして、苦しんでる人たちもいますからね。この先は〈リアル〉〈本物〉を求める方向に振り切るのは間違いないと思います。SNSにハマっている人たちも必ず〈やっぱり本物は違う〉という価値を必要とする。その時に僕らが何を見せられるかですね」。
一方で、YAYをフィーチャーしたアルバム後半の“Make Some Noise”は、初期のDef Techを想起させるアッパー・チューン。90年代半ばのヒップホップを強く感じさせるトラック、〈騒げ!〉と観衆を煽るようなラップのもたらす躍動感が気持ちいい。
「Shenのスタジオで〈一発かましたいんだよね〉と聴かせてくれたのが、この曲のトラックで。こういう曲があることで、他の曲がさらに映えて、アルバムのヴァリエーションも広がったと思います。お互いにジュラシック5を聴いて育ったし、『ワイルド・スタイル』にも刺激を受けたし、ストリートも経験してきて。僕は95~96年あたりのヒップホップが最強だと思ってるんですけど、“Make Some Noise”にもそういう雰囲気がありますね」。
さらに〈君といる時のこの僕が好き〉というパンチラインに心を掴まれるラヴソング“I Like Me(Day Time)”、5年前にハワイのスタジオで録音したというオーガニックなバラード“Best Days”、ハワイアン直系のサウンドとダンスホール・レゲエが結びつき、〈その痛み悲しみ/そう長くは続かないから〉と語りかける“All I Want Is Your Love”などを収録。アニヴァーサリー・イヤーを飾る『Powers of Ten』は、彼ら自身にも確かな充実をもたらしているようだ。
「いつも行くビーチでかけても、みんなすごく盛り上がってくれて。ファースト・アルバムに似た初期衝動があるというか、〈聴いて聴いて〉って純粋に思えるのがすごく良かったなって」。
今後のヴィジョンについて「ハワイにも恩返ししたいし、世界に打って出たくて。過去の成功体験は幻みたいなもの。40代から50代に向けて、世界に向かう基盤を築いていきたい」と語るMicro。その原動力となるのは商業的な成功ではなく、〈人を楽しませたい〉というピュアな欲望だ。
「エンターテイメントの世界で成功するというより、エンターテインしたいんですよね。曲を聴いてくれる人やライヴに来てくれる人を喜ばせたいし、もてなしたい。この10年はずっとそんな感じだし、僕ら自身もそれが楽しいんです」。
20年かけて変化してきた二人の15年をおさらい
東京出身のMicroとハワイ育ちのShenが出会い、2001年に始動したDef Tech。RIZEやBENNIE-Kらの曲でフィーチャーされ、2005年1月にファースト・アルバム『Def Tech』でデビューを果たした。その収録曲“My Way”がCMなどで話題となり、アルバムは数か月かけてチャート首位まで上昇するミリオン・ヒットに。同年6月には早くも『Lokahi Lani』を発表し、年末にはインディー・アーティストとして初めてNHK紅白歌合戦に出場するなど一気にブレイクを果たした。翌年には同名映画の挿入歌も含むサマー・ムード満載の3作目『Catch The Wave』がNo.1ヒットを記録するも、急激な成功の裏でメンバー間に〈音楽的な方向性の違い〉が生じ、2007年9月には解散が発表される。
それに先んじて初ソロ作『Laid Back』を出していたMicroに対し、E.D.O.で活動したShenもソロ作『SOLAIRO』を2008年にリリース。それぞれに動いていた両者だが、2010年に活動再開を宣言し、完成させたのが4作目『Mind Shift』だ。そこを転機として以降も意欲的にアルバムを重ね、このたびの『Powers of Ten』で実に10枚目を数えている。リユニオン以降も個別の動きは揃って活発で、Shenはジェイク・シマブクロをはじめ、AWAやFUKI、ウクレレ奏者の名渡山遼らと自由にコラボ。一方のMicroもV6への楽曲提供やLisa Halim、TEEらとコラボを重ね、今年に入ってからはlolの“work it out”をプロデュースしたばかり。21年目のDef Techはもちろん、各々の活躍にも期待したい。 *轟ひろみ
Def Techの作品とメンバーの参加した近作を紹介。