網膜を刺激する〈作品〉をとおした先の音・音楽を想像する展覧会

 「せたがや音楽通信」、略して「せたおん」という情報誌がある。世田谷区内の音楽情報を掲載しているもので、2015年に創刊。冊子だったが、いまはネットでも。このなかに、〈音楽と美術〉〈音楽と本〉のページがあって、世田谷美術館と世田谷文学館の学芸員がそれぞれ執筆、どちらも目利きの視点があって、何かしら発見があり、たのしみな記事になっている。この〈音楽と美術〉のシリーズがひとつの展覧会に発展したのかな?とおもわせられるのが、世田谷美術館の企画展〈ART / MUSIC わたしたちの創作は音楽とともにある〉だ。

 ポイントは〈音楽とともに〉だ。美術家と音楽とのさまざまなつながりがここではクローズアップされる。美術家だって生身のヒト、音楽とのつながりだって日常にある。当然は当然だが、音楽が創作とつながっている、そこまでではないけど、美術家の心身と音楽はけっこう切り離せなそうだよ、というようなところに注目できよう。展示されるのは20世紀になって以降の作品だが、やはり音楽が誰にとっても身近になった時代ゆえの、か。ヴァイオリンを弾き、作曲もしたアンリ・ルソーから、アール・ブリュットで近年あらたに注目を集め、みずから創作楽器も手掛けたジャン・デュビュッフェ、詩人・瀧口修造を中心に音楽家と美術家が集まった〈実験工房〉に参加した駒井哲郎、バンドを組んでいた大竹伸朗やジャン=ミシェル・バスキア。レコードのジャケットも忘れられない。ロバート・ラウシェンバーグ、ポール・デイヴィス、矢吹申彦、横尾忠則。

 世紀があらたまったあたりから、美術館でも音・音楽系の展覧会がすこしずつあらわれてきた。ごく最近ではアート千代田3331でおこなわれた〈サウンド&アート展 – 見る音楽、聴く形〉があったし、ほぼ10年前には東京都現代美術館で〈アートと音楽 – 新たな共感覚をもとめて〉が開催された。あらためて強調するまでもなかろうが、ミュージアムの語は、音楽のミュージックとともに、美術の女神たち、ミューズに由来する、いわばおなじもの、姉妹。このようなかたちで音・音楽が美術館にはいってゆくのは、ごくごく自然といっていい。

 サウンドとアートとが結びつく企画とはべつに、静謐な美術館での鑑賞は、みずからの内なる音・音楽が担保されてもいる。それゆえに、と言い換えてみようか――〈ART / MUSIC〉展、音楽はここにないかもしれないが、網膜を刺激する〈作品〉をとおした先の音・音楽を想像する展覧会、音・音楽がないなかでどれだけみているひとたちに音が透視できるかを挑発する展覧会になるだろう。

 


EHIBITION INFORMATION
ART/MUSIC わたしたちの創作は音楽とともにある

2021年12月4日~2022年4月10日(日)東京・砧公園 世田谷美術館
展示作家:ジャン=ミシェル・バスキア/大竹伸朗/A.R.ペンク/マルティン・キッペンベルガー/アンリ・ルソー/アドルフ・ヴェルフリ/サカ・アクエ/ジャン・デュビュッフェ/カレル・アペル/オスヴァルト・チルトナー/ロバート・ラウシェンバーグ/草間彌生/荒木経惟/駒井哲郎/中林忠良/ミルトン・グレイザー/ポール・デイヴィス/矢吹申彦/横尾忠則
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/collection/detail.php?id=col00112