蓮沼執太フルフィル『フルフォニー|FULLPHONY』複数の人生の重なり合いを表現する〈新世代の合奏〉

2020.08.28

いろんな音が聴こえてきてたのしい! 初めて本作を聴いたとき、私はついそんな子どものような感想を抱いてしまった。だが子どもが発する素朴な感想というのは、ときに鋭く核心を突くものだ。私の幼稚な感想も、存外バカにしたものではないのかもしれない。

横尾忠則の手になるアートワークから開けるのは、開放的なポップ・ナンバー“windandwindows”、“FULLPHONY”と名付けられた四楽章構成の組曲、そしてそれらのリミックスからなる世界。大人の顔に戻り、改めてじっくり聴いてみても、やはりそこに織り込まれた音の多彩さ・豊かな響きに感嘆せずにはいられない。

サックス、フリューゲルホルンなどの管楽器やヴァイオリン、ヴィオラなどの弦楽器、スティール・パン、マリンバなどの打楽器の音色が幾重にも層をなす柔らかなサウンドからは、蓮沼執太が本作において〈いろんな音が聴こえてくる〉という状態を極めて精緻に作り上げようとしたことがうかがえる。

そもそも蓮沼執太フルフィルは、蓮沼が指揮する〈現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ〉である蓮沼執太フィルに、オーディションで選ばれた10名の新メンバーを加えた総勢26名からなる、かなりの大所帯グループだ。その結成意図およびヴィジョンについて、蓮沼は以下のように語っている

「人が合奏する」ということは、そのひとの人生を「音」として重ね合わせることです。26人で重ねた音楽を多くの人々に感じ取って欲しいです。メンバーそれぞれが多様なジャンルの音楽の道を歩み、いま蓮沼執太フルフィルの場に集います。人々が集い音を奏でる「新世代の合奏の形」です。

複数の人生の重なり合いを表現するものとしての音楽。この蓮沼のヴィジョンは、ceroが2018年に発表したアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』のコンセプトを想起させる。ポリリズムを基調に生命の多様性を表現したこの作品と本作は、アウトプットの形こそ違えど、人間の生が一元的なものに回収されることを拒む点で共通しているように感じられる。そういえば『POLY LIFE~』もまた、蓮沼執太フルフィルほどではないものの、バンド編成としては大所帯の部類に入る8人体制によって作られていた。

さまざまな背景を持つ演奏者たちがときに交わり、ときに離れていく。その複雑な繰り返しによって紡がれた本作は、まるで世界の縮図だ。そして前半を占める“windandwindows”と“FULLPHONY”がいま立ち現れている〈この世界〉を象徴的に表しているとすれば、それらのリミックスはオルタナティヴな世界像を示唆していると言えるかもしれない。人生が多様であるのなら、そのネットワークからなる世界もまた多様な可能性に向かって開かれているのだ、というように。

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