©Danny Clinch

パール・ジャムのカリスマが11年ぶりのソロ・アルバムをリリース――強力なバンドや思わぬゲストたちを招いて作り上げた『Earthling』が表現しているものとは?

 説明不要なパール・ジャムのフロントマン、エディ・ヴェダーが11年ぶりのソロ・アルバム『Earthling』をリリースした。すでに同作を引っ提げての全米ツアーが行われており、この記事が出る頃には地元シアトル公演でファイナルを迎えているはずだ。このツアーで演奏を務めるのはアースリングスと名乗るバンドの面々。チャド・スミス(ドラムス:レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、ジョシュ・クリングホッファー(キーボード/ギター/ヴォーカル)、アンドリュー・ワット(ベース/ギター)を軸とする豪華なプレイヤー陣だ。もともと昨年9月の〈Ohana Festival〉でお目見えしたこのバンドのメンバーたちは、そのままアルバムにおいても大きな役割を果たしている。

 パール・ジャムが結成30周年のタイミングで7年ぶりのアルバム『Gigaton』(2020年)を出して以降のエディは、バンドの周年ツアーがキャンセルになってしまうなかでもアクティヴだったように思える。同じ2020年にはロックダウン期間に録音したアコースティックなソロEP『Matter Of Time』を配信、昨年はトム・モレロのアルバムでブルース・スプリングスティーンと共演し、エルトン・ジョンとのコラボレーションもあった。なかでも注目されたのはショーン・ペンが監督/主演した映画「Flag Day」(2021年)のサントラだろう。エディとグレン・ハンサードが多くの楽曲を手掛け、キャット・パワーも曲提供した同作においては、エディの愛娘オリヴィアの歌う“My Father's Daughter”や父娘で披露する“There's A Girl”も収録されて話題となった。そうした諸々の成果との相乗効果のように、今回の『Earthling』も活気に溢れた充実作に仕上がっている。

EDDIE VEDDER 『Earthling』 Seattle Surf Co./Republic/ユニバーサル(2022)

 全編のプロデュースを担ったのは、アースリングスの一員にも名を連ねるアンドリュー・ワット。ポスト・マローンからジャスティン・ビーバー、マイリー・サイラス、オジー・オズボーンまでを手掛ける当代きっての売れっ子だが、もともとパール・ジャムの大ファンだったそうで、先述の『Flag Day』やエルトン・ジョン曲でもエディと絡んでいた。そのアンドリューとチャド・スミス、ジョシュ・クリングホッファーがエディと共作する形でほとんどの楽曲は書かれており、実質的にはアースリングスという4人組バンドで密に作り上げたアルバムと捉えることもできるだろう。

 そのようにパール・ジャムとはまた異なるシンプルなバンド・サウンドを従えたエディは社会の問題から個人的な喪失、人と人との繋がりなど多様なテーマを歌う。カントリー風味の大らかさで迫る冒頭の“Invincible”では、災厄や暴力にまみれた混沌の時代に対して〈唯一のルールは冷静でいること〉と歌い、アルバムの現代性を大きく提示。エディの娘ハーパーがバック・ヴォーカルで参加した先行シングル“Long Way”はベンモント・テンチ(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ)がハモンドを弾くスプリングスティーン風味の楽曲だったが、作中にはハード・エッジなロック・チューンからスロウまで多彩な楽曲が並んでいる。さらに娘のオリヴィアがヴォーカルを添えた賑やかな“Try”ではスティーヴィー・ワンダーがハーモニカで楽曲を牽引。エルトン・ジョンを歌とピアノで招いた“Picture”では、エルトンの作法に寄せたトラディショナルなロックンロールを披露するなど、ゲストも交えてアレンジの振り幅は終盤にかけてグッと拡大していく。そしてアビー・ロード・スタジオにあるピアノ〈ミセス・ミルズ〉を題材にした“Mrs. Mills”ではリンゴ・スターのドラムをフィーチャー。ビートルズにオマージュを捧げたような曲調でクライマックスを迎える。

 エディが〈アルバムの構成はコンサートのようになっていて、終盤にスペシャル・ゲストが登場する。スティーヴィー、次にエルトン、次にリンゴと共演する。そして最後は僕の父だ〉と話すように、アウトロのような“On My Way”に挿入されるのはエディの亡き実父、エドワード・セヴァーソンJrの声だ。母親や養父との関係はパール・ジャム初期においてエディの表現のバックグラウンドになっていたが、娘も参加したソロ作において、ミュージシャンだった父との共演が実現したのはエディにとって大きな意味があったに違いない。

 〈地球人〉を意味する〈アースリング〉というタイトルから壮大なスケール感や大仰なテーマ性を勝手に連想してしまったものの、アルバムにおける表現の根本が彼自身の視点でフォーカスしたパーソナルなものであることは言うまでもない。感情の赴くままに手の合う連中と創作に集中し、そのなかで自身の血の物語までも表現した、実にエディ・ヴェダーらしい傑作だ。

左から、パール・ジャムの2020年作『Gigaton』、2021年のサントラ『Flag Day』(共にRepublic)、トム・モレロの2021年作『The Atlas Underground Fire』(Mom+Pop)、エルトン・ジョンの2021年作『The Lockdown Sessions』(Polydor)、リンゴ・スターの2021年のEP『Change The World』(UMe)