これは凄い、久々にいかんとも名状し難い音楽に出合った――今年リリースされたmizuirono_inuのセカンドアルバム『TOKYO VIRUS LOVE STORY』を聴いて、真っ先にそう思った。更にライブを体験するに至って、筆者はもう、メロメロになっている。その音楽性は、安易なジャンル分けや特定のカテゴライズを拒絶するような芯の強さがある。勿論、オルタナ、ミクスチャー、ゲーム音楽、ポエムコア、ヒップホップなど多ジャンルの断片は散りばめられているのだが、それらがひとつの方向に収斂していかないのが彼ららしさ。雑多な要素を統合することなく、混沌が混沌のまま提示されているのである。決して若手ばかりから成るバンドではないが、アンファンテリブル、とは今の彼らの為にあるような言葉ではないだろうか。

バンドは8人編成。中心となるのは主に作詞・作曲を主に手掛けるsashiと、sashiと共にバンド結成に関わったフロントマンの渡邊レイン。2016年にアルバム『Natural Beauty Skin Care』をリリースしたが、今年出たセカンドアルバム『TOKYO VIRUS LOVE STORY』ではメンバー6名が入れ替わり、演奏力やバンドとしての一体感と結束感が格段に向上。同作は既にしてマスターピースと呼びたくなる風格を備えている。もし仮に日本のオルタナティブな音楽シーンが彼らを黙殺してきたならば、なんと惜しいことだったのか――そう、遅れてきたファンの筆者なりに思うのだった。

アルバムはファーストのguns N’ girls Recordsから移籍し、world’s end girlfriend(以下WEG)が主宰するVirgin Babylon Recordsからのリリース。5月3日にはレーベルメイトでもあるVampillia、KASHIWA Daisukeを迎えたレコ発的なライブを敢行。メロディーの良さが際立つ一方で、尋常ではない音圧が地鳴りのように唸る(翌日にも耳鳴りが止まらなかった)そのパフォーマンスは、〈音楽の感動〉と〈音響の快楽〉が両立するものだった。今、他にこんなことがやれるバンドがどれだけいるだろう?

なお、彼らはこれまで、音楽媒体での公式インタビューが掲載されておらず、バイオグラフィーが曖昧なこともあり、このインタビューでは基本的な情報を含む記事にしたつもりだ。なんらかのルートで彼らのアルバムを聴いて、〈どんな人たちがやっているのだろう?〉と思ったならば、現時点ではこの記事を参照するのがいちばん正確/精確だと思う。

mizuirono_inu 『TOKYO VIRUS LOVE STORY』 Virgin Babylon(2022)

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アブストラクトヒップホップとポストロックに夢中になったAIR JAM世代

――おふたりはどうやって知己を得たんですか?

渡邊レイン「大学に入ってバンドやりたいなって思っていたら、高校の同級生がサトシ君(sashi)を紹介してくれたんです。

第一印象は〈なんかモテそうだけど、性格悪そうなやつだな〉って。服のセンスもいいし、90年代ドラマに出てくるようなイケメンでしたね。ただ、こいつやべえやつだって、1日、2日ぐらいで気付きました(笑)」

――レインさんは11年にわたってサッカーをされていたそうですが、どうやって音楽の道に?

レイン「静岡県のサッカーが強い地域の高校にいたんですけど、部活の方はまったくダメでやる気もなかったです。

そんな中、サッカー崩れが不良になってパンクとかサイコビリーバンドをやるっていう流れがあって。付き合いで彼らのライブに行ったらまさにイケてる不良たちのパーティーで、これは最高な世界に出会っちゃったなって感動しました。タバコ臭い小さなライブハウスにオシャレした男女がパンパンに居て、目をキラキラさせながら汗だくで遊んでる。

僕らって年齢的に〈AIR JAM〉世代なんですよ。だから、Hi-STANDARDにも勿論ハマったし、ライブは半袖半ズボンでモッシュするみたいな。その後、自然とハードコアも聴くようになって。NYのハードコアバンドの重鎮であるマッドボールのキャップかぶって、ライブに遊びに行くという日々でした。

数年後にはバンドサウンドに対する熱を持ったまま、周りの影響もあってアブストラクトヒップホップに流れていきましたね」

――DJ KRUSHとか?

レイン「DJ KRUSHとかDJシャドウはめちゃめちゃ聴いていましたね。その前からジュラシック5とかビースティ・ボーイズとか、そっちのノリもすごく好きだったんですけど、ヒップホップに完全にハマったのはアブストラクトなものですね」

――レインさん、僕がライブのあとに、〈モグワイを思い出した〉ってツイートをしたらすごく反応してくださいましたよね?

レイン「僕、モグワイ大好きだったんですよ。本当に。少し前のレディオヘッドもそうなんですけど、ああいう内省的な音楽にハマっていた時期がありました。アブストラクトなものと同じような時期に聴いていたかなと。2000年の初頭はポストロックに夢中になって、当時はインストばかり聴いていましたね」