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真のポップというものは

 しかし、自然な流れで参加が決まったゲストが常軌を逸したアイデアの跳躍によって、誰にも想像できない組み合わせのコラボレーションに結実。“It’s Raining”では、スコット・ウォーカーの名曲“It’s Raining Today”をサンプリングしたヒップホップ・トラック上でスティーヴン・マルクマスとディラン・カートリッジがマイクを分け合っている。

 「制作自体は自然な流れに身を任せた感じなんだけど、僕らとしてはいままで存在しえなかった曲を具現化しようという気持ちだった。“It’s Raining”は、穏やかで美しく夢見心地なサウンドが素晴らしいスコット・ウォーカーのサンプルに歪んだヒップホップのビートを加えるアイデアがまずあって。2人には〈好きにやってほしい〉と伝えたんだけど、それに対してスティーヴンは〈スヌープ・ドッグみたいなことをやってみたい〉と言ってくれたし、ディランはライヴの時に客席からお題を貰ってフリースタイルする時のようなしなやかなフロウをぴったり曲にフィットさせてくれた。そして、奇妙な組み合わせということで言えば、星野源とスティーヴン、ピ・ジャ・マが参加してくれた“Into The Sun”も、3人それぞれが異なるスタイルを持ち込みながら、最終的にはすごくナチュラルにまとまっているんじゃないかな」(ハリー)。

 一歩間違えば失敗しかねない挑戦的なアイデアとゲストがもたらす多様なエレメンツを見事に一体化させたのは、子ども心を思い起こさせる無邪気な音遊びによってもたらされたオープンマインドネス。無垢なるクリエイティヴィティーはスーパーオーガニズムの大きな持ち味であるが、前作の成功に伴う状況の大きな変化はフロントに立つ野口オロノを大いに混乱させ、その時期の心情はアーティストであることから生じる不安や孤独を描いた“Crushed.zp”からも窺える。

 「ロンドンに住んでいる時期は、メンバー以外、誰も知らなかったし、田舎育ちの私はそもそも大都市での生活に慣れなかったうえに、バンドが一気に注目されるなか、ツアーに出て、200本以上のライヴをやったり、たくさんのインタヴューを受けたり。状況の変化があまりに大きくて、頭の中が混沌として、精神的に本当に辛かった。だから、ツアー後の2021年から毎週セラピーに通いはじめて、1年かけて頭の中を整理するなかで、音楽という仕事においても、もっとプライヴェートなアート制作においても、もっと正直に、ストレスなくアウトプットができるようになっていったんです」(オロノ)。

 前作発表時に18歳だった彼女は、4年4か月に及んだ長い音楽の旅と精神的な危機を乗り越え、その言葉の端々に揺るぎない自信を感じさせる。『World Wide Pop』という本作のタイトルもその率直な響きにスーパーオーガニズムが作品に感じている大きな手応えが宿っているかのようだ。

 「例えば、ここ何年かでハイパーポップというジャンルが取り沙汰されているけど、僕らにとっては特に新しく感じないんだ。実験的な部分と親しみやすい部分のバランスが上手く取れた音楽という意味では、形こそ違えどビートルズの時代から存在しているものだと思うし、真のポップは、触れた瞬間に人生が変わってしまうようなものだと考えているんだ。例えば、僕はニルヴァーナを通して、フガジやダニエル・ジョンストンだったり、いろんな音楽を知ったんだけど、世界が広がるような体験こそがポップだと思うし、言い方を変えるなら、ポップには世界の文化が凝縮されているんじゃないかな」(ハリー)。

左から、スーパーオーガニズムの2018年作『Superorganism』(Domino)、スーパーオーガニズムの楽曲を収めた2019年のサントラ『The LEGO Movie 2: The Second Part』(WaterTower)、スーパーオーガニズムのリミックスを収めたポロ&パンの2018年作『Caravelle』(Hamburger)オロノが客演したアヴァランチーズの2020年作『We Will Always Love You』(Modular)

 

『World Wide Pop』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ディラン・カートリッジの2021年作『Hope Above Adversity』(Glassnote)、スティーヴン・マルクマスの2020年作『Traditional Techniques』(Matador)、ピ・ジャ・マの2019年作『Nice To Meet U』(Cinq 7)、星野源の2021年のシングル『不思議/創造』(スピードスター)、CHAIの2021年作『WINK』(OTEMOYAN)