曽我部恵一がニューアルバム『Memories & Remedies』を本日8月26日にリリースした。

2020年末の『Loveless Love』の発表以降、サニーデイ・サービスでの活動のほか、未発表曲集『旧市街地から』や映画「劇場」「ビリーバーズ」のサウンドトラック、音楽を担当したドラマ「それ忘れてくださいって言いましたけど。」の主題歌“そしてきみと春を待つ”などを収録したアルバム『プリンは泣かない』といった話題作を立て続けに発表し、精力的な活動を続けている曽我部恵一。今回発表された『Memories & Remedies』は、2022年7月末に新型コロナウイルス感染症に罹患した曽我部恵一が、その療養期間中に制作したアルバムだという。

『Memories & Remedies』では、自身の最大の武器である歌と言葉から離れ、抽象画を描くように音のレイヤーを塗り重ねた先に見えてくる世界が表現されている。手近にあるいくつかの楽器を使って演奏・録音されたこのアンビエント作品は、聴く者の感情の奥深い部分へアクセスし、さまざまな記憶や風景を呼び起こさせる。

“父の肖像 - Portrait Of Father”“母の住む家 - House Where Mother Lives”といった曲に冠されたタイトルは、曽我部が病床で幻視したかもしれない遠い景色を想像させる。始まりも終わりもないようなサウンドスケープの奥からは、言葉のない世界で語られる果てしのないストーリーが聴こえてくる。

高熱が続いたあと、なかば無意識に導かれながら紡いだというこのアルバムのなかには、コロナ禍における音楽のあり方についての、彼なりの模索を聴き取ることもできる。それは、個人の内に存在する愛や温もりの手触りを再確認させるものや、分断された希望を繋ぐための調和をもたらすものかもしれない。

また、シューゲイザー的なエモーションが渦巻く最終曲は、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説「コレラの時代の愛」に倣って、“コロナの時代の愛 - Love In The Time Of COVID”と題されている。そういったことから、本作は、時代に翻弄されることから逃れられない音楽家のドキュメントだとも言えるだろう。

曽我部のコメントは次のとおり。

7月の末にコロナに罹った。
40℃手前の熱が4日ほど続き、動けずモノも食べれず、こんなにきついことは、肉体的なことに限って言えば、人生であまり経験したことがなかった。

ライブもいくつか中止になってしまったし、熱が下がったらまた少しづつでも歌いはじめなきゃと思っていたが、実際よくなり始めても音楽に向かう気持ちがぜんぜん持てない。レコードをターンテーブルに載せる気持ちにもなれないのだ。
ひょっとしたらこのまま無気力な人間になってしまうのでは、と、そのことがいちばんの不安だった。いやむしろ、不安感もそこまで感じなかったかもしれない。感情が、うまく出てこないのだ。

そんな療養期間にリハビリのつもりで、これらの音楽を作った。
ただ没入することができる音の方へ、一日の少しの時間をパソコンに向かって録音した。だれに聴かせるつもりもなかった。一曲録り終えるとぐったりして、後の時間は一日中ずっと寝ていた。

曽我部恵一

特異な状況で制作されたアンビエントレコード『Memories & Remedies』。曽我部恵一という音楽家の新境地として、あるいはコロナ禍の時代だからこそ作り出されたアルバムとして、じっくりと向き合いたい作品だ。

『Memories & Remedies』の配信リンクはこちら

 


RELEASE INFORMATION

曽我部恵一 『Memories & Remedies』 ROSE(2022)

■ストリーミング/ダウンロード
リリース日:2022年8月26日
配信リンク:https://linkco.re/NRv0zvHV

■CD
リリース日:2022年9月17日(土)
品番:ROSE 299
価格:1,650円(税込)

TRACKLIST
1. Only Love
2. River Fish
3. Summer Move
4. Highway Dream
5. Portrait Of Father
6. House Where Mother Lives
7. Love In The Time Of COVID